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神殺しの獣  作者: Key-No.92
第四章 無数にある分岐点(上)
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第三十話 目的は一つ




 大草原の中を、紅羽は全力疾走していた。

 背後にはラプトルと呼ばれる魔物の()れがおり、全速力を出してもまったく引き離せない。ラプトルは翼を持たない、ワイバーンに似た容姿をした地竜種だ。

 強靭な(あご)鋭利(えいり)な牙を持ち、とにかく異常に素早い。


 ふと嫌な気配を捉え、紅羽は後方に高く宙返りする。

 ほぼ同時に二体のラプトルが交差するように進み、強烈な勢いで虚空に()みつく。あと少しでも判断が遅れていたら、さすがに無傷ではすまなかっただろう。


(このままでは、どちらにしても……)


 瞬時に周囲の観察を終え、逃走から戦闘へと移行する。

 純白の弓から漆黒の大鎌(おおがま)に転化させ、ラプトルの長い首を二体同時に()ねた。すぐ紅い大太刀に形態を変え、地に足がつくなり別の一体も斬り()せる。

 宝具の殺傷力は高く、想像以上にあっさりと始末できた。


(まずは、三体。でも……)


 まだラプトルは八体も残っている。油断などできない。

 少し前の出来事が、紅羽の警戒をより強めさせていく。

 だがそれは、仲間を討たれたラプトルも同様であった。


 ラプトル達は一様に、金色の魔法陣を口の前に顕現(けんげん)する。

 激しい雷鳴を(とどろ)かせ、そして青白い雷を全身に(まと)う。

 紅羽は目を()き、自然と呼吸を止めた。


 ラプトルの牙が、瞬間的な速さで目前にまで迫っている。

 おそらく、身体能力が三倍ぐらい()ね上がっていた。


「くっ……!」


 紅羽は短くうめき、大太刀を盾代わりにして(ふせ)いだ。

 牙での攻撃は受け流さない。生じる衝撃を逆に利用する。

 紅羽はわざと弾き飛ばされ、ラプトルから離れていった。


 しかしその判断は、誤りであったと気づく。

 退避予定の場所へ、すでに別のラプトルが向かっていた。

 紅羽の行動を、恐ろしいほど正確に予測している。


(なに……? )


 追い打ちをかけるように、紅羽の背筋に悪寒が走る。

 それは気のせいだと感じる程度の、わずかな気配だった。

 ラプトルの()みつきをいなし、紅羽は即座に空高く()ぶ。

 その瞬間――口を開けた大型の魔物が、地面からいきなり飛び出してくる。


 それはまるで、水面を突き抜けて捕食する魚と似ていた。

 容姿もまた魚に近いが、口許(くちもと)に無数の触手が生えており、規則性なく動いている。(ひげ)らしき触手は、逃しそうな獲物を捕らえるための役割だと見受けられた。

 ラプトル達は位置が悪く、口の中へ呑み込まれていく。


「――っ!」


 今度は全身に、妙な(しび)れを覚えた。

 次から次へと、本当に休む暇がない。

 まずは迫る(ひげ)を斬り裂き、純白の紋様を浮かべる。

 黄金色の双刃刀(そうじんとう)に転化させながら、紅羽は素早く唱えた。


「光の紋章第四節、白熱の波動」


 紅羽は右手から、エーテルを込めた一筋の光を放った。

 閃光から生じる衝撃を()かし、空中で戦闘態勢を整える。

 巨大な魔物を光が貫いた直後、けたたましい轟音(ごうおん)が響く。

 地中の魔物は体中のあちこちから、黒い血飛沫(ちしぶき)をあげた。


 紅羽は(おど)るように、双刃刀をぐるぐると回して対応する。

 まるで長槍を彷彿(ほうふつ)とさせる容姿をした、飛行型の魔物――ひらひらとした衣のような体をすぼめ、音速に等しい速度で続々と飛んできていた。

 双刃刀を振り回して斬りながら、再び純白の紋様を描く。


「光の紋章第七節、明滅の流星」


 発生した光球を(つな)ぎ渡り、紅羽は瞬時に地上へ舞い戻る。

 大型の魔物は地中から現れたはずなのだが、草地の表面が(いびつ)にえぐれている程度でしかない。体内に取り入れた土を、排出しながら地中を自由に泳ぐ魔物――

 資料によれば、ラスピサリと呼ばれる土竜(どりゅう)の一種だった。


 不思議な魔物という感想を抱きつつ、紅羽は空を(あお)ぐ。

 ラスピサリは、音速で飛行する魔物の餌食となっていた。

 この大事(だいじ)な隙は(のが)せない。紅羽は素早く移動を再開する。


 空白の領域は、確かに危険な魔物で溢れていた。

 ほんの少しですらも、気が抜けない状況が続く。

 真っ先に思い浮かぶのは、やはり咲弥のことであった。


(咲弥様……)


 通信機が使えないのは、かなりの痛手だった。

 資料を読んで知ってはいたものの、空白の領域ではなにか不思議な力が働いているらしい。そのせいで、たとえ洞窟の奥深くでも機能する通信機が扱えないのだ。


 だからはぐれた場合、連絡を取る手段はいっさいない。

 作戦会議では、この件に関して何度も念押しされていた。


(こんなことに、なるなんて……)


 道化師を連想する魔物について、紅羽は思考を巡らせる。

 強制的に瞬間移動させるとは、あまりにも想定外だった。

 こればかりは、さすがに苦い気持ちを抱かざるを得ない。


 分断が目的なのか、あるいは別の目的があるのか――

 紅羽はかすかに首を横に振り、思考を打ち消した。

 魔物の思考など、考えるだけ無意味だと思えたからだ。


 理由はどうであれ、分断されたという事実は消えない。

 問題は強制的に瞬間移動をされたのが、紅羽のみかどうか――メイアのにおいに関しての発言を考慮すれば、仲間達も全員やられたと見るのが妥当(だとう)ではある。


 きっとメイアの仲間も、似た事態に(きゅう)しているのだろう。

 その予想が恐怖であり、また激しい焦燥感をもたらした。


(くっ……また、私は……)


 冒険者資格取得試験での記憶が、ぼんやりとよみがえる。

 あの頃も咲弥と分断され、探し回った経験があるのだ。

 ただ今回は、あの島よりも遥かに危険に満ち溢れている。

 錯乱(さくらん)しそうになるのを、紅羽は必死に抑え込む。


 冷静に(つと)め、別の部分に関しての考察を始めた。

 もし瞬間移動に制限がない場合、空白の領域すらも簡単に抜け出せることになる。だが少なからず、紅羽が飛ばされた場所は領域内のままであった。

 光る葉を持つ大樹が、ずっと遠くにあるため間違いない。


 最初に見た大樹の位置を考えれば、飛ばされた場所はそう離れていなかった。

 つまり瞬間移動は、広範囲には渡らないと考えられる。

 まだ希望はあるのだ。急げば誰も失わずにすむ。


 まずはもとの場所に戻り、事実の確認をしておきたい。

 そこで仲間と再会できれば、それで問題が解消される。

 もし誰も発見できなければ、作戦通りに行動すればいい。


 それが現状、もっとも仲間達を発見し()る方法であった。

 紅羽は明確な目標を定め、急ぐ足をさらに速める。

 その道中、紅羽にある感情が芽生え始めていた。


 今現在の自分ならば、空白の領域でも()()()()()がある。

 咲弥達の身を案じる(かたわ)らで、いったいどこまで可能なのか試してみたい――

 そんな欲求が、胸の奥でじわりと生まれてきていたのだ。

 紅羽はすぐさま、(おのれ)(りっ)する。


(今は、咲弥様達の無事が第一……!)


 紅羽はきつく、自分にそう言い聞かせる。

 しかし思いとは裏腹に、利己主義的な感情は湧き続けた。

 自分に呆れ果て、紅羽は心の中でため息をつく。

 多くの感情が混ざり、少し胸が重く感じられた。




 光る葉をつけた大樹の枝――

 指で輪を形作り、そこに()()()()をした生物を収める。

 強敵の香りを()ぎ取り、一体の狩人はにたりと微笑んだ。

 標的となった事実に、紅羽が気づくことはない。



    ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆



 ここは目を見張るほどに(あお)い、飛泉(ひせん)の洞窟――

 (あお)げば大きな隙間から青空が見えるものの、それにしても洞窟の中はやけに明るい。その理由は単純なものだったが、しかし同時に不可解なものでもある。

 そこら中にある結晶が、周囲を青白く照らしているのだ。


 きっと始まりは、地上付近にある結晶からなのだろう。

 陽の光を吸い込んだ結晶が青白い輝きを放ち、別の結晶がまた吸い込む。そうやって薄れることなく、どんどん奥へと光を届けているようだ。

 蒼色(あおいろ)に満ちた景色は、女心を刺激する魅力に溢れている。


 (ひた)っている場合ではないが、ネイは悠長に構えていた。

 岩を椅子代わりにして座り、蒼い空間を眺めている。


 非常事態であればこそ、冷静さを()くわけにはいかない。

 ゆっくり心を静めながら、頭の中を整理しているのだ。

 しばらくしてから立ち上がり、ネイは大きく背伸びする。


「んぅ~……んっ! よし! そろそろ、行動しますか」


 思案の時間は終わり、これからの方向性も定まった。

 投げナイフと短剣を手に、ネイは洞窟の奥へと向かう。


 ネイの身体能力であれば、地上にまで戻るのはたやすい。ただ穴の空いた部分――見えない付近に、とても嫌な気配が途切れずに(ひそ)んでいた。

 ほぼ確実に、危険な魔物が網を張って待ち構えている。


 わざわざこちらから、飛び込んでやるのも面白くない。

 風の流れからしても、必ず地上への道があるはずだった。

 ネイは自分の感覚を信じて、洞窟の中を進んでいく。


 天然の洞窟ではあるが、内部はかなり広々としている。

 ただ、何かがおかしい。妙な違和感が漂っていた。

 案内人の言葉が、ネイの脳裏(のうり)に漠然とよみがえる。


『あるものはあるまま、ないものが途端に増えたんだ』

(それは空間の広がりも込みで……って、ことなのかぁ)


 確かに変わったのではなく、変貌(へんぼう)といった表現は正しい。

 ここを訪れ、やっと案内人の意図を呑み込めた。


(おぉっと……こっちは、ちょっとまずそうね)


 ネイは分岐で立ち止まり、比較的安全そうな通路を選ぶ。

 今は可能な限り、無用な戦闘行為は()けたい。


 下手に体力を減らせば、そのぶん生存率が下がるからだ。

 とはいえ、ずっと隠密や回避が成功し続ける保証はない。

 だから早々に、はぐれた仲間を発見したいと望んでいる。


(でもやっぱ、この辺にはいないかぁ。まいったわね……)


 希望を言えば、安定感のある紅羽と真っ先に合流したい。

 だが戦力を考慮すれば、紅羽以外がいい気がする。

 あと先走った竜人達も、同様に探さなければならない。


 十中八九、その竜人達も転移をくらっている。

 においが途切れたのは、道化師っぽい魔物と遭遇したから――まだ転移の範囲が不明ではあるものの、おそらく特定の範囲にしか移せないと予想している。


 道化師が放った魔法――()()()()とでも呼べばいいのか、虚空に突如として亀裂(きれつ)が生じた。その真下に、とても小さな魔法陣が描かれていたのだ。

 原理に関しては、人の紋章具に近いものだと思われる。


 空白の領域では、何が起こっても不思議ではなかった。

 そんな()()をする魔物がいても、また例外ではない。

 問題はそれが、エーテルで発動しているという点だった。


 エーテルを習得してから、もう結構長くなる。

 だからこそ、すぐ理解にまで及べた。

 同時に、道化師がただの魔物ではない可能性も浮かぶ。


(あの道化師、まさか十天魔(じゅってんま)……?)


 事実は不明だが、()せない点がある。

 以前遭遇した魔人(まびと)は、エーテルを全身に(まと)っていた。

 だが、道化師は違う。それこそ普通の魔物と変わらない。


 それでももし、魔人なのであれば――

 ネイは、自分の心が黒く染まっていくのを感じた。

 奥歯を()み締め、目に力がこもる。

 ネイははっと我に返り、首を横に振った。

 

「はぁ……」


 ため息をつき、気持ちを整えた。

 今は魔人の存在は捨ておき、仲間の発見に集中する。

 空間魔法をくらう瞬間、その絡繰(からく)りに気づいたのは、自分以外にはいないはずだった。特に先頭へと移った紅羽には、何が起こったのか困惑するに違いない。


 しかし賢い彼女であれば、おそらく自分だけが転移された可能性について模索しているはずだった。そうだと仮定した場合、その先の行動は読み取りやすい。

 だからネイは仲間を探しながら洞窟を抜け、それから空間魔法を受けた場所に戻る――それが最善だと結論づけた。


 目標が定まった丁度(ちょうど)そのとき、また新たな大空洞に出る。

 ここは青空が見えない、無数の(たき)がある場所だった。

 ふと気配を捉え、ネイは見上げる。自然と声が漏れた。


「あっ……」

「うぉおおおおおおお――っ!」


 昇華(しょうか)したゼイドが、滝の水と一緒に流れ落ちてくる。

 戦斧(せんぷ)(つか)を盾にして、蝙蝠(こうもり)っぽい魔物の牙を(ふせ)いでいた。

 ネイは若草色の紋様を描き、素早く唱える。


「疾風の舞」


 ネイは全身に風を(まと)い、落下するゼイドに近寄っていく。

 ゼイドが気づいたらしく、こちらへ視線を向けてきた。


「たすっ……ちょっと、助けてくれぇえええい!」

「りょ~かぁ~い」


 ネイは投げナイフを放ち、まずは蝙蝠の羽根を貫く。

 そして短剣で瞬時に、威嚇(いかく)をしてきた蝙蝠の首を()ねる。


「――っ!」


 ネイは目を大きく見開き、はっと息を呑んだ。

 切断面から斑点(はんてん)のある触手が、いくつも飛び出してくる。


(寄生虫……?)


 首と胴体の両方から現れた触手が、お互いに(つな)ぎ合った。

 ネイは短くうめき、若草色の紋様を二つ同時に顕現(けんげん)する。


「風の紋章第六節、暴君の宝玉」


 翡翠色(ひすいいろ)の風玉を生み、繋ぎ合った触手に(もぐ)り込ませる。

 ネイはさらに声高く唱えた。


「第七節、蒼天の亀裂(きれつ)!」


 唱えると同時に、潜り込ませた風玉が強烈に破裂する。

 砕けた蝙蝠の肉片が、迅速に烈風で吹き飛ばされた。

 びちゃりと岩壁に張りつき、拡散することはないだろう。


 エーテルを扱ったからという理由もあったが、この方法は通常よりもオドの消耗が激しい。とはいえ、今回はさすがに仕方のない話ではある。

 寄生されるかもしれない――


 血の一滴ですら(あや)ういと、そう懸念(けねん)したからだ。

 通常の魔物と考えてはいけないと、ネイは自分を(いまし)める。


「そっちもだが、そっちだけじゃねぇだろぉ! 落ちている俺もだぁあああっ!」


 どんどん落下していくゼイドが、(なさ)けない声で叫んだ。

 ネイは呆れ半分に、また若草色の紋様を浮かべる。


「風の紋章第四節、自在の旋風」


 風に乗せたゼイドを、まずは地につけさせておいた。

 それからネイも、(ゆる)やかに地へと降り立つ。

 ゼイドが四つん()いの姿勢で、大きく息を切らしていた。

 話かける前に、やらなければならないことがある。


「雷の紋章第一節、天空の閃光」


 ネイの若草色の紋様が、黄金色に輝いてから砕け散った。

 短剣に付着した蝙蝠(こうもり)の血を、念のため雷で焼いておく。

 ほっと胸を()で下ろすや、ゼイドがかすれた声で(つぶや)いた。


「や、やばかった……絶対、死んだと思ったぜ……」

「あんた。わりと近いとこにいたのね。どこいたの?」


 憔悴(しょうすい)しきったゼイドに、ネイは構わず問いかける。

 ゼイドは石の地面に座り込み、大きく天を(あお)いだ。


「ちったぁ心配してくれよ」

「ちゃんと生きてんでしょうが。んで、どこいたのよ?」


 やれやれと言わんばかりに、ゼイドは肩を(すく)めた。


「なんかよくわからん、真っ黒い物体……? そんな物が、たくさん散らばった場所だ。きっとあれが、資料にもあった古代の遺跡かなんかなんだと思う」

「古代の遺跡ねぇ……この上のほうが、そうなわけ?」

「いや、たぶん遠い。つか、わからん。自分でもどうやってここまできたのか、まったく思いだせん。やばげな魔物に、ずっと追いかけまわされていたからな」


 ゼイドの全身を、ネイは注意深く観察する。

 まず外傷は、どこにも見当たらない。オドに多少の乱れが発生しているものの、それは疲労からくるものと判断する。見るだけでは、これ以上の分析は難しい。

 ネイは目を細め、ゼイドに()いた。


「あんた、妙な攻撃とか受けていないでしょうね?」

「たぶん……な? 今のところ、特に何も異常はねぇ」

「あんたの中から突然魔物が! とか、やめてよ?」

「それは俺本人が、やめてほしいぜ。でも、きっと平気だ」


 まだ下級とはいえ、ゼイドも冒険者ではある。

 自身の異常程度であれば、自覚できるに違いない。

 ネイはとりあえず信用しておき、短いため息をついた。


「まあ、よかったわ。あんた一人とか、絶対死ぬだろうし」

「まったくだぜ。まさか分断されちまうとわな」

「でもこれで、大体の見当がつけられたわね。あいつの空間魔法は、どこにでも広範囲に――ってわけじゃない。特定の場所にしか、効力が及ばないみたいね」

「となれば、ほかの奴らも近くにいるかもしれねぇか」


 ゼイドが深く(うな)った。


「……しかし、なぜ転移なんてことをしたんだ? 本能的に人を殺したいってんなら、もっと魔物の()れの中とかに放り込めばいいだろうに」


 ゼイドの疑問に、ネイはいつも通りの口調で応える。


「さぁね。ただいたずらがしたかっただけなんじゃない?」

「んな、ばかな……とも言い切れないのが、()ぇな」

「実際、神々のいたずらとか言ってたわけだし」

「人語を操る魔物って、かなり珍しいよな?」

「空白の領域には、ちょくちょくいるって聞くけどね」


 ネイは言いながらに肩を(すく)め、そして本題へと戻した。


「そんなことより、まずはみんなとの合流を目指すわよ」

「ああ。そうだな。了解だ」


 気を整え終えたのか、ゼイドが勢いよく立ち上がった。

 今度はゼイドと一緒に、ネイは洞窟の中を進む。

 そこでネイは、ふと気づく。(あし)に何か妙な違和感がある。

 普段ならば気にしない程度の、(ごく)わずかな疲労であった。


 それは、エーテルを扱った影響ではない。

 危険地帯に加え、異常事態の発生――

 きっとそれらが、心理的な負荷となっているようだ。

 もっと気を張り詰めなければならない。

 ネイはそう思い、改めて気持ちを整えた。




 ここは、(あお)飛泉(ひせん)の洞窟――

 その美しい景色は、目を持つ生物達を魅了(みりょう)する。

 蒼い光につい見惚(みほ)れ、徐々に心が落ち着きに満ちていく。

 たとえ生物の(みなもと)となる、生命力を奪われたとしても――

 ずっと、(おだ)やかに――




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