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神殺しの獣  作者: Key-No.92
第四章 無数にある分岐点(上)
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第十三話 新時代の力




 一筋の冷や汗が、ネイの頬を伝って落ちていく。

 眉間に力がこもり、(けわ)しい顔になっていることだろう。

 だが、気は抜けない。ネイは、ただ一点だけを見据えた。


 眼前には、とても奇妙な代物がある。

 上下に並ぶ黄色と赤色の液体――よく観察すれば、少しも混ざり合ってないというわけではなかった。二色の境目が、ほのかに緑色へと変化している。


 ネイは息を呑んだ。小さなグラスを指で(つま)む。

 どこか恐怖を抱きながら、口の中へと一気に流し込んだ。

 かなり()っぱい。だが次第に、味わい深い甘みが広がる。

 果実特有の甘味と香りが、口と鼻を同時に支配した。


「うっ……美味ぁああああいっ!」

「だろう? 女性には結構、人気の酒なんだ」


 酒場の大男が、にっこりと微笑んだ。


「これって、なんの果実を使ってるの?」

「シルグレイド大陸にある地方に、中身まで紅い(いちご)みたいな形をした林檎(りんご)がある。その果実を使用して作った酒だよ」


 ネイは小首を(かし)げた。


「あの黄色いのは?」

「実は、それも同じ果実だよ。成熟する前は、まだ黄色い。同じ果実を使っているのに、まったく別々の味になるのが、この酒のいいところだ」

「はぁん……ちょっと気に入っちゃったかも。今度は通常のサイズでちょうだい」

「はいよ」


 さすが港町だけのことはある。

 自国では見られないような、珍しいお酒で溢れていた。

 本当はがぶ飲みでもしたいが、それは自重しておく。


 まだ日が高い。酔うには早過ぎる。

 しかし、まだ一杯目にも満たない量のはずだった。

 それなのにもう、すでにほろ酔い加減となっている。

 正直、理性を(たも)たせる自信などない。


「ほいよ」


 さきほどのお試しではなく、通常サイズのお酒が来た。

 陽気に鼻歌を歌いながら、ネイはお酒を楽しむ。


「いやいや、マジだって! 俺、すぐ(そば)にいたんだぞ!」

「ふぅん……」

「暗雲が扉になって、そこから黒剣っぽい片翼(かたよく)をした神様が通ってきたんだ!」


 酒場ならではの与太話(よたばなし)も、案外いい(さかな)になる。

 ちびちびとお酒を(たしな)みつつ、ネイは耳を(かたむ)けた。


「そこで、俺の近くにいた()()()って兄ちゃんのご登場だ。その兄ちゃんが、空を見つめながらこう言ったんだよ」

『へっ――いきなり呼び出されたってのに、わざわざ律儀(りちぎ)に来てくれちゃってまあ……心の底から申し訳ねぇと思うが、早々にお帰りいただくとすっか』


 語る男は、真似だと思われる物言いをした。

 それから、今度はやや緊迫(きんぱく)した声音で続ける。


「そんときは俺も混乱してたってのもあったから、あんまり意味がよくわからなかったんだが……その兄ちゃん、翼人(よくじん)の坊やを背に空へと飛んでったんだ。そんででっけぇ黒い拳を作って、バカでかい声でこう叫んだんだ」

『ジオ流必殺奥義! とっとと帰りやがれパァアアンチ!』


 語る男は、どうやらまた口調と声を真似たらしい。

 少しの間、沈黙が広がる。

 語る男は意を決したような、重い声を(つむ)いだ。


「正直、俺は人生で初めて、開いた口が(ふさ)がらねぇってのを思い知ったぜ。一人の人間が神様ぶん殴って、雲の扉の奥に押し返したんだ。全員、唖然だったぜ?」

「……ふむ。お前、病気かもしれねぇな。医者、行くか?」

「いや! だからマジなんだって! カァーッ! 目撃者がもっといりゃあな!」


 実にばかばかしい、空想的な与太話であった。

 ただ、ほろ酔い気分のネイは考える。

 神殺しの獣――


(うちの荷物持ち君も、似たことはできるかもね……)


 いったいなんの神で、どんな存在なのか、話からでは何もわからない――ただ、どんな神であれ、限界突破を併用した黒白(こくびゃく)ならば、可能かもしれないと思えた。

 ネイは少し、そんな妄想を漠然と働かせる。


 ほどなくして、不意に背後で荒々(あらあら)しい物音が飛んだ。

 今度は別の場所で、男二人の言い合いが始まる。


「紋章術なんて、もう()()()()だって言ったんだ」

「んだとぉっ?」

「試しに紋章術、()ってみろよ?」


 なにやら、物騒な気配を感じ取る。

 ちらっと目を向けると、船乗り二人が()めているらしい。


「やれやれ……やるなら、余所(よそ)でやってくれよ」


 酒場の店主が、ため息まじりに言った。

 しかし、男達は耳を貸さない。


「後悔すんなよ」

「おう。来いよ」


 紋章者の船乗りが、淡青(たんせい)をした紋様を浮かべた。


「水の紋章第二節、飛魚(とびうお)の快進撃」


 魚の形となった水が、(あお)った男へと直撃する。

 ネイは一気に、ほろ酔いが()めた。

 男は平然としており、服が濡れた程度に過ぎない。

 その様子は、まるで――


「ガッハッハッ! あぁ~。ちべてぇ、ちべてぇ」

「んな……」


 紋章術を放った男が、怪訝(けげん)な顔でたじろいだ。

 水に濡れた男は颯爽(さっそう)と前を進む。


「ほんの少し、お返ししてやるぜ」


 対立していた男の肩に左手を置き、水に濡れた男は不敵に微笑む。それから男のお腹へと、そっと右手を向かわせた。

 その瞬間――激しい破裂音が響き渡る。


「がはっ……!」


 途端にお腹を抱え、男は床に膝をついてから倒れた。

 水に濡れた男は腰に両手を置き、豪快に笑い飛ばす。


「ガッハッハッ! どうだ? これが、()()()()()だ!」


 周囲の男達と同様、これにはネイも震撼(しんかん)するほかない。

 紋様も詠唱もないままに、紋章術らしき力を使ったのだ。


 国際大会決勝戦での出来事が、ネイの脳裏によみがえる。

 (あせ)りから、見落としたのだと思っていた。だが、違う。

 耐性が高いと、そう(にら)んでいた。それもまた、違う。

 今さらになって、その不可解な謎が晴れた気がする。


 新時代の力を、決勝戦の相手も持っていたに違いない。

 ネイは席を立ち、水に濡れた男へと歩んだ。


「ねえ。その新時代の力とやら、私にも教えてよ?」

「あん?」


 水に濡れた男が、(いぶか)しげに振り向いた。

 まるで舐め回すような、いやらしい目つきへと変化する。

 男は(くちびる)嫌悪感(けんおかん)を抱く笑みを乗せてから言った。


「冒険者か? へっ……一晩付き合うってんなら――っ?」


 ネイは言葉を待たず、まずは体術で男を床に転がした。

 取り押さえた状態で短剣を抜き、男の首元に添える。


「私を誰だと思ってんの? いいから、吐きな?」


 男の顔に、焦燥(しょうそう)の念が宿る。

 付近にいた男が、たどたどしく(つぶや)いた。


「国際大会優勝者……無敗の女帝じゃないか……?」

「ああ、確かに……見た記憶があるや」


 その言葉から、男の顔はさらに引きつった。

 今度は、ネイが不敵に笑って見せる。


「さあ、ご自慢(じまん)の新時代の力、話してもらおうかしら?」

「くっ……」


 ネイは余すことなく、力ずくで男を問い詰めていく。

 やはり国際大会で戦った者と、よく似た代物だと思える。

 その点に関しては、納得のいくものであった。


 だが不可解な疑問は、また新たな疑問を呼び込む。

 まるで少しずつ、()()()()()されているような――

 そんな漠然とした不安が、ネイの胸に(つの)った。



    ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆



 咲弥は気を取り直した直後、ある事実に気がついた。

 撃たれる前に現れた者の気配が、もうどこにもない。

 視線で探るや、すぐにその理由を呑み込めた。倒れている様子から、オリヴィアが背後から斬って処理したらしい。


(まずい……)


 頭痛も収まらず、また(ひたい)から流れる血も止まらない。

 何度も目に入りかけるせいで、視界が(いちじる)しく(せば)まった。


「おい」


 オリヴィアが、自身の腰にある布を細剣(さいけん)で裂いた。

 そして細くした布を、迅速に咲弥の額に巻きつけていく。


「うっ……すみません。大切な衣服を……」

「気にするな。無事で本当によかった」

「ありがとうございます」


 負い目を感じたものの、それに浸っている暇はない。

 頭痛はやまないが、流れる血は止められた。

 咲弥は気を引き締め、オリヴィアと前を進む。


 道中に何名か盗賊が現れたが、空裂(からさ)きで対処していく。

 そうしてやっと、木造船の付近にまで辿(たど)り着いた。


「やはりこんな玩具(おもちゃ)じゃ、紋章者にゃ通じづらいやな」


 野太い声とともに、甲板から男三人が飛び降りてくる。

 アジトの親分だと思われる男と、その側近達に違いない。

 禿頭(とくとう)の男が、(けわ)しい顔で(にら)みつけてきた。


「アジトを滅茶苦茶にしやがって……ただじゃおかねぇぞ」

「奪った積荷、返してもらおうか」


 オリヴィアが、毅然(きぜん)とした態度で(のぞ)んだ。

 寡黙(かもく)そうな男と禿頭の男が、一歩を前に出る。


「頭領。ここは、俺らが引き受けるぜ」


 男二人は腰に帯びた湾刀(わんとう)を抜き、(しゃ)に構える。

 片手で湾刀を、前に突き出した。

 咲弥は黒白(こくびゃく)を構え、オリヴィアに告げる。


「オリヴィアさん。気をつけてください」

「ああ。わかった」


 オリヴィアの了承を聞き、咲弥は先陣を切った。

 相手の男二人もまた、向かい来る。

 盗賊の頭領は動かない。事の成り行きを見守っている。

 当然の話だが、傍観に(てっ)するとは決して思えない。


 妨害はしてくる――そう断定しておくほうが賢明だろう。

 同時に襲いかかってくる二つの湾刀を、咲弥は頭領を気にかけながらも黒白でいなした。そのまま流れるように片方へ黒爪を送り、もう片方に白爪を振るう。


 だが、届かない。湾刀で黒白が弾かれる。

 見た目からも鋭利(えいり)そうな爪を、かなり恐れているようだ。

 どちらも剣士としての熟練度が高い。また判断力もある。


 背後から(にじ)む気配を覚え、咲弥はいったん身を引いた。

 予想通り、オリヴィアの(いさ)ましい声が響く。


「風の紋章第一節、疾風の乱舞!」


 淡い黄緑色をした風が、オリヴィアから激しく流れた。

 擦り切れた音を(とどろ)かせ、暴風が男二人へと吹き荒れる。

 この瞬間、咲弥の目に信じられない光景が飛び込む。


 まず頭に思い浮かんだのは、魔人(まびと)のニギルであった。だが彼らは魔人とは違い、エーテルを(まと)っていない。いくらまだ未習得とはいえ、それは一目瞭然だった。

 漠然と、しかし鮮明なくらい、過去の記憶がよみがえる。


(ラグラオさんと……同じ?)


 訳がわからない展開に、咲弥は困惑する。

 ラグラオは、耐久力の(すぐ)れた獣人であった。


 ただ眼前の男達は、それこそ普通の人間にしか見えない。それなのに、攻撃系統の風の紋章術をまともに受けながら、勢いよく前進してきている。

 咲弥は眉をひそめた。男達の動きに変化がある。


 おそらくは、こちらの数を減らす算段だと呑み込んだ。

 一呼吸の間もなく、オリヴィアを護るため黒手(こくしゅ)を振るう。


「黒爪空裂(からさ)き!」


 だめ押しのつもりで、オリヴィアの風に空裂きを乗せる。

 男達の目の色が代わり、同時に湾刀が(くう)断裂(だんれつ)した。

 斬られた空裂きを見ながら、オリヴィアの前に移動する。


 咲弥が黒爪を扱い、男達の進行を阻害(そがい)した。

 そのとき、上空から野太い叫びが飛ぶ。


「雷の紋章第六節、破滅の雷光」


 (にら)んだ通り、盗賊の頭領が参戦してきた。

 まるで亀裂(きれつ)のごとく、無数の雷撃が落ちてくる。


 攻めか守りか――白爪を振る余裕はない。

 咲弥は咲弥はオリヴィアを連れ、大きく後ろに飛び退()いた。

 そこで再び、咲弥は眼を()く。


「はっはぁ! ()()でもくらいやがれ!」


 頭領が詠唱もなく、いきなり紋章術を発したのだ。

 白い雷球が(すさ)まじい音を(とどろ)かせ、落下のごとく迫る。

 かなり広範囲と思しき紋章術に、咲弥は肌が粟立(あわだ)つ。


 即座に白爪空裂きで、雷球をかき消そうと試みた。

 男二人が左右から、湾刀を()いで邪魔をしてくる。

 一斉(いっせい)攻撃に、咲弥はなすすべがない。


 やはりおかしい。このままでは、雷球は仲間にも当たる。

 しかし男達は、気にした様子がない。

 片方の湾刀を黒爪で弾き、白爪を雷球へ向かわせる。


 禿頭(とくとう)の男が放つ剣技の軌道が、途端に蛇みたいに変わる。

 咲弥の白爪を、湾刀で叩き落とした。


「んなっ!」


 もう白爪は間に合わない。直感的に(さと)った。

 ひどく(あせ)った咲弥の脳裏に、多くの思考が激しく巡る。

 オリヴィアの想い、そして願い――

 彼女の目的、それから覚悟――


 このままでは、自分もろとも彼女もやられてしまう。

 そんなとっさの思考が、自然と咲弥の体を動かした。

 咲弥は背後に強く飛び、オリヴィアに背で体当たりする。


「あっ……」


 吹き飛ぶオリヴィアから、驚きの声が発せられる。

 そのすぐ後のことだった。

 雷球は男達もろとも、咲弥へと直撃する。

 全身の神経が縮むような、強烈な熱と痛みが生じた。


「ぐぁああああっ――!」

「咲弥ぁあああっ!」


 ついには、耳もやられたらしい。

 オリヴィアの悲鳴が重なって聞こえた。



    ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆



 リックスとベティナルを背後に、紅羽は洞窟内を駆ける。

 本当は、咲弥のもとへ早く駆けつけたい。しかし頼まれた以上、二人を置き去りにはできなかった。その結果、男達の進む速度に足並みを合わせている。

 不意に背後から、深いため息が聞こえてきた。


「はぁ……お嬢、大丈夫っすかね」

「何かあったら、周りの奴らからリンチされるだろうな」

「うへぇ……だから、やめとけって言ったっすのに……」

「咲弥様が(そば)にいる限り、何も問題ありません」


 リックスとベティナルの会話に、紅羽も加わった。

 紅羽は肩越しに、青髪と金髪の男達を振り返る。


「むしろ危ないのは、彼のほうかもしれません」

「えっ?」


 男二人は驚いたのか、目を丸くして声を発した。

 紅羽は前を向き直り、そのままの姿勢で補足する。


「少し頼りなく映るかもしれません――ですが、彼は誰かのためともなれば、死ぬ寸前まで頑張ってしまいますから」

「ああ……そんな雰囲気は、確かにあるっすね」


 リックスの(つぶや)きに、ベティナルが短く笑った。


「それに関しちゃ……ある意味、俺らも負けてねぇかもな」

「まっ……俺もベティナルも、軍人上がりっすからね」

「負けていない――どういうことですか?」


 紅羽は振り返らずに、疑問を述べた。

 ベティナルが、事情を簡潔に語っていく。

 それはオリヴィアの父親から、今現在に至るまでの話だ。


 紅羽はやや視線を落とし、漠然とした嫌な予感を覚える。

 もし咲弥がこの話を聞けば、確実に()()()()に違いない。

 そこが彼のいいところでもある。ただ不安は尽きない。


 国際大会後、あの瞬間――紅羽の胸に欲が湧いた。

 それがだめなものだと、紅羽自身しっかり自覚している。だが(ふく)れ上がる感情を抑えきれず、彼と口づけをかわした。のちに、深く自省する。


 抑え込まなければならない感情だと、そう(おのれ)(りっ)した。

 彼の最終目標となる、邪悪な神――魔神を()()()()()()がくるまでは、浮ついた気持ちでいてはいけない。

 おそらく、それぐらい重大な使命に違いないからだ。


 ただガルス族ジークとルアンダの件から、また欲が湧く。

 去り行く二人を眺め、心から(うらや)ましいと感じた。

 紅羽の頭と心に、齟齬(そご)が生じている。


 本音を言えば、彼に危険な道など進んでほしくない。

 どこか安全な場所で、ひっそりと()()で日々を送りたい。

 そんな感情が溢れ、胸の奥がひどく痛んだ。


 当然、彼は決して立ち止まらない。

 それは紅羽も、重々承知している。

 両親と再会するといった願いを、彼は持っているからだ。

 そこが少し釈然(しゃくぜん)としないが、使命を果たさない限り、彼の願いは叶わない。


 だから()()()()()()()()()()に、想いを打ち明けるのだ。

 きっと彼は、受け入れてくれるだろう。

 二人で世界中を見てまわり、戦いのない平穏な日々を――

 そんな未来への夢想が、尽きることはない。


 紅羽は自身を(たしな)め、また前を向く。

 今は妄想に浸っている場合ではない。

 帝国式ではないが、銃を所持した者が複数いるのだ。


 咲弥も紋章者として、仕上がってきてはいる。それでも、当たりどころが悪ければ、呆気なく死んでしまうだろう。

 エーテルを(まと)えば、おそらくそこまで大事(だいじ)には至らない。

 しかし彼はまだ、その(いき)に達していなかった。


(咲弥様……)


 不安を胸に抱え、紅羽の足はつい速さを増した。

 そのとき――遠くから、いくつかの銃声が聞こえる。


「すみません。急ぎます!」


 やや遠くなってしまった二人に、紅羽は口早に伝えた。

 洞窟内を進み、やがて大空洞を見下ろす場所へと出る。

 まるで港町の一部を切り取ったかのような、かなり複雑な構造をした木製の施設には、人の気配が点々と(にじ)んでいた。確かに、隠れ家らしさがある。


 紅羽は迷うことなく、その目で咲弥の姿を捉えた。

 ほぼ同時に、大きな雷の塊が彼へと落ちる。

 彼の体は痙攣(けいれん)したかのごとく、宙へと大きく()ねた。


 紅羽はぞっとする光景に、息を呑む。

 瞬間的な速さで、事態を把握するや――


「咲弥様ぁあああっ!」


 それは叫びというよりは、悲鳴に等しいものだった。

 手摺(てすり)りを踏み砕き、紅羽は咲弥のもとへと飛ぶ。




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