75話 魔法スキル
ビキ。
【剛腕】を発動させると、腕は1.5倍ほどに膨らみ、血管がくっきりと浮かび上がった。
風船のように見た目だけ膨らんでいるというわけじゃなく重みが増し、筋肉が肥大したのがよく分かる。
「う、ぁああぁああ」
「ぶごっ!?」
俺はその腕にこれでもかと力を籠める。
すると、ジャマハダルを掴んでいた阿修羅サイリアの手から血が零れ、それに焦ったのか阿修羅サイリアは全ての腕を使ってジャマハダルを受け止めた。
「大人しく斬られろっ!!」
「ぶごぁあ、ああぁ、ぶがぁあっ!!」
阿修羅サイリアはジャマダハルを受け止めていた手に痛みがあるからなのか、次第に力が弱まっていった。
そして次第にジャマダハルは阿修羅サイリアの手に食い込み、遂にはその手を切り裂いた。
カーン。
思い切り振り切ったジャマダハルが地面にぶつかり、甲高い音がこだますと俺は地面に倒れ込み悶絶する修羅サイリアを見下ろす。
じたばたと体をよじらせ、慌てふためく様子は何とも滑稽だ。
「……今楽にしてやる」
俺はジャマハダルを高く掲げると勢いよく振り下ろした。
「ぶがっ!!」
「なっ!」
勝った。そう思った瞬間、阿修羅サイリアは身をよじりながら鼻先の角で攻撃を仕掛けてきたのだ。
俺は驚きながらも、阿修羅サイリアの顔にジャマハダルを斬り付ける。
ジャマダハルは阿修羅サイリアの正面の顔を確実に切り裂いた。
しかし、その途端阿修羅サイリアの3つ顔がくるりとまるでリボルバーの様に回転し、今度は右の顔にある角が俺を襲った。
すぐさま残っていたもう片方のジャマダハルでその顔にも攻撃を加えるが、再び顔はくるりと回り角が胸の辺りまで迫る。
「『回避の――』」
急いで回避の加護を発動させようとするが、間に合いそうもない。
こんな事ならMPをケチらず、最初から発動させておけばよかった。
そんな後悔が頭をよぎると、俺は次に来る痛みを予測して、反射的にきゅっと目を瞑った。
「……痛くない」
阿修羅サイリアの角は間違いなく俺の胸を貫くところまで迫っていた。
だが、痛みは一向に襲ってこない。
不思議に思った俺はそっと目を開ける。
「ごぼ、っぼぼおっぼ……」
目を開けると、そこには球状の大きな水の塊とそれに閉じ込められ身動きがとれない状態の阿修羅サイリア。
「……これは魔法スキル?」
「そう。【ブルーティアプリズン】。水魔法。そのうちそいつ死ぬ」
声は俺の背後から聞こえてきた。
幼く、感情が見えない声。
「えっと……ありがとう。助かったよ」
「橙谷に頼まれて来た。助けてやれって。これはただの仕事、気にするな」
「橙谷さんが……。しばらく戻ってないから心配かけちゃったのかな?」
「大分気にしてた。白石、死んでるんじゃないかって」
「そっか……。じゃあ早く帰らないと。でも、少し戻って経験値稼ぎしてから……」
「ダメ。それだと桃の仕事終わらない。桃の仕事、白石と帰るところまで」
「桃? あ、名前か。俺は白石輝明。さっきはありがとうね、桃ちゃん」
「……」
俺が自己紹介をすると桃ちゃんは俺を蔑んだ目で見つめてきた。
なにか不味い事でも言ったか俺。
「とにかく一緒に帰る」
桃ちゃんは緑色の魔法紙を手に取ると呆れたように言葉を漏らした。
だが、俺としてはもう少しここで狩りをしたい。
「あの、桃ちゃん。俺、もう少しここに居たいんだけど」
「さっきも言った。ダメ。それに桃は白石より先輩。それに32歳」
「えっ!? 32ってそんな冗談――」
「いいから帰る」
そういいながら桃ちゃんは、俺にその小さな手を当てて魔法紙を口と片方の手で引き裂いて見せたのだった。
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