71話 隠蓑
『隠蓑』の効果はスルースライムゼリーの上位互換。
発動すれば効果の制限時間が視界の右上に表示され、その時間内であればいくら相手に触っても、攻撃しても自分の姿は相手に視認されない。
ただし、ダメージを受けてしまえばその効果は消え、更には強力な効果のリターンとしてしばらくその場から動けなくなる。
因みに制限時間が切れれば効果は消えるとリキャストタイムに入るのだが、これにはちょっとした裏技がある。
「ん、ぷはぁっ。『隠蓑』」
俺は『隠蓑』を発動したままアイテム欄を開くと、ペットボトルで汲んでおいた水を取り出して一気に飲み込んだ。
『隠蓑』の消費MPは約3分の2。
俺はこれが2度発動出来るようにMPを回復させると再び『隠蓑』を使う。
すると右上の制限時間が1分から2分30秒に変わった。
そう、このスキルは重複する上に効果が増すのだ。
わざわざリキャストタイムを待つ位なら無理やり重複させる方が効率がいい。
「『即死の影』『毒の神髄』」
次に俺は2つの攻撃的スキルを発動させた。
そして俺は、近い赤い点を狙ってジャマハダルを地面に突き刺し始めた。
狙いに当たれば『即死』か『毒』。
しかも相手に近づいても向こうから攻撃されるリスクはほぼ0。
まさに経験値の入れ食い状態。
「かぱっ!」
「おっと……」
しかし痛みからか、ファングヒポモスが反射的に反撃したり、地上に現れる事があるのは注意が必要なようだ。
今も危なく攻撃を喰らうところだった。
だが時間は刻一刻と経っていく。
気付かれてここにいる大量のファングヒポモスが一度に襲いかかってくる前に、この方法である程度倒してしまわなければまずい。
『隠蓑』のリキャストタイムは他のスキルよりも長い。
だからと言ってMP回復アイテムはある程度温存したい。というかもうお腹がタプタプで飲めない。
「一匹でも多く片付ける!!」
俺は焦りつつも、反撃に気を付けながら丁寧に一匹一匹に攻撃を当ててゆく。
「残り、30秒」
『透視』のレベルを上げてから毒に犯した敵の急所が紫色に変化してくれるようになった事もあって、辺り一帯に広がる赤い点達は次第に紫の方が多くなり、残りは30秒。
『即死』の確率が高いこともあって、毒状態のファングヒポモスが15匹。通常が20匹。
「残り5秒。通常はあと一匹……」
毒状態のファングヒポモス20匹。通常1匹。
残り時間5秒でここまで数を減らせたことに驚きとそう快感を覚えながら俺は最後の1匹の急所を突こうとした。
「がばぁあああ!!」
「なんだ!?」
その瞬間、最後の1匹と毒状態のファングヒポモス達が揃って地上から顔を出した。
見れば最後の1匹は他のファングヒポモスよりも1回りも2回りもいや数十倍もサイズがでかい。
「『同族食い(ファミリーイーティング)ヒポモス』だと?」
モンスター名に嫌な予感が走る。
「がばっぁおおおおおおぉぉおお!!」
「ファングヒポモス達が飲まれていく!」
けたたましい鳴き声で仲間を自分の元に集めると、同族食い(ファミリーイーティング)ヒポモスは限界まで開いた口で仲間を飲み込み始めた。
その吸引力は凄まじく、しっかり踏ん張っていないと俺まで飲まれそうになる。
「げふぅ」
仲間を飲み込んだその身体は一層大きくなり、体からは骨のような刺が何本も生え明らかに雰囲気が変わった。
「『骨刺鎧ヒポモ――」
俺が新しい名前に変わったそのモンスター名を読み上げようとすると、そいつはそんな暇を与える気はないようで真っ直ぐこちらに突進を開始した。
「はやっ――」
『瞬脚』を使う隙も無い程早い突進。
俺は慌てて右に体を投げだしたが、その刺が左腕を掠めてしまった。
不幸中の幸いにも『隠蓑』の効果は既に切れていたようで、脚は動く。
俺は一旦その場から距離をとろうとあいてに背を向けた。
「なっ!?」
その時左腕がピリッと痺れ、そこだけが動かせないことに気付いた。
どうやらあの刺にも麻痺の効果があるようだ。
「くっ。瞬きゃ――」
『瞬脚』を発動させようとした瞬間、左腕に激痛が走った。
上腕二頭筋のあたりから血がぽたぽたと垂れる。
「これは、もしかしてあいつの……」
右手で痛む箇所を触ろうとすると、こつんと何かに当たる。
恐る恐る目をそこに向けると、そこには骨刺鎧ヒポモスの刺とそれに貫かれた自分の左腕があったのだった。
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