69話 神髄
「MPも回復出来るのは万能すぎるな」
俺は口に含んだその水を飲み込み、一度その場に座り、替えの服を取り出した。
びしょびしょの服を着替え、アイテム欄からマーク旗を取り出す。
マーク旗を階段の横に突き立て、固定する。
マーク旗は探索者協会からの支給品で、これを立てる事で階段の位置をフロア内の外の探索者に伝えることが出来るらしい。
なんでも探索者協会が配信しているアプリと連動しているとか。
こういった情報は探索者協会HPに記載されているらしいけど、俺が知ったのはこの依頼を受けたその時。
探索者活動のレクリエーションや授業のようなものはして欲しい所だ。
そうでないと俺みたいに後から知る事ばかりになってしまう。
「次に行く前に池の水を汲んどこうか――」
「かぱ!?」
俺が池の水を汲もうと視線を移すと、そこにはさっきここを離れた筈のファングヒポモス達がいた。
なにを思ったのかここまで引き返してきたらしい。
しかし、いるはずの仲間が居なくて動揺しているのか、仕切りに声を発し、アタリを見回している。
幸い俺にはまだ気付いていない。
俺はアイテム欄から再び スルースライムゼリーを取り出して口に放り込み、ファングヒポモス達に気付かれないようにする。
逃げるか? いや、この状況なら簡単に倒せる。それに試したいこともある。
「『毒の神髄』『透視』」
俺は新しく取得したスキル、『毒の神髄』と『透視』を発動させた。
すると、『回避の加護』や『即死の影』の様な派手なエフェクトではなく、ジャマダハルと腕が少しだけ紫に染まる地味な変かが表れた。
どういった効果なのかは分からないが、俺はその状態のまま、3匹のファングヒポモスに近づき、いきなりその牙を攻撃した。
ばきっ。
一匹の牙が折れる音が鈍く響き、他のファングヒポモス達はその場でたじろぐ。
俺はその隙を見逃さず、続けざまに他のファングヒポモス達の牙も折った。
「かぱぁっ!!」
ようやく自分のおかれている状況に気付き、最初に牙を折ったファングヒポモスが突進反撃をしてくる。
しかし、砂の中からの強襲ではないファングヒポモスの攻撃はまるで怖くない。
俺はそれを右に躱し、一度距離をとる。
そして、他のファングヒポモス達も視野に入れ、ぐっとジャマダハルを構えた。
「……。全部に毒を付与、か」
目の前にいるファングヒポモス達のHPゲージがいつもより濃い紫色に染まっていた。
おそらくさっきの攻撃で毒を付与することが出来たのだろうが……100発100中。
『毒の神髄』の効果は毒を付与させる確率を上昇、或いは確定で付与させる、のどちらかだろう。
それと、HPゲージの色とその減り具合。
毒の効果を上昇させる効果もありそうだ。
「かぱ!!」
「逃げるのか」
ファングヒポモス達は俺に背を向け、慌てて走り出した。
その先には、あの池。
狙いはHPの回復といったところか。
「『即死の影』『瞬脚』」
俺は『即死の影』と『瞬脚』でファングヒポモス達に追撃をした。
「か、ぱ」
「あと一匹!!」
ちゃぽ。
なんとか2匹池に入る前に仕留める事に成功したが、最後の1匹だけ、間に合わず池に逃がしてしまった。
そのHPはじわりじわりと回復し、HPゲージの色もだんだん元に戻ってゆく。
「池の水は状態異常回復の効果まであるのか。だが、リキャストタイム終了だ」
俺は池に体を沈める前のファングヒポモスの体に、『瞬脚』で飛び乗るとその背中を何度もジャマダハルで突いた。
毒とHPが回復するよりも、俺の攻撃と何度も重複しているのか、『毒の神髄』によるHPゲージの色が濃くなり毒の効果が強まるという方が圧倒的に上回り、ファングヒポモスのHPはあっけなく0になった。
重獣のモンスターは『即死』を使わないと、HPが高すぎて戦うのがきついと思っていた。
だが、これだけ強力なサブウェポンがあれば『即死』頼みの運否天賦戦闘だけに身を任せる必要もない。
「こっからは効率のいい狩りが楽しめそうだ」
俺はファングヒポモスが完全に消える前にその場から離れると、強くなった自分ともっと楽に経験値を得られるかもしれないという期待に笑みを浮かべるのだった。
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