59話 沼
「はぁ、はぁ、はぁ……お前で最後だ」
「ばぁ……」
9階層。時刻は13時40分。
想像以上にここまでの道のりに時間が掛かってしまった。
だが、9階層で出現したヒポモスの群れは目の前の1匹で終わり。
ギリギリにはなってしまったが、なんとか依頼はこなせそうだ。
それにしてもこのダンジョンのギミックがかなり面倒で、ヒポモスの群れを発見、それの討伐をしなければ階段が現れないというものになっていた。
偶然にも今日このダンジョンの5階層以降に挑んでいるのは俺だけだったらしく、5、6、7、8階層ではヒポモスの群れを倒すと、そのすぐ傍の地面に階段が現れるといった具合になっていた。
10階層のボスを倒しておくことや、階段の位置をマークするといった依頼はこの面倒くさいギミックを少しでも軽減する為だというのがよく分かった。
俺としても早く深い階層に行きたいから、依頼を納品系に絞ってもう少し遅い時間にダンジョンに潜っても良かったかもしれない。
「よし、皮だ」
9階層までの道のりで手に入れたヒポモスの皮はこれで20。依頼数の半分。
実際に倒したヒポモスの数は全部で60匹。その内の半分以上が『ヒポモスの耳』という素材をドロップしたせいでなかなか集まりが良くない。
サイリアに関しては全部で10匹。全てのサイリアが『サイリアの鎧皮』をドロップしてくれているお蔭でこっちはあと5で依頼達成だ。
それにしてもここまで、足を止めずに来たものだから、息切れが激しい。
やってる事は持久走近いかもしれない。
「ん、ぐ、ぷはっ! 行くか……」
俺はアイテム欄からMPポーションを取り出すと一気に飲み干した。
HPに関しては1階層の時のようにヒポモスの砂弾をまともに喰らう事が無くなって十分な量を確保出来ている。
だが、『瞬脚』『透視』『即死の影』を頻発している所為でMPが心配になってきた。
MPポーションは便利だけどHPに比べると割高なんだよなぁ。
こつこつこつ。
そんな事を思いつつ階段を下るとようやく10階層ボスの間が視界に入る。
「小さい……」
相も変わらずボスの間だけは形式が同じ。
違いと言えば部屋の広さ位だろう。
そんないつものボスの間の中央にちょこんと居座る小さいヒポモス。
小さいと言っても大型犬位の大きさはあるが、それでもさっきまで戦っていた個体と比べれば可愛らしく見える。
一見ボスとは思えないくらいだ。
「かぱっ」
バグヒポモスと表示されている可愛らしいヒポモスはこれまた可愛らしい声で鳴いてみせると、背からどろどろとした液体を垂れ流し、ぶるぶると体を震わせそれを部屋全体にばらまいた。
液体が触れた地面には水たまりのようなものが出来上がっているのが気になるところではある。
もしかすると液体に毒や麻痺、更にはとりもち的な効果があるのかもしれない。
「すぅううう……」
バグヒポモスはそんな懸念を抱く俺をちらりと見ると、息を大きく吸い込む。
そして、目を見開くと、液体によって生み出された水たまりに思いっきり頭から突っ込んだ。
水たまりに見えるそれは、かなりの深さを有しているようで、バグヒポモスの身体は瞬く間にその中に沈んでしまった。
小さくて深い池、いや、色合い的に沼を作り出すスキルなのかもしれない。
とはいえ、そこに隠れたのなら出てくるまで待ち伏せするしかない。
俺はバグヒポモスの潜った水たまり、もとい沼に近寄るとジャマハダルを取り出し、構える。
素直にまたここから出てくれば楽なのだが……取り敢えず『透視』だけ発動させ――
「ぐっ! 後ろ!?」
俺は背中に痛みを感じ慌ててジャマハダルで後ろを斬り払おうとした。
だが、そこにはバグヒポモスも他のモンスターもいない。
仲間を呼び出して攻撃させたわけではないみたいだが――
するとまた背中に痛みを感じた。
俺は攻撃された箇所を手でなぞる。
「砂弾」
しっとりとした手触り。これは上層階で散々喰らった砂弾を受けた時にも起こった状態。
おそらくヒポモスの唾液による水分が砂弾に含まれているのが原因。
……この状態になるってことは俺が受けている攻撃は間違いなく砂弾。
そして、あのバグヒポモスによるもの。でもなぜ、後ろから? あいつは俺の傍にあるこの沼に潜ったはずなのに。
「かぱぱぱっ!」
愉快に笑うように鳴くバグヒポモスの声に釣られて俺は振り返った。
すると、違う沼から身体を半分だけだし、こちらを見て楽しそうな表情をするバグヒポモスがそこに居たのだった。
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