46話 病院
「……灰人」
「兄さん。ごめん。もう大丈夫だから」
俺と桜井さんはボーパルホーンバニーが死にゆく様を見届けると、地上に戻っていた。
そして、連絡にあったダンジョン【獣】の近くの病院に俺達はやってきていた。
灰人が受けた傷はダンジョン内で橙谷さんが治療してくれたおかげで、特に問題なく、念のため一日入院するだけで明日には退院出来るらしい。
「灰人。私があなたを無理に探索者にしようとしたから……」
「桜井課長……。大丈夫ですよ。体はもう元気ですし、食欲だってあります。ただ……」
灰人は病院のベッドの上で明るく振舞って見せた。
だが、その手は小刻みに震えている。
「すみません。しばらくは探索者活動は休ませてください。今思えば退職してから、今まで全然まとまった休みがなかったですし、一回リフレッシュしてからまた……」
「そうですわね。今はゆっくり休んでくださいまし。その時が来たらまた3人でダンジョンに潜りましょう」
「……。そうですね、みんなでダンジョンに挑むのはなんだかんだ楽しかったですもんね」
そういって灰人は笑ってみせた。
楽しかった、か。
「あんまり、レベル差があってもまた戻ってきた時に気まずいでしょうから、私も40レベルまで取り敢えず上げて、しばらくはお休みしますわ。パーティー活動は一旦休止にしましょう」
「別に、俺はそんな事気にしないですけど……」
「そうと決まれば、取り敢えずレベル上げですわね。パーティー自体も一旦解散の手続きをしましょう。2人で潜っていても6:2:2は継続されて、灰人の分の2割は消えてしまうはずですから、それだとちょっと勿体ないですわ」
パーティーメンバーがそのフロアに揃っていない場合、その分の経験値は他に分配されるわけでもなく消えてしまうらしい。
桜井さんはそれは流石に勿体ないという事でパーティー編成欄を開き、解散のページを開いた。
解散の同意という文字と手形が映し出され、俺と灰人はその手形に手を置いた。
「これで解散終了ですわね。48時間経過しないと再編成は出来ませんし、ホーンラビット狩りにでも行きましょうか?」
「いや、今日はもう……」
「またですわ灰人。ゆっくり休んでくださいまし。行きますわよ白石君」
そういうと桜井さんは俺の手を引いて病室を出た。
「案外大丈夫そうじゃないか」
「橙谷さん」
ここまで灰人を連れてきてくれた橙谷さんが外で待っていた。
多少なり見知った顔という事もあって心配してくれているのだろう。
「普通に暮らす分には問題ないと思います。ただ……」
「探索者は無理かもな……。2人が来る前は暴れはしないものの、話すのもやっとって感じだった」
「灰人なら大丈夫ですわ。私はずっと待ってます」
「桜井さん……」
桜井さんも薄々その事に気付いていたようだが、敢えてあんなことを言ったらしい。
「俺は灰人にはもう無理に探索者をやらせるつもりはありません。もし、灰人が戻りたいっていうなら桜井さんの方から会社に……」
「私、白石君と灰人と一緒に探索者として、ダンジョンに潜って、みんな大人なのに学生みたいに食べて飲んで話して、こんなに楽しかったのは初めてでしたの」
「桜井さん……」
「私の我儘なのはわかってますわ。でも、私はまた3人でダンジョンに潜りたい。灰人が戻れるまで私は……。最低ですわね。こんな状況になったのは私の所為ですのに……」
そういって桜井さんは俯き言葉を発しなくなった。
俺はそんな桜井さんにかける言葉が見つからず、つい黙ってしまう。
「その、なんだ。重要な話をしてるとこ悪いが、今回の件で小紫さんの事を探索協会に報告したいんだ。あの人がやったっていう証拠らしいものがあれば提供して欲しい」
「……証拠にはなりませんが、俺達以外にも被害に遭った方が居て、その死体なら俺が保管してます」
「死傷者がいたのか……。分かったそれも俺が引き取っていろいろ報告しておく。ここで取り出すのはまずいから、一旦ダンジョンに潜ってそこで引き渡してくれ」
「はい。桜井さんはどうしますか?」
「行きますわ。言いましたでしょう。レベル40までは白石君の為にレベルを上げるって。そうすれば、取り敢えずお父様の依頼は達成。順位も一気に上がりますでしょう。でも、そうなったら私はしばらく……」
「灰人の事はお任せします。あいつも大人ですから、嫌なら自分の口で言うでしょう」
「……やっぱり優しいんですわね。白石君は」
その言葉を聞くと俺達はもう一度ダンジョンに潜る為、ビルに戻るのであった。
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