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44話 痛み分け

 このままだと俺もやられる!!



 自分が絶体絶命の窮地に立たされた俺は、思考を巡らせる。

 だが、『瞬脚』は連続で使えないし、遠距離攻撃スキルがあるわけでもない。


 どんなに考えてもこの状況を覆せる手立てが思いつかない。


「くっそぉぉぉおおおおおお!!」


 俺は落ちている最中、悪足掻きで右手に持っていたジャマダハルをボーパルホーンラビットに向かって投げつけた。


「ぐあっ!?」


 ボーパルホーンラビットにとってまさかの行動だったのか、振り上げた拳を慌ててジャマダハルにぶつけ、俺はなんとか地面に戻る事が出来た。


 ボーパルホーンラビットの拳からは血が流れ。そしてそのHPゲージは紫色に変わっていた。



 低確率の毒がこのタイミングで決まってくれたのだ。



 俺はそんなボーパルホーンラビットから一度距離をとり、『瞬脚』の範囲内に居た桜井さんの元へ駆け寄った。


「大丈夫ですか桜井さん!」


 桜井さんの肩を抱き留め声を掛けるが、返事は無い。


 俺の言葉通りに動こうとしてくれたのか手には魔法紙が握られていたので、俺はそれを破り、まず桜井さんだけでも先に逃がそうとした。


「桜井綾子を対象として、『リターン』……『リターン』、『リターン』」


 だが、魔法紙は一向に発動しない。

 そういえばボスの部屋によっては回復が出来なかったり、一部の魔法スキルが発動しなかったり、そういった縛りが設けられている事があると聞いたことがある。

 最悪な事にここには帰還不可、或いは魔法紙使用不可の縛りが設けられていると考えられる。


 そうなるとここから逃げるには2人を担いで、階段に逃げ込むしかない。ただ、そんな事をしていたらその隙に俺までやられる。そうなれば全員必死だ。


「戦うしかないのか……」


 幸い今の毒で、ボーパルホーンラビットには割合でダメージが入っている。

 なんとかHPがあと一撃で仕留められるまで逃げて、最後は玉砕覚悟で突っ込むしかないだろう。


「ぐぁああぁ!!」


 毒の痛みが付きまとうのか、ボーパルホーンラビットは苦しそうに悶えだした。

 いつのまにか『身体強化』の効果も切れているのか、元の体の色に戻っている。


「回復だけはさせられないな」


 俺は急いであの時の男性の胴体の元に向かった。

 再び胴体を喰われては大幅に回復されてしまう。

 そうなれば俺が逃げ回らないといけない時間も増え、やられる可能性は飛躍的に高まるだろう。


「一か八か……」


 俺は男性の胴体まで駆けつけると、それをアイテム欄に押し当てた。

 普通人間やモンスターをアイテム欄に押し当てたところでどうにもならないのだが、死体であれば或いは……と思い試してみたのだった。


 これが駄目なら、胴体をとにかく遠くに運び、それを守りながら戦うしかない。


「やった」


 アイテム欄に『人間の亡骸(胴体)』という記載が追加され、その場から男性の死体が消えた。

 これで回復される可能性は完全になくなった。


「く、ああぁあ!!」

「後はこいつから逃げるだけ」


 俺は苦しむボーパルホーンラビットに視線を移した。

 毛は恐ろしい早さで伸びだしてはいるがまだまだ生え揃わないだろう。


 今一番恐ろしいのはあの『揺れ』だ。


 まともに喰らえば、動く事がままならなくなる。

 出来れば今のうちに『揺れ』発動のトリガーであろうあの右手を切断してしまいたい。


「今しかないよな」


 俺はふっと息を吐き、左手に持っていたジャマダハルの片方を利き手である右手に移すと、ボーパルホーンラビットに向かって走り出した。

 正直なところ、さっき一撃を貰いそうになったところで、俺には恐怖が植え付けられていた。

 死にたくないという思いが溢れて、泣き出しそうになるのをぐっと堪え、今も小刻みに震える脚をなんとか動かしている。


 ただ、俺が死ねばみんなが死ぬ。その責任感だけが俺を突き動かしていた。


「ぐうぁぁああぁぁああぁ!!」


 俺は苦しみ暴れるボーパルホーンラビットの右手側から攻撃を仕掛ける。

 それに気づいたのか、ボーパルホーンラビットは右手に生えていた爪を俺に向けて、何かをしようとする。


「ぐぅあ!!」

「くっ! そんなことまで出来るのか!」


 ボーパルホーンラビットの爪は勢いよく伸び、俺の脇腹を掠めた。

 

 脇腹からは血がつーっと流れ、その爪がどれだけ凄まじい切れ味なのかを理解させてくれる。


「ぐあっ!」


 爪は素早く元の長さに戻り、もう一度俺を狙い定める。


「くっ! いってえ……」


 俺は思いの外、深く傷ついた脇腹を抑え、地面に膝をついた。

 ボーパルホーンラビットはそのタイミングで再び勢いよく爪を伸ばす。


「かかった『瞬脚』」


 俺は『瞬脚』で少しでもボーパルホーンラビットの近くに移動した。

 すると、爪は俺ではなく、地面に突き刺さる。


「ぐあ!?」


 爪が地面からなかなか抜けないのか、ボーパルホーンラビットはあたふたとし始めた。

 俺はその隙に爪の根元である右手を切断しにかかる。


「はぁっ!!」

「ぐあっ!」


 ボーパルホーンラビットは慌てながらも俺に左の爪を刺し向ける。


 俺はもうこの一撃は躱しきれないと諦め、握っていたジャマダハルを思い切り右手に斬りつけた。


「ぐあぁああああ!!」


 ボトリと落ちる右手。

 俺の左半身に浅めに刺さる爪。


 この攻防は痛み分けといったところか。


「やば、体が……」


 これでしばらくは逃げるだけ、そう思ったがうまく体が動かない。

 身体には痺れが……もしかしてあの爪には痺れ効果が。


「ぐあっ!」


 俺の腹を狙ってボーパルホーンラビットのローキックが飛び出す。



 ごめん。俺もここまでだ。


「また君か……」


 いつまで経ってもローキックは俺に当たらない。

 俺はびびって閉じていた瞼をゆっくり開き、声の主を見た。


 するとそこにはダンジョン【スライム】で俺を気絶させてくれたあの男が、ボーパルホーンラビットの攻撃を片腕で受け止めていたのだった。

お読みいただきありがとうございます。

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