4話 職業ツリー
「ただいま」
「わうっ!」
忠利と連絡先の交換を済ませると俺はゆっくりと自宅に帰った。
時刻は間もなく2時になろうとしているが、愛犬のハウは元気いっぱいに出迎えてくれた。
「よーし、よしよしよし」
「お帰り兄さん」
「ただいま灰人。お前も今帰った所か?」
「ああ。今月の残業時間はどうなる事やら」
俺の弟の灰人。少し前までは同じ会社で働いていて、俺の運転で一緒にこの時間に帰ってきていたものだ。
「今日は俺の飯当番だから兄さんはちょっと待ってて」
「俺はもうあの会社員じゃないし、飯くらい俺が――」
「もう習慣になってるから気にすんなって。それに料理は俺の趣味みたいなもんだからさ」
「そうか」
そう言うと灰人は台所に向かって行った。
あの会社での仕事がどれだけきついかは身に染みている。
それなのにあそこまで元気なのはまだ若いからなのか? 俺と2つしか歳が変わらないけど……。
「ふう、あ、そういえば職業の選択してなかったな」
おおれはリビングにあるソファに腰かけると職業選択をしていなかったことを思い出した。
そもそも今の状況が探索者という職業で、その上でまた職業を選ぶというのは違和感がある。
「えっと、これをタップだな」
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職業選択
・初級剣士
・初級魔法使い
・初級拳闘士
・見習い料理人
・見習い鍛冶師
・初級弓使い
・初級槍使い
・僧侶見習い
・暗殺者見習い
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「うーん。どうするかなぁ。無難に初級剣士かな。剣術スキルもレベル上げてるし」
探索者初日に鉄の剣を手に入れると剣術スキルが習得出来た。
おそらくは装備した武器によってそれ専用のスキルを覚えられるのだろう。
他の職業を選ぶのも悪くないかもしれないが折角上げた剣術のスキルレベルが無駄になるかもしれないと考えれば初級剣士が安牌なんじゃないだろうか。
「よし、じゃあ初級剣士で――」
「わうっ!」
俺が初級剣士を選択しようとした瞬間、ハウが胸元に飛び込んできた。
手元が狂い、俺の指は初級剣士ではない職業をタップしてしまった。
「あっ!」
『職業【暗殺者見習い】の選択を確認しました。【暗殺者見習い】の職業ツリーを開放します』
「やっちまった」
意図せず暗殺者見習いなんていうもの恐ろしい職業を選択してしまった。
暗殺者というと前衛で戦うというより、暗躍してこっそり敵を殺す、前衛のような後衛のようなどっちつかずなイメージがある。
しばらくパーティーを組んで戦う予定もないので、出来ればもっとソロ向きの職業が良かったんだけど……。
「くぅん?」
「ごめんごめん。大丈夫だから。そんな顔するなって」
俺は自分が何かやらかしてしまったと思いしょげてるハウの頭を撫でた。
まったく可愛い奴だよ。
『ジョブポイントが46ポイント貯まっています。ジョブポイントは職業ツリーでまだ解放されていない箇所の解放に用いられます。一度使用してしまうと変更は出来ません。ジョブ進化は一段階目で成ったものの派生になり、重複は出来ませんのでご了承下さい。』
珍しく説明のアナウンスが流れた。これは慎重にポイントの振り分けをしていかないといけないかもしれない。
「取り敢えず確認してみるか」
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職業ツリー
■攻撃
【攻撃+5(消費ポイント:10)】
↓
【攻撃+5(消費ポイント:10)】
↓
【攻撃+7(消費ポイント:20)】
↓
【攻撃+7(消費ポイント:20)】
↓
【攻撃+10スキル獲得(消費ポイント:25)】
↓
【攻撃+12(消費ポイント:25)】
↓
【攻撃+15(消費ポイント:25)】
↓
【ジョブ進化。怪力暗殺者(消費ポイント:5)】
↓
???
■敏捷
【敏捷+5(消費ポイント:10)】
↓
【敏捷+5(消費ポイント:10)】
↓
【敏捷+7(消費ポイント:20)】
↓
【敏捷+7(消費ポイント:20)】
↓
【敏捷+10,スキル獲得(消費ポイント:25)】
↓
【敏捷+12(消費ポイント:25)】
↓
【敏捷+15(消費ポイント:25)】
↓
【ジョブ進化。早足の暗殺者(消費ポイント:5)】
↓
???
■会心威力
【会心威力1.05倍(消費ポイント:10)】
↓
【会心威力1.1倍(消費ポイント:10)】
↓
【会心威力1.15倍(消費ポイント:20)】
↓
【会心威力1.2倍(消費ポイント:20)】
↓
【会心威力1.25倍,スキル獲得(消費ポイント:25)】
↓
【会心威力1.3倍(消費ポイント:25)】
↓
【会心威力1.4倍(消費ポイント:25)】
↓
【ジョブ進化。必殺暗殺者(消費ポイント:5)】
↓
???
■複合
【攻撃+20(消費ポイント10,条件:会心威力と攻撃力共に3段階解放)】
↓
【敏捷+20(消費ポイント10,条件:会心威力と攻撃力と敏捷共に3段階解放)】
↓
【会心威力1.2倍(消費ポイント20,条件:会心威力と攻撃力と敏捷共に4段階解放)】
↓
【ジョブ進化。仕事人(消費ポイント25,条件:会心威力と攻撃力と敏捷共に5段階解放)】
↓
???
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「うわっ。これは悩むな」
どれか1つを積極的に解放していけばいいのか、それともバランスよく上げればいいのか。
そもそもジョブ進化が重複出来ないのだからなりたい職業を絞らなければならないというのも悩ましい。
「うーん」
「ずっと、頭抱えてどうしたんだよ? もう飯出来たぞ」
「あっ! 悪い悪い」
俺は相当悩んでいたようで、いつの間にか灰人がリビングまで料理を運んできてくれた。
大盛のミートソーススパゲティ。揚げナスがコロンと入っているのがたまらなく旨そうだ。
「俺は兄さんが何で悩んでるのかさっぱりだからさ、1回知り合いに相談してみたら?」
「うーん」
と言っても相談出来る奴なんて……。
「おっ! 俺この人知ってる!」
「椿紅姉さん……」
灰人がテレビをつけるとそこには椿紅姉さんの序列アップのニュースが流れていた。
やばい。今日のあの一件を思い出してちょっと辛くなってきた。
ピロンっ!
「兄さんのスマホ?」
「ああ。忠利、か」
俺はスマホに届いた店の位置を知らせる忠利のメールに目を向けながら、思い切って年下に相談することを決意したのだった。
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