198話 9割の作戦
2匹は争っているシードン達を挟み、距離はあるものの向かい合うようにして睨みを利かせている。
だがよく見れば口の端が上がり、この状況を楽しんでいる様にも見える。
生きる為に戦っているシードンと比べて、食事だけが娯楽というわけではないらしい。
だからといって仲間を駒に使った戦争ゲームなんて趣味が悪すぎるが。
「パッと見た所主に【7】から【10】のシードンが数字の大きい順で前衛。数匹の【6】がまとまりを指揮しているように見えるわね」
「ああ。本能のままに戦っているわけじゃなく、戦略の基盤みたいなものが見える」
「そうね。でこれは多分あの座ってる奴らによる指示。もしかしたら【5】は人間や亜人くらい頭がいいかも……。もしあいつらのどっちかの集団が集落に来たら……」
「集落は手痛いダメージを負う……だけじゃないかもな」
顔を青くするメア。
ここまで脅威が迫ってきていたと知ったらこの顔になるのは当然か。
……セレネ様との約束もあるし、争っているこの瞬間を利用して奴らを全滅、そうでなくても撤退させるくらいはしておきたい。
「――俺が、俺と俺の分身が戦場を混乱させる。そうなった時にはあの座ってる奴らも動揺して油断が生まれるはず」
「え?」
「そうなったらメアとトゲくんであっちの【5】シードンの首を頼みたい。無理でもトゲくんの氷の息でしばらく動きを止めてくれれば後は俺に考えがある」
「む、無茶よ!! そんな作戦……まず輝明が戦場を混乱させるって、相手はあの数で、しかもさっきのより強い【6】のシードンもいるのよ」
「こっちに気付かれて後手に回るような戦いだったら無理だろうな。だけど、この状況なら9割くらいで上手くいく。こんな高確率で大量経験値も手に入るし、集団も上には行かせなくて済むなら俺に乗っかる方が得じゃないか?」
「本当に9割で上手くいくならね」
「大丈夫。えーっとあの時からMPも大分増えてるしスキルレベルもあって消費は少ない。後は時間との勝負だけど、これも分身があれば問題ないか。最悪、スルースライムゼリーの残りを使うっていうてもあるし」
「もうやる気満々みたいだけど私は――」
「《透視》『即死の影』『毒の神髄』。あとはこれもか……『回避の加護』」
メアが何か言い出す前に俺はこの作戦中に発動しておいて方が良さそうなスキルをある程度まとめて発動させた。
「凄い数のスキル……でも――」
「さっき言った通りで頼むな。じゃあ行くぞ、『隠蓑』『分身』」
俺は渋るメアを無視して久々に『隠蓑』を発動させた。
なんだかんだ言っても戦場の様子が一気に変わればメアの考えも変わるだろうし、最悪の場合俺一人でも気付かれていないというこの状況なら何とかなるかもしれない。
幸いな事にシードンにはほぼ遠距離攻撃はないし。
それにデメリットを補える『隠蓑』と『回避の加護』のコンボはかなり強い。
「さあてまずは一番前にいる【10】と【9】のシードン達をやるか。『瞬きゃ』――」
「「「ぶおっ!!」」」
限りある時間を有効に使う為早速一番前から崩そうと瞬脚を発動させようとした。
しかし、それと同時に何匹化のシードンが短い悲鳴を上げた。
俺の時間との勝負という気持ちの部分が分身に強く反映されているのだろう。
今回の分身達は本人である俺よりも仕事が早いかもしれない。
「さぁて久々の暗殺業頑張りますか」