197話 争い
「これは……」
「やっぱり……。これはどう見てもワープステーション。きっとボスのいる階層を抜けられない、或いは不安があるシードン達はこっちを利用しているのよ」
シードンをトゲくんに喰わせるのも程々に俺達は洞窟の先へ進んだ。
あれ以降他のシードン達の姿を見ることが出来なかったが、恐らくさっきのシードンの群れは今目の前にあるワープステーションを利用してここにやって来たばかりで、ここに在中している個体はいないのだろう。
「早速これで下に向かいたいけど……階層を選択出来る装置みたいなものはないのね」
「それを作れる程の知識があるのなんてメロウ達くらいじゃないか?それより、ここから先はシードンの巣になってる可能性が高い。万が一待ち伏せでもされてたら……」
「餌を求めて奔走してるモンスター達が警備とかそんな事に時間を費やすとは思えないわ。大丈夫よ」
「まぁ【10】のシードンくらいなら直ぐ対応できるか……」
「そうよ。慎重もいいけど時間がないならある程度大胆さも必要よ。さ、行きましょう。多分このワープステーションは乗れば起動する筈よ」
俺はメアに諭されてワープステーションの上に乗った。
すると空中に『上・下』の記号が掛かれたボタンの様なものが浮かび上がった。
さながらエレベーターの様だ。
「シードン達がどうやってこれを操作したのかと思ったけど、これなら簡単ね。じゃ、下を押すわよ」
そう言うとメアは俺の返事を待つ事なくボタンを押した。
すると前に利用したワープステーションと同じ様にそれは動作した。
ただ目的地への到着は以前よりも早く、俺達の目の前は直ぐに違う景色へと変わった。
「ぶもぉっ!」
「ぶっ――」
そして飛び込んで来たのは、俺達を迎え撃つ為に待ち伏せをしているシードンではなく、互いに殴りあい、争っているシードン達。
「何よ、これ」
その光景を見たメアは開いた口が塞がらない様子。
きっとメロウは仲間意識が強く、こういった蹴落とし合いをする光景を実際見る事に慣れていないのだろう。
殴り合いはしないが蹴落とし合うのは人間にとっても日常茶飯事。
それを考えるとメロウは人間よりも遥かに綺麗な生き物だと思う。
「上で話した餌の為の争い、或いは何か別のものを賭けた戦いか……。なんにせよ数が多いな」
パッと見、争っているのは2つのグループ。
合わせると大体200以上はいそうだ。
中には【10】以上の個体もいるし、一旦身を隠して争いが終わるのを待つ方が良さそうだ。
「隠れるぞ。急いであっちの岩影に」
「分かったわ」
慌てて近くの岩影に隠れて争いを観察する。
幸運にも争いに没頭しすぎてこちらに気付いてはいないようだ。
「酷いわね」
「生きる為とはいえな。協力体制、繁殖対策、そういった考える事がまだ不得意。だからこうして争うしかないのかもしれない。或いは……」
「あのふんぞり返ってる奴らがこれを楽しんで見てるから、でしょ?」
俺はメアの問いに頷くと争いに混じらず岩の上で座る2匹の【5】シードンを見つめたのだった。