195話 真珠
さっきの【7】との戦闘でレベルが上がった事でトゲくんの氷の息は【10】のシードンがそれを回避する事も息で跳ね返す事も出来ない程の速さで吐き出されていて、その範囲と、混じる氷の結晶がまるで吹雪のようにも見えた。
味方としてはこんなにも心強いものはないが、もし野生でこのレベルの攻撃を不意打ち気味に放たれたらたまったもんじゃないだろう。
「よくやったわトゲくん」
「凄いな。これなら楽勝――」
――パキッ。
勝利ムードに沸く俺達に水を差すように凍ったシードン達からパキパキと氷の割れる音が聞こえ出した。
よく見ればHP自体はそこまで減っておらず流石のタフさ。
しばらく経ってしまえばきっとこのまま動きだし、トゲくんのこの攻撃は殆どのシードンにとって本の少しの足止めという役割で終わるだろう。
ただ、急所が突ける俺にとってはこれだけ相手の動きを止めてくれるという事は確定で勝ちを作ってくれたも同然。
「『贋作』『瞬脚』」
俺は贋作で自分の分身を生み出すと手分けしてシードンの急所を突く。
普通に倒した場合1体辺り約3000の経験値。
これでも充分に豊富な経験値だとは思う。
「でも牙を折れば――」
『取得経験値80000』
アダマンタイトスライム等に比べれば大した事がない数値かもしれないが、シードンの沸きの良さや無抵抗な状態で簡単に牙を折れる事も考えれば相当稼ぎがいい。
まさかシードンがホーンラビットと同じ要領で経験値を稼げる経験値モンスターだったなんてな。
これが【7】のシードンやそれ以上の個体で出来たら……。
あれ、もう経験値稼ぎシードンでよくな――
『取得経験値10000』
牙を折った筈のシードンから得た経験値が表示され、俺は首を傾げた。
序列はどれも【10】。
何でこいつだけこんなに貰える経験値が少ないんだ?
もしかして何か他に条件でも……。
「トゲくん、輝明が倒したシードンを食べていいわよ」
「がぁっ!」
あらかた倒したのを確認するとメアはトゲくんにシードンを食べさせ始めた。
僅かだがさっきよりも身体が大きくなった気がするのはまたレベルが上がったからという事なんだろう。
「――がっ」
「どうしたの?」
ようやく全てのシードンを倒し終えて一息ついていると、トゲくんに異変があった。
どこか渋いその顔からは進化とかそういう喜ばしいものでない事が簡単に読み取れる。
「大丈夫か?」
「HPも減っていないし大丈夫だと思うわ。ただ何か硬いものを噛んだみたいで、歯が欠けたみたい」
「硬いもの?」
「トゲくん、今噛んだもの飲み込まない方がいいわ。正体の分からないものは毒になりえるから。一旦吐き出して」
メアが背を撫でるとトゲくんは嗚咽を漏らし始め、ころんと何かを地面に吐き出した。
メアはそれを躊躇なく拾いにいき、光に透かしてみせる。
「これ、シェルプリーストの真珠じゃない。割られずに残ってる。しかも大分大きく育ってるわ」
「そのドロップ品は高く売れたりするのか?」
「売れるわね。でも大抵はこれを割るの」
「割る?」
「シェルプリースト自体からの取得経験値が高いのは勿論、これを割ることでより多くの経験値が得られる。それがシェルプリーストが経験値稼ぎにうってつけのモンスターと言われる所以なの」