187話 自慢の筋肉
「『瞬脚』」
俺は瞬脚を使って間合いを詰めると既に発動している《透視》によって露になっている急所目掛けてジャマハダを突き出した。
しかしシードンはこの攻撃に対して表情1つ変えずに、冷静に身体を翻してかわして見せた。
筋肉隆々でゴツゴツな肉体は想像以上に俊敏だ。
「ブゴッ」
「重っ――」
カウンターとしてシードンが裏拳で顔面を狙ってきたので急いでジャマハダルを使ってガードしたが、あまりの攻撃力に腕が衝撃によるダメージを受けてしまった。
するとシードンは俺がダメージを受けた事を察して次々に攻撃を打ち出す。
派手なスキルや状態異常を付与してくるわけでもない、ステゴロでの攻撃ではあるが、武術の型のような動きに隙がなく反撃が難しい。
初撃で仕留められなかった後、一旦距離をとって遠距離での攻撃に切り替えた方が良かったかもしれないな。
それかスキルを使って完全な不意打ちをするとか……。
まぁもう終わった事を悔やんでも仕方ないか。
「『剛腕』」
俺は自分の腕をスキルで強化すると、シードンの攻撃をなんとか弾く事が出来た。
そしてその隙に空いていた脚で腹部に慣れない蹴りを喰らわせる。
蹴りでの攻撃は俺の攻撃力がそこそこ高くなっている事もあってメアの攻撃よりかはHPが減らせている。
とはいえシードンの表情には余裕が見られるし、やはり急所を突く必要はあるな。
「今度はそっちからか」
攻防に区切りがつくとシードンは体勢を低くして地面に手をついた。
俺はそれが次の攻撃の準備だと判断して、身構える。
『即死の影』での遠距離を仕掛けても良いが、まだ相手に攻撃パターンがあるのなら、今後を考えて見ておきたいからな。
「ブゴッ! ブゴッ! ブゴッ! ブゴッ!」
「――えっ」
シードンが声を出しながら始めた行動に俺は思わず素っ頓狂な声をあげてしまった。
その行動はあまりに見慣れすぎていて、モンスターがこれをするとどこか可愛らしいというか、人間臭さみたいなものを感じてしまう。
「腕立て伏せ……今度は腹筋か」
牙を地面に当ててしまいながらシードンは次々に筋トレメニューをこなす。
額にかく汗や疲れたといった表情は俺の蹴りを受けたときよりも辛そうだ。
まったく。
これに一体何の意味が――
「ブゴォォ……」
一頻り筋トレを済ませるとシードンは立ち上がって深く深呼吸をした。
すると元々逞しかった筋肉が更にみるみるうちに大きくなる。
そうか、これがモンスター流のバンプアップって訳だな。
「ブゴ」
シードンはパンパンに膨れた大胸筋をパンパンと叩くとまるで『打ってこい』と言わんばかりにその胸をはった。
「そんなに自慢したいのか……。なら望み通りに喰らわせてやるよ」
シードンの急所である鳩尾を俺は思い切り突いた。
確かに突いた感触は硬いまるで鉄に攻撃しているよう……。
「けど相手が悪かったな」
即死が決まりドスンと倒れるシードンに向かって俺はそう吐き捨てたのだった。