179話 汗
「それなら俺、自信があります」
「自信? 何か策でもあるのか?」
「俺のスキルは会心の一撃が確定で出せるので、防御力が高いだけなら問題ないかと。通常壊せないような硬いものとかも、壊せたり出来ます」
「「――えっ」」
俺の発言にメアとセレネ様が目を見開いて驚いた。
俺からすれば記憶を消してしまうスキルとか、モンスターを使役するとかも相当珍しいと思うけど。
「それは大層なスキルだな。実際に見てみたいものだが……」
「身体がもう少し良くなればいくらでも」
「なんにせよ回復だな。……時間が無いとも言っていたし、仕方ないか」
セレネ様は神妙な面持ちで席を立ち、俺の横に椅子を並べた。
これってさっきまで布団を一緒にしていた回復スキルの効果を高める方法?
「セレネ様! 人間にそこまでするのは……」
「記憶は消せるのだ。それに、『シードン』による脅威はメアが思っている以上に深刻。妾がこれをする事でそれを早めに対処出来るのであれば安いものだ」
「それはそうかもですけど……」
「それに輝明の持つスキルがあれば……あれもなんとか出来るかもしれん。であれば1秒でも早い方が良かろう?」
「……はい」
渋る様子のメア。
え? 一体これから何が起きるの?
「輝明……。す、少し失礼するぞ」
セレネ様は照れるように俺の手を握った。
なんだか異様な雰囲気だけど……大丈夫だよな、これ。
「ちょっ、すみません。私達が一旦失礼した後でお願いします。貴方達もこっちに来なさい」
「「えーっ!!!」」
「我儘言わないっ!!」
アルジャン達がメアの言う事を聞く様子が無いので、俺はアルジャン達に手を振った。
すると渋りながらもアルジャン達はメアの後を追って部屋を出ていく。
来たばっかりなのに申し訳ないけど、空気を読む練習だと思って我慢してくれ。
「――え」
「わ、妾の尾に触れているのだからもっと、なんだ、嬉しそうな顔でもしてくれんか……」
3人が出ていくとセレネ様は俺の手を自分の腰より下の辺りに連れていった。
鱗のザラっとした感覚が何とも言えず気持ちがいい。
「はぁ、っぁ……」
「すみません! だ、大丈夫ですか?」
「あっ! その、だ、大丈夫だから続けてくれ」
俺が鱗の軽く撫でるとセレネ様は色気のある声を発した。
俺はまずいと思い直ぐに謝るが、セレネ様にそれを続けてくれと頼まれてしまった。
それは別に構わないけど、これにどんな意味が?
なんだか罪悪感がヤバいんだけど……。
「んっ……」
俺が手を忙しなく動かすとセレネ様は身体をビクビクさせながら、息を荒げる。
そして次第にセレネ様は異常な程の汗を掻き始め、鱗の色に異変が……。
「うあっ!」
セレネ様の額から大きな汗の粒が1つ流れ、虹色に変化した鱗を伝う。
そして、その一滴は俺の手に乗る。
「汗が虹色……」
鱗の色が移ったのか、汗が虹色に煌めく。
綺麗なものではない筈なのに、目を奪われるほどの美しい見た目だ。
「はぁ、はぁはぁ……それは妾の、『セイレーンの汗』と呼ばれるアイテムだ。ふ、うぅ。す、すまないがこれを出すと妾はしばらく力が――」
セレネ様は熱い息を吐きながら、俺の膝に頭を乗せてしばらく動かなくなるのだった。