175話 信用信頼
「どうしても?」
「頼む。これはアルジャン達に頼むから意味があるんだ」
アルジャンの登場に一旦は『早速裏切ったぞ』とか『また人間に襲われる』とか慌てた様子を見せながら喚いていた人達だったが俺の一言でピタリとその口をつぐんだ。
鳩が豆鉄砲食らったような顔がこんなに揃うと少し笑えるかもな。
「輝明、そこまでしなくても……」
「信頼っていうのは簡単に得られない。毎日毎日仕事をこなして、残業も断らず、休日出勤も嫌な顔をしない、無遅刻、無欠勤、これに加えて仕事の早さを上げてミスもしない。それでようやく大きな仕事を任せて貰えるかもしれないってレベルなんだ。今すぐ信頼を得るなんてこれぐらいしても怪しいと俺は思う」
俺の説明にピンと来てないメアは首を傾げた。
そりゃあ分かんないのも無理ないよな。
「アルジャン」
「……うん」
アルジャンと今握られているルージュには嫌な思いをさせる事になってしまったな。
後でしこたま謝ろう。
「うっ」
「うっぐああああああああああああああああああ!!」
激痛が脚だけではなく身体全体に走った。
声を出さなければ、意識を保つのも難しかっただろう。
「輝明……」
「ごめんごめん、ごめんなさい」
「う、ごめんなざい」
滴る血はシャボンの底に溜まり少し温かい気がする。
メアはその光景に口が塞がらず、手で口元を押さえている。
帰り血を浴びたアルジャンと勝手に人の姿に戻ったルージュは血まみれになりながら泣き出してしまった。
半端ない罪悪感が全身を包むが、俺は続けて言葉を綴る。
「こ、これで、俺は歩けない。手も使えないからポーションによる回復も出来ない。俺にメロウを、あなた達を攻撃するつもりはないです。分かって欲しい。もしこれでもか駄目なら今度は指を……。アルジャン、悪いけど――」
「「いやああああああああああ!!」」
アルジャンとルージュは大声で泣き叫び始めてしまった。
酷かもだけど場合によっては2人にもっと頑張ってもらわないといけないのに……。
「み、みんな見たでしょ! この人に攻撃の意思はないわ!お願い、この人を集落に連れ込むのを許して!」
アルジャンとルージュの泣き声に負けないほど大きな声でメアは懇願すると、俺と同じように頭を下げた。
すると、辺りがまたざわつき始め、今度は野次馬の中にいた数人とユーリが俺達の、俺の元に恐る恐る近づいてきた。
「ほ、本当に害はないみたいね……」
「こんなに近づいても攻撃してこないなんて……」
「出血が酷いな。早めに回復させてやらないとこいつ本当に死んじまうぞ」
珍しいものを見るような人、状態を確認してくれる人、色々いるが決して俺に触れようとはしない。
こんなに近いのに遠く感じるな。
うあ、なんか、眠気が……また歌?
「回復スキルを持ってる人かポーションを持ってる人はいるか?」
「「お願い!テル、もうアイテム出せない!」」
メアとアルジャン、ユーリの声が聞こえる。
目はもう開けられない。
「退きなさい! 妾がスキルを使う!」
低めで透き通った大人の女性の声。
その美しい声を聞きながら俺はそっと気を失うのだった。