17話 ミニドラゴンスライム
「結局全部食べきってしまった……」
「スルースライムは後半の階層にはいませんでしたわね。あれを手に入れるには30階層前半に戻りませんと」
「本当はボス戦で使えればよかったんですけど……仕方ないです。行きましょう」
結局ここ39階層の階段に辿り着くまでに全部で6個手に入れていたスルースライムゼリーの内半分が特殊効果を付与してくれた。
最後のこのフロアに入った瞬間、効果が切れ、このフロアだけなかなかの戦闘回数をこなしてしまった。
その所為で桜井さんに『ヒール』を使わせ過ぎてしまった事が心残りではある。
ただ、今この勢いを殺すのは勿体ない。
「どんなボスが出るか……」
「お願いですから30階層で見たようなのは止めて欲しいですわ」
俺達は緊張からかゴクリと息を飲見込むと、ゆっくり階段を降りる。
そして40階層。階段を下るよりも他のフロアよりも、40階層は暗かった。
曇天の空のような暗さに少し気がめいりそうになる。
それに反して……。
「ごがぁあああぁぁぁあっぁああ!!」
目の前のパタパタと羽をはためかせ浮かんでいるスライムが可愛い見た目とは裏腹に凶暴な声で鳴いている。このモンスターは元気いっぱいという様子だった。
「あら、思ったよりも可愛らしい見た目の子で安心しましたわ。これならそこまで苦労せず倒せ――」
「う、ぐっ、ごはぁあぁ」
桜井さんが安堵の表情を見せるとそのスライム、『ミニドラゴンスライム』が小さい口をこれでもかと開き、白い息を吐いた。
すると、その白い息が霧となってミニドラゴンスライムの姿が見えづらくなった。
「なら。≪透視≫」
『この霧は≪透視≫のレベルが低いため透かせません』
≪透視≫を発動して霧を攻略しようとした。だが、この白い霧は今の≪透視≫では透かせないようだ。
もっと≪透視≫のスキルレベルを上げておくんだった。
「くそっ。それでも見えなくなったわけじゃない」
俺はうっすらと姿の見えるミニドラゴンスライムに真正面から突っ込んでいった。
「ごがっ」
「くっ」
俺がジャマハダルで斬りかかるとミニドラゴンスライムはひらりと俺の攻撃を躱した。見た目以上に俊敏なようだ。
「たぁっ!」
躱した先に丁度桜井さんがいた。
桜井さんは手に持った鞭を思い切りしならせ、ミニドラゴンスライムに鞭を打ちつけた。
「なっ! 確かに当たったはずですわよ!」
ミニドラゴンスライムのHPは100分の1、いやそれよりももっと減っていなかった。
今までのボスとは一味も二味も違う。
「ごはぁああぁあぁああ」
ミニドラゴンスライムは再び口を開き、くるくると回転しながら炎を辺りに撒き散らした。
「くっ!」
「これは面倒ですわね」
炎を避ける為に俺達は後ろに跳んだ。
「どこにいった?」
跳んだ事でミニドラゴンスライムの姿を見失ってしまった。
霧の所為で少し目を逸らしただけでこの様だ。
「ごはぁああぁぁぁああぁぁあ」
「右かっ……」
いつの間にか右側でミニドラゴンスライムがはためいていた。
それに気づいたときにはもう遅い。
ミニドラゴンスライムの口から今度は電気の塊がバチバチと音を立てて飛び出す。
咄嗟に両手でガードをするが、それを無視して全身に電気が走った。
「うぁぁあああぁああ!!」
「白石君!?」
俺は地面に膝を着いた。
電気の痺れは一瞬で終わらず、ぱりぱりとまだ体に残っている。
指を少し動かすだけで痛みが……これが麻痺状態ってやつか。
「白石君! 『キュア』」
俺の身体が薄緑色に光って、痺れが抜けていく。
桜井さんが居てくれて心底良かった。
「ありがとうございます」
「HPはそこまで減っていないですわね。大丈夫そうで安心しましたわ」
「攻撃の威力はそこまで高くないみたいなので。でもあいつ強いです」
「私の一撃がほとんど効いてませんでしたし、今の私達では強敵で間違いないですわね」
「ごぁあっ!」
俺達が四苦八苦しているというのにそれをあざ笑うようにミニドラゴンスライムは近くで霧に紛れながら飛び回っていた。
その姿はまるで子供のようにも見える。
「一応HPも回復させておきますわ『ヒール』」
「ごぁあっ!」
緑の光がパッと点く。すると辺りの霧が一瞬だけ晴れ、ミニドラゴンスライムの姿が鮮明に映し出された。
ミニドラゴンスライムは一度地面に着き、眩しそうに羽で目をこすると急いで霧に隠れた。
「これは使えるかもしれない」
「え?」
「すみません桜井さん。唐突ですがお願いが」
「な、なんですの改まって。何だか緊張しますの」
「囮になってくれませんか」
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