165話 全身全霊
「がぁ、あっ、ががぁああっ!!」
「くぁ! うっ、なんで止まんねえんだよっ!!」
シーサーペントのHPはゴリゴリ減っているし、尻尾はもうボロボロ。
痛覚が無い訳じゃない。
相手を絶対に殺してやる、生き残るのは自分。
生存競争の中で芽生えた執念が俺に襲い掛かってきているのだ。
このモンスターがボスじゃない事が不思議だ。
こいつは強い。
「は、はは……スキルで倒すのは勿体ないな」
楽しい。
殴り合いのこの戦闘が楽しい。
「もっともっと激しくっ!!」
俺はジャマハダルを投げ捨て、素手でシーサーペントに向き合った。
突然の事に驚いたのか、ジャマハダルという武器の状態だったアルジャンとルージュは人の姿に戻りこっちを見つめた。
投げ捨てた事に怒ってはいないようだ。
「がぁっ!」
俺が武器を手放したからか、シーサーペントは尻尾ではなく口を閉じてもはみ出してしまっているその尖った牙で攻撃を仕掛けてきた。
避けるのは難しくない。
だが俺はあえてそれを受け止める。
「この牙、このまま折ってやる」
両手に力を籠め牙を折ろうとするが、瞬間冷たい風がふっと流れた。
俺を凍える息で凍らせようというのだろう。
しかし、俺は冷たいと感じるだけで凍る事はなかった。
これもレベルの差が影響しているのか?
ともかく俺にはこいつの息は効かな――
「が、ぁ……」
俺の手は凍らないがシーサーペントの牙が瞬く間に凍り、刺の形の氷が形成された。
掴んでいた両手の下にも同じように刺の形の氷が形成され、俺の手を突き刺した。
俺は完全に貫かれてしまう前に手を離したが、シーサーペントはそれを狙っていたかのように頭部にある短い角で俺を突きにきた。
「くっ! なら……たぁっ!!」
俺は後ろへ倒れ込みながら角の攻撃を躱し、そのまま右足を振り上げた。
思い切り振り上げたつま先は角の中央部分を完全に捉えた。
バキッ!!
角の折れる音。
俺の放ったカウンターは角の一番脆い場所に丁度当たってくれたようだ。
流石にここまでダメージを与えられたなら怯むか?
「が、ぁああ……」
シーサーペントは唸り声を上げながら上体を反らした。
「これはチャンス――」
俺は急いで起き上がるとしゃがみ込み足に力を溜めた。
そして右拳を作るとそれを突き出しながら飛び上がった。
確かこの攻撃……カエルアッパーなんていう呼び方があったけ。
「喰らえええええっ!!」
「がぁ……」
俺は叫び声を上げながら、シーサーペントの目を見る。
するとその目は痛がり怯んでいるというものではなく、闘志で満ち満ちていて――
冷気が辺りに充満。
シーサーペントは自分の身体、全身を凍らせて氷の刺を纏わせながら倒れ込んできた。
「楽しすぎるだろ、そんなの」
「がぁあああ!!」
互いの全身全霊を掛けた攻撃が衝突し、この楽しい時間は終わりを告げるのだった。