16話 スルースライム
「なんだこいつ。いっ!」
俺は再び攻撃を受けた。
その先に視線を移すと同じスライムがもう一匹。
「くっ!」
「桜井さん!」
2匹のスライムに対して構えると今度は桜井さんがダメージを受けた。
これで3匹。
別にこのスライムの体が見えないわけじゃないのに……。
「≪透視≫」
俺は透視スキルを発動させて、辺りを見回した。
すると、このスライム達の他に3匹の赤い点が見えた。
こんなにも近くに。それも透明になったりするスキルを使っているわけじゃないのに。
≪透視≫が無かったら攻撃を受けるまで気付く事は出来なかっただろう。
「こいつらっ!」
俺はジャマハダルを装備して透明なスライムの一匹に斬りかかった。
透明なスライムは慌てて逃げようとするが、動きが遅く、簡単に攻撃が当たった。
こうなればこっちに怖いものはない。
「きゅっ!」
「しかもHPが極端に低い。そもそも不意打ちを打ち込んで敵を倒さないと終わりって感じのモンスターっぽいな」
透明なスライムは俺が会心の一撃を一発打ち込んだだけで倒れ消えていった。
絶命するときの鳴き声とか弱さに少しだけ可哀想と思ってしまったが、元々こいつらが攻撃を仕掛けてきたのが悪い。
「たぁっ!」
桜井さんもしっかりと認識出来るようになった個体を難無く倒して見せた。
俺はその姿に安心を覚えて、取り敢えず≪透視≫で認識できるようになったスライム達から先に処理をする。
「よし、こっちは終わった。桜井さんも……大丈夫そうだな」
俺はスライム達を倒すとさ桜井さんの様子をちらりと見て、ドロップ品の回収に移った。
ドロップ品は『スルースライムゼリー』。
どうやらスライムの名前はスルースライムだったらしい。
今回は数もほどほどで、攻撃力も低かったからよかったものの、これのボス個体が現れたらたまったもんじゃない。
「認識阻害スキルかな? もしこれが使えたら、モンスターに気付かれなくて楽……いや使えるかもしれない」
俺はジャマハダルをしまい、スルースライムゼリーを掌に乗せた。
そして意を決してそれを口に放り込んだ。
「んっ。んあ……。甘いくて、ちょっと美味いな」
「私全部倒しましたわ! あれ? 白石君、どこ? どこなんですの?」
思わぬ美味しさに感動していると桜井さんの方も片付いたらしい。
そこで俺にもう一つの吉報。
桜井さんは俺を認識出来ていないのだ。
「ここですよ」
「う、うわっ! いつの間に!」
俺はするっと桜井さんの側によるとその肩に軽く手をおいた。
桜井さんの驚き方が面白くてつい笑いそうになったが流石に可哀想なのでここは耐える。
「このスルースライムの素材を食べたら認識阻害の特殊効果が付与されたみたいです。効果時間とかもあると思いますが」
「白石君、それ、食べたんですの?」
「ええ。甘くて意外においしかったですよ」
桜井さんの顔が急に引き攣った。そんな顔されると流石にこっちも傷つく。
「……確かに、白石君には気付きませんでしたし、今だってHPゲージが見えませんわ」
「効果が発揮されてる証拠ですね……って桜井さんも」
「私がどうかしたんですの?」
いつの間にか桜井さんのHPゲージも見えなくなっていた。
肩から手を離すとまたゲージが現れ、肩に手を置くとまたゲージが消える。
もしかしたら触れている間相手にもこの効果は反映されるのかもしれない。
これはとんでもないチートアイテムを手に入れた。
「スルースライムゼリー、俺が全部貰っていいですか? それでこのまま一気に40階層に向かいますよ」
「え、ええ。別に構いませんわけど。あんまり落ちてるものを嬉々として食べる姿は上品といえませんわ。せめて私の見えないところで――」
俺は急いでスルースライムゼリーを拾い集めると桜井さんの手を引いた。
効果時間がどれだけあるか分からないし、この後スルースライムがどれだけ沸いてくれるかもわからない。
ボスの間まで突っ走るなら今が好機。
「ちょ、ちょ、白石君、手、手が……」
「すみません。効果時間が分からないし、スルースライムゼリーの特殊効果が絶対付与されるとも限りません。痛いかもしれませんが我慢してください」
「別に痛くないですわ。ちょっと強引だなって思っただけで……。こ、今回だけ、と、とと特別ですから」
「ありがとうございます。もう少し急いでいきますよ。頑張って着いて来てください」
「……うん」
こうして俺と桜井さんは40階層までモンスター達に気付かれることなく颯爽とフロアと階段を駆け抜けていくのだった。
お読みいただきありがとうございます。
面白いと思っていただけましたらブックマーク・評価を何卒宜しくお願い致します。