150話 痣?
「はいはいはいはい、お茶入れてきたわよ。あなた達はこっちでいいわよね」
エクスに家の中へ招かれると、洋風な内装とは真逆のあっつあつのお茶が出てきた。
アルジャンとルージュには白い飲み物が……美味しそうに飲んでるけど牛乳であってるよね?
それ。
「それで? 交渉とか依頼とか庭で見た人達の事とか、それ以前に聞きたい事がありそうだけど」
「ここは一色虹一の自宅ですよね? であればダンジョンを隠すのは探索者協会の手によってこの家が……そうですね、例えば立ち退きを強制的に実行、その後に有無を言わさずとり壊される、なんていう被害に遭わないようにする為ですか?」
「うーん、ダンジョンがバレてこの家自体がどうなるかは私にも詳しく分からないわ。ただあいつは、バレたらもうここで生活出来ないよって言ってるわね。だからあなたの想像通りの事が起こると思って間違いないんじゃないかしら?」
俺の質問に対して思った以上にドライな反応を見せるエクス。 理由は別にあるのか?
「あいつが家自体に思い入れがあるとかどうとかは知らないけど、ダンジョンが探索者協会保有になる事、それと――」
「お茶菓子をお持ちしました」
エクスが何か言いかけると給仕服を着た女性が俺達の前にお菓子を差し出してくれた。
美味そうな饅頭だ。
「ありがとうエニス。とっても美味しそうね」
「味にも自信ありますよ。なんたってこちらの小豆や砂糖は上等なので。しかも作りたてです!」
『こちら』、なんだか引っ掛かる言い回しだ。
俺は女性に違和感を感じ、少し失礼とも思ったが、その姿を観察した。
一見普通の女性。 気になるとすればスカート越しでも臀部がふっくらとしているのが分かるのと首元にちらっと痣のようなものが見えるくらいか。
「あ、あの、もしかしてお嫌いでしたか? 一色様と同じ人族の方々なら好きなものも一緒かと思ったのですが……」
「いえ! 甘いものは好きです! ……人族?」
俺が人族という言葉に反応すると女性は大きく目を開いた。
「よく見ればあなた……。その首の根本の痣。痣ではありませんわね」
「えっとあの、エクス様もしかしてこの方々はまだ…」
桜井さんが痣について触れると、女性はそっと痣を手で隠してエクスを見た。
不安そうな顔。
今までは見えなかった女性の恐怖心が表面に現れたようだ。
「私達が何でダンジョンを隠しているのか、それと合わせてこの人達についても説明しようと思ってたんだけど……。先にこの人達の事は話しておいた方が良かったかぁ」
「その、痣じゃないならそれって……」
俺が疑問符を浮かばせると、エクスはふーっと息を吐き女性を見た。
「エニス、見せてあげられる?」
「は、はい。一色様とエクス様のご友人の方々ですから」
女性は首から手を離し、更に服を少しだけ引っ張ると露になったその部分を俺達に見せてくれた。
光が当たり黒く見えていた痣ではないそれがキラリと輝く。
それはいくつにも連なっていて服の下まで続いていそうだ。
「これは鱗です。私達はリザードマン。人とモンスター両方の性質を持っている亜人種です」




