表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

138/315

138話 見覚え

「今日もいい天気だよ椿紅姉さん。灰人達はまたレベル上げでダンジョンに行ってるみたいなんだけど、あいつ俺には絶対今のレベルを教えてくれないんだよなぁ。いっつもそんなに上がってないとか適当言って。俺の事どっかのタイミングで驚かせようとでもしてるのかな? 大人なのにたまーに子供っぽいんだよあいつ」


 俺は病室のカーテンを開け、椿紅姉さんの寝ているベッドの横に置いてある椅子に腰掛ける。


 椿紅姉さんはいつものように目を閉じ、俺の話に反応すらしない。


 点滴生活から1ヶ月。


 顔はやせ細り、その姿は今にも……。


「まだ、起きないか……」

「橙谷さん」


 がらりと扉の開く音がすると、橙谷さんと茶ノ木さんが病室にやって来た。


 橙谷さんは他の探索者と比べて目覚めたのが早く、車椅子も早々に卒業し、今では松葉杖で病院内を自由に歩ける程に回復している。


 それでもスライムに寄生された副作用として何が発現するのか分からない。

 念のため全快するまではここで入院生活を送っているのだ。


 そんな橙谷さんを心配して、俺と同じく茶ノ木さんは毎日毎日この病院まで足を運んでいる。


「病人の目の前でそんな辛気臭い顔をするのは良くないな。沈んだ気持ちっていうのはその気がなくても伝染する」

「そうかもですけど……」

「そうだ! 今日は椿紅さんのお身体を私が拭いてげましょう! お二人は外に行った行った!」

「え!? 茶ノ木さん?」

「おいおい! 押すなって!!」


 気まずい空気を断ち切るように茶ノ木さんは、俺と橙谷さんを病室の外へ押し出した。


 あんな強引な事するんだな茶ノ木さん。ちょっと意外だ。


「はぁ、まぁ丁度いいか。白石君、ちょっといいか?」

「……はい」


 俺は橙谷さんに連れられて中庭に移動した。


 吹き抜ける風が少し冷たい。


「ふぅ、風が気持ちいいだろ」

「ちょっと寒いかもです」

「そうだな、あれから1ヶ月……肌寒くなってもおかしくない時期だ」

「……」

「……点滴生活で生きていけるのは長くて3ヶ月らしいな」

「……」

「俺ですら1週間以上。悪いが、椿紅が後2ヶ月で自然に目が覚めるとは……」

「だったらどうすればいいんですか!!」


 橙谷さんの言葉で閉じ込めていた感情が漏れ出してしまった。


 あれから1ヶ月、決して何もしなかった訳じゃない。


 高級ポーション、状態異常回復スキル、俺が今出来る事は一通り試してみた。


 桜井さんが一色虹一からもらったという薬以外は何の効果もなかった。

 その薬も効果は一時的、しかも口がゆっくりパクパクと動くという反応をもたらしただけ。


 はっきりいってもうお手上げ状態なのだ。


 せめて一色虹一に薬の事を聞き出せれば、或いは……。


 ただあの男の所在は一向に掴めず、どのダンジョンに潜ってもそれらしい人影を見つける事は出来なかった。


「……。これは俺も見た事はないし、ただ聞いただけの話なんだがなんでも『妖精の花』という万病に効くアイテムが存在――」

「妖精の……花っ!?」


 妖精の花、それは俺の頭の片隅ですっかり埃をかぶっていた情報だった。


 一筋の希望が頭をよぎり、俺は再び大声を上げてしまった。


「あの、あんまり大声を出されると困る人だっているんで……あっ!」

「ああっ!!」


 中庭に響いた声を注意しに俺の元まで来た男性とその男性に押される車椅子の女性。


 女性に見覚えはないが、男性には覚えがある。


「鶯川さん!」

「白石君がなんでここに?」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ