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135話 地上

「はぁはぁ……やっと、か」


 階段の先から見える光が目に染みる。


 ダンジョンが崩壊する音と先から聞こえる人の声が混じり始め、無事帰ってこれた事を実感する。



「みなさん!! ご無事ですか?」

「はぁはぁ、茶ノ木さん? 何で?」


 崩壊するダンジョンをようやく抜け出して地上に出ると、そこにはC級1位の茶ノ木さんと見覚えが無い人達が集まっていた。


 まるで今から団体でこのダンジョンに潜り込むようなそんな雰囲気だ。


「ダンジョン40階層以前で地震のような揺れや地響きがあったという事で、協会から様子見てくるように依頼が……。それより、皆さんお怪我はありませんか? それと、あの……」

「あ。橙谷さんなら無事……ですよね?」


 茶ノ木さんの不安そうな顔を見て、俺は橙谷さんと茶ノ木さんの関係を思い出すと、直ぐに一色虹一と剣の顔を見た。


「橙谷っていうのが誰かは分からんけど、全員持ち帰ってるはずだぞ。ほらお前ら、疲れてるかもしんないけどアイテム欄から出した出した!」


 一色虹一はパンパンと両手で鳴らすと、俺達にバラバラになった探索者メンバー達を出すように急かす。


 にしても、この人はあれだけ走っておいて余裕そうだな。


「え! ええ!? こ、これ本当に大丈夫なの?」


 バラバラになった探索隊メンバー達を見た茶ノ木さんは動揺を隠せないようで、口に手を当てながら今にも泣き出しそうだ。


「私のスキルでこうなってるだけだから大丈夫よ。ふぅ。『再編』」


 剣が両手を合わせてそう呟くと、探索隊メンバー達の部位がいくつかのまとまりに仕分けされ始めた。


 そしてそのまとまりは、徐々に人の形を形成し、元の姿の戻っていく。


「よ、よかったぁ。戻れたぁ……」

「忠利!」


 元に戻り、安堵の息を漏らす忠利に俺と灰人、それに桜井さんで駆け寄った。


「お前ら、あそこは止めてくれよ……」

「だそれはあなたが運動不足で、足手まといになっていたからですわ。それにしても……何ともありませんの?」

「ああ。不思議だが、痛みもない。身体は動かせなかったが、意識はあった。まぁまたバラバラになりたいかと言われたら絶対にノーだけどな。自由な身体ばんざ――」



「う、あああぁっぁぁ!」



 忠利が腕を振り上げようとした時、女の人の泣き声が辺りに響いた。


 俺はその声のする方へ視線を移す。


 するとそこにはクールな印象からは想像出来ない程、顔をぐしゃぐしゃにしながら橙谷さんを抱きしめる茶ノ木さんの姿があった。


 今回の件は極めて異例で、危険な探索だった。


 それにダンジョン内の異変。

 茶ノ木さんがどんな思いで橙谷さんの帰りを待っていたか。

 なんとなくだが、想像出来る。


「兄さんも」

「そ、そうですわ。あなたは何の為に必死な思いをして、こんな危険なダンジョンに潜ったんですの」

「……椿紅姉さん」


 灰人と桜井さんに声を掛けられ、俺は床に倒れている椿紅姉さんの元に急いで駆け寄った。

 後遺症で直ぐには起きないだろうけど、息はある。生きてる。


「椿紅姉さん……。う、うう、よかった……」


 俺は椿紅姉さんをそっと抱き寄せて、『大切な人が助かった』、ただその事実に喜び、涙を溢した。


「桜井さん……」

「……。こ、これで正々堂々ライバルと勝負出来、ますわ。うっ、ぐ」

「桜井さん、泣いて……」

「これは、みんなが助かった嬉し涙ですわっ!! って何ですのあれ?」

「あれって……。兄さん!!」


 俺は灰人の呼び声で、振り返った。



 ぴちゃ。



 足元のドロッとした感触、水音。


 それはこのダンジョンで嫌というほど感じて来たもの。


 まさか、ダンジョンから出てきたっていうのか、このスライムは。

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