127話 傍観者
「やった――」
「油断すんなっ!!」
剣から激が飛んだ。
アダマンタイトスライムはダイヤモンドスライムが消えた事で動きを止めるのではなく、そのまま俺を攻撃してきたのだ。
鳩尾に近づくアダマンタイトスライムの手。
その形状はいつの間にか細い筒状に変化していた。
医療用の管にも似たそれは俺の身体に刺さると、赤黒い色に染まる。
「ぐ、あっ!!」
「ちっ!」
一色虹一は舌打ちしながら管に剣をあてがった。
あてがった部分は抉れ、ゆっくりと管を断ち切れるとすぐに再生する。
「大丈夫か?」
「は、はい」
血を吸われ頭がフラフラするが戦えない程じゃない。
ただ絶好の攻撃チャンスを無駄にしてしまったのは勿体なかった。
「人間の血を対価に……《リバイブ》」
アダマンタイトスライムは俺達がすぐに反撃しない事をいい事にスキルを行使させる。
さっき吸われた俺の血が零れ、地面に広がると小さな靄が現れる。
そしてその靄の中から、さっき殺したはずのダイヤモンドスライムが再び姿を現した。
「確率は10パーセントだったけど……ふぅ、なんとか成功したかぁ」
アダマンタイトスライムは額の汗を拭う様な仕草を見せる。
汗なんかかいてないくせに。
「それにしてもこれじゃあ装備しても意味ないなあ。だったら……」
アダマンタイトスライムはダイヤモンドスライムを口に放り込んだ。
ゴリゴリと咀嚼音を立て、上手そうにごくりと飲み込む。
だがアダマンタイトスライムの姿に変化は見えない。
しかし、纏っている雰囲気にすごみが増したような。
「レベルアップか……」
「私が持っているスキルも効かないかもしれないわ」
一色虹一と剣が言葉を交わし、ファイティングポーズをとった。
俺もそれに釣られて、慌ててジャマハダルを構えた。
だが……。
「がら空きがら空き」
いつの間にかアダマンタイトスライムが懐に潜り込んでおり、その拳が俺の顎にヒットした。
俺は目を逸らしていたつもりはない。
それでもアダマンタイトスライムの攻撃に反応出来なかったのは、相手が圧倒的敏捷性を持っているから。
「くっ!!」
ダメージはそうでもない。
俺は適当にジャマハダルを振り回し、カウンターを狙ってみるが案の定空振り。
「あっぶな! お前の攻撃はもう喰らわないよ」
さっきの攻防で俺の攻撃に相当敏感になっているらしい。
「退いてなさい!」
剣の声と同時に俺は一色虹一に突き飛ばされた。
俺だって戦えるのに。戦いたいのに。
そんな気持ちが折れてしまうような映像が俺の目に映る。
「ははは!! 昂ぶる! 昂ぶるよ!!」
「うーん。これでもまだ敵わないか。やっぱり装備の方が良かったかな?」
お互いの攻撃が交わり、火花が散り風が起きる。
早すぎる2人の動きは目で追うのもギリギリ。
こんなの俺が混ざれるわけがない。
「ぐっ! おおっ!!」
「ナチュラルスタンは効くけど、1秒も入らない、か。それに入る確率も低い」
一瞬アダマンタイトスライムの動きが鈍った。
ナチュラルスタンは一応効くらしい。それにアダマンタイトスライムの体には僅かに抉れた箇所が。
おそらくこの抉れこそ剣の持つスキルだろう。
ただ、それをしてもアダマンタイトスライムの再生能力の方が高く、相手の動きを完全に止めるような致命傷にはならない。
「S級1位でも勝てないのか?」
次第に体に傷が目立つようになる一色虹一。
その姿に俺は絶望を隠し切れずにいると、俺はある事に気付いた。
「あれは……」
2人の側に散る黒い物体。
それはふよふよと揺らめき、のっそりのっそりと動く。
モンスターの名前表記もない。
ただ分かるのはその物体にもしっかり急所があるという事だけだった。