124話 アダマンタイトスライム
「形勢逆転だな、小紫」
「くそ、くそクソクソクソクソおおお――」
一気に形勢逆転。
追い詰められた小紫は自分の頭を両手で抱え込み、絶叫した。
だがその絶叫は唐突に止んだ。
「……。フフ、ハハハハハハハハハハハハ!!!」
「な、何がおかしい!」
そして小紫はさっきまでとは打って変わって高らかに笑い始めた。
よく見ればその瞳からは光が無くなっている。
気が狂っただけにしては明らかに様子がおかしい。
「ア、ガ、タシカ、ココ……」
片言に変わった小紫は自分のアイテム欄をいじり始めると1つの瓶を取り出した。
それが何かは分からないが、小紫のしたいがままにするのはまずい。
俺はそれを阻止する為に慌てて小紫に攻撃を仕掛ける。
しかし……。
「まぁ待てって」
「なんで!? は、離してください! ご、『剛腕』」
一色虹一がいつの間にか俺の手を掴んでいた。
その手を振りほどこうと必死に力を籠めるが、手はびくともしない。
こっちは『剛腕』まで使っているにも関わらずだ。
「正直なところ、折角ここまで来たのに消化不良だったていうか……。探索者ならもっと滾る戦いしたくない?」
「はぁ? そんな事言ってる場合――」
パリンッ。
一色虹一の子供じみた考えに疑問符を浮かべていると、小紫は瓶の中身を飲み干し、その瓶を地面に落としていた。
すると小紫の体はドロッとした黒紫色の液体に包まれ徐々に変化。
そして現れたのは人型のスライム。
見た目だけならゼリーのような弾性がありそうで、今までスライムに寄生された人間の姿よりも遙かにモンスターらしい。
羽や角らしき部位もあって、なんというか悪魔のような雰囲気も感じられる。
「『アダマンタイトスライム』か。このダンジョンにはいるはずのないモンスター。しかも、人間を取り込んだユニーク体。ヤバいな、久しぶりにゾワゾワしてきた」
モンスター名、『アダマンタイトスライム』。
その姿と感じられる雰囲気から強敵だという事がひしひしと伝わり、自然と額から汗が噴き出す。
「いやぁありがとうありがとう! やっとコイツから解放されたよ。それにしても馬鹿だよねこいつ。モンスターを進化させる薬なんてものを作るなんて。万が一自分の体に巣食ってる俺がそれを飲んだらどうなるか、リスク回避能力が低すぎ」
流暢に話し出した『アダマンタイトスライム』。
どうやら小紫の意識と体は完全に乗っ取られてしまったらしい。
「モンスターを進化させる薬かぁ……。悪いけどそれ、もらってもいい?」
一色虹一は凄まじい速さで距離を詰めると、『アダマンタイトスライム』の顔面目掛けて蹴りを放った。
「びっくりしたけど痛くは――。ん?」
「お、『アダマンタイトスライム』にも高頻度で『ナチュラルスタン』が決まるようになってきたか」
間違いなく『アダマンタイトスライム』は強い。
しかし、これ以上に一色虹一は強いというのか。
とにかくこれなら、問題なくこいつを討伐出来る。
「加勢します」
「おう!」
「滅多打ちは駄目だ……って」
俺の放ったジャマダハルでの突き攻撃が完全に決まった。
そう思ったのだが、俺の正面には小さくて黒い謎の歪んだ円と、そこから現れた一匹のシルバースライムが。
なるほど。
どのくらいの規模感なのかは分からないが、こいつはメタル系スライム、いやもしかしたら全部の種類のスライムかもしれないが、自分の意思で味方をこの円から出し入れ出来るらしい。