122話 S級2位の罪
「おーい! これ任せるぞ」
「え?」
戦闘に目を奪われていると、力の抜けたような声と共に担がれていた猩々緋さんが俺達の元に投げ飛ばされてきた。
それを俺と灰人で受け止め顔を覗き込む。
白くなった髪と急に老け込んだ顔。これがあの猩々緋さんだと言っても一体何人が信じてくれるだろうか?
「その人を回復させますわ。取り敢えず横にさせて。灰人は周りをお願い」
桜井さんの指示で猩々緋さんを横にさせると、灰人と忠利は俺達を守るように少しだけ前に出た。
まさか灰人の背中がここまで逞しく見える時が来るなんてな。
「『ミドルヒール』」
桜井さんは俺が見た事の無い回復スキルを猩々緋さんに向かって使い始めた。
スキル名や光り方から察するに普通の『ヒール』よりもランクの高い回復スキルのようだ。
灰人だけじゃなくて桜井さんも確実に成長している。
「ふう、取り敢えずHPの方は大丈夫ですわ」
「ありがとうございます桜井さん。でもまだ状態異常の方が」
「状態異常? でもこの方には特にそれらしい変化は……。まぁそういうならチェックしておきますわ、『診察眼』」
これも新しく覚えたスキルだろう。
よく見ると桜井さんの右の黒目が十字状に変化している。
「うーん。やっぱり以上は見られないですわね……」
「そんな事はないはずです! もう一度――」
「多分、これは状態異常という判定にならないんだと思います。もはやこの状態が私の正常なんでしょう」
俺が桜井さんにもう一度スキルを発動してもらう様に声を掛けようとすると、横になっている猩々緋さんが口を開いた。
見た目だけでなく、声も以前に比べて老けたように聞こえる。
やはりこれも……。
「『時の剥奪者』は承諾した他個人或いは自分の若さを引き換えに発動出来るスキル。それで今回は私の若さを引き換えにして発動したというわけです」
予想通りスキルの副作用。
強力なスキルはいくらスキルレベルを上げたところでこういったデメリットを負ってしまうものなのかもしれない。
「すみません。俺、そんなスキルを発動させてしまって……」
「別に白石さんが悪いわけじゃありません。だからそんな辛そうな顔しないでください」
「……」
「……。それに私はちょっとだけホッとしてるんですよ」
「え?」
思いがけない言葉に思わず言葉が漏れる。
ホッとした?
「このスキルを試す為に私はある少年の若さを奪いました。だけれどその少年は私を咎めず、ただただ若さを取り戻すアイテム……。いえ、正確に言えばすべての異常を無効に出来るアイテムですね。それを探して探してとにかくたった一人で、誰の手も借りず過酷なダンジョンに潜り続けました。償いとしてそれを手伝うという私の申し出を断り続けながら」
「償えないけど、同じ状況にたったから少しだけ罪悪感が和らいだと?」
「……そうですね。最悪なのは分かるんですけど」
「……。それにしてもそんなアイテムあるんですね」
俺は少し場が重くなったことを感じて話を少しだけ逸らした。
今は猩々緋さんを責めるのも違うし、共感する事も違う気がする。
「その人が言うにはあるらしいですよ。なんでも治す、元に戻せる、『妖精の花』というアイテムが。何でもどこかの壁画に書かれていたとか」
これは以前鶯川さんから聞いたことのある話だ。
たしか、鶯川さんはあるS級探索者から聞いたんだっけ……。ん? これってもしかして
「その探索者って今も探索者をしているんですか?」
「私は何としてでもその罪を償いたい。だから探索者協会会長と同程度の権力であるS級1位の座に就いて、『妖精の花』獲得の為だけに探索者達を利用しようとしました。だけど、見てください」
猩々緋さんの指差した先には余裕そうな顔で戦う一色虹一という男が一人。
「その時の少年は私がいくら努力しても追いつけない程強くなってしまいました。S級1位一色虹一は私を咎めないが、どうあっても償わせてはくれないみたいですね」