119話 空間認識自在爆発
「おめでとうおめでとう。いやぁ、まさか椿紅がこの様なんてね。余計に君を使って研究したくなってきたよ」
小紫は煽るように拍手をしながら、一歩一歩ゆっくりとこっちに近づいてくる。
「『瞬脚』！！」
俺は余裕そうな面をしている今が攻め時と判断して『瞬脚』を発動させた。
奇襲を仕掛けるのは明らかにリスクが高いが、こうでもしないとこの人数差で戦うのは厳しい。
それに俺達には動けない探索隊メンバーが複数。
万が一それを人質にでもとられたら……。
それにもっと最悪な場合、例えばメタル系のスライムを探索隊メンバー全員に寄生でもさせられたら……。
いくらS級2位の猩々緋さんが居たとしてもそれを乗り切るのは不可能なんじゃないか？
「喰らえ」
小紫との間は簡単に縮まり、俺の突き出すジャマダハルと小紫の急所の間には遮るものが何もない。
間違いなく当たる。
そう確信した俺はジャマダハルを握る手により力を籠め、呟いた。
しかし。
「栗宮さん」
「『空間認識自在爆発』」
バンッ！！
ジャマダハルの先端部分で急に爆発が起き、俺の攻撃は横に逸れてしまった。
「まだ……」
バンッ！！
「ぐあっ！！」
俺がもう片方のジャマダハルで攻撃をしようとすると、今度は踏み込んでいた右足付近に爆発が起きた。
爆発の威力がそこまで大きくなかったお陰で、致命傷に至るほどではないが、体のバランスが崩れ、俺はそのまま地面に這いつくばる。
「駄目だよ白石君。折角君の事を褒めてあげてるのに、そんな悪いことしちゃあ」
「こ、こむら――」
慌てて起き上がろうとする前に小紫の足が俺の顎を蹴り飛ばした。
一瞬意識が飛びそうになるが、何とかこれを堪える。
「くっ！ えっ！？」
俺はまずいと思い、取り敢えず後方に逃げようとしたが足が思い通りに動かなかった。
今のダメージの所為か？
それともスキルで……。
「シルバースライムに取り込まれた事による後遺症だね。他の探索者の人達よりかは軽いみたいだけど、しばらくは自分の体が自分のものじゃない。そんな感覚が時たま現れるんじゃないかな」
「後遺症だって？」
「ポーションも効かない。現代医療でも治せない。あるのは時間経過による自然治癒と――」
「大閃光」
小紫が何か言い終わる前に部屋全体が眩い光に覆われた。
そして気付けば俺の身体は誰かに持ち上げられ、移動を始める。
「悔しいですがここは逃げるしかないです」
「猩々緋さん……」
光の所為で目が見づらいが俺を担ぎ上げたのは猩々緋さんだったらしい。
この人はこんなスキルまで使えるのか。
「栗宮達までやられてるなんて……。最悪です」
猩々緋さんは探索隊のメンバーを無視しながらその足を速め、階段に足を掛ける。
「待ってください！！ まだ、まだ他の探索隊が……」
「……。試したんですけどここでは魔法紙が使えません。多分ですが【マジックキャンセラースライム】がどこかに隠れているのでしょう」
「でも、ここで逃げても――」
「今回の探索は失敗。しかも今回の事で敵戦力を増やしてしまうという失態まで……。それでも、あなたが、あのスライムにダメージを与えられる白石さんさえいれば希望はあります。じっくり時間をかけてレベルを上げてもう一度――」
バンッ！！
俺達の目の前で大きな爆発が起きた。
猩々緋さんと俺はその爆風に飲まれ、大きく後退してしまう。
「そんなちゃちな目くらましが効くとでも？ 逃がすわけないだろ。白石君とS級2位を手に入れられる折角の機会なんだから」
小紫の言葉が合図になったかのように、目の前に大量のシルバースライムが集まり、さっきの爆発で崩れた階段を塞ぎ始めた。
「まったく、本当はここの全員に寄生させるための子達だったのに……。まぁいいや。あんた達2人を動けなくしてからでもその作業は出来るもんね」
壁はあの時よりも分厚い。
これを壊している時間を小紫がくれるとも思えない。
「猩々緋さん……」
「……。勝率は殆ど0。本当に最悪です」
猩々緋さんは俺の身体から手を離すと、やれやれといった様子で武器を構えるのだった。
