11話 毒状態
「なんで課長まで来てるんですか?」
「あなたは私の誘いを断りました。せめてレッドメタリックスライムを倒す瞬間をこの目で見させて頂きます」
時刻は16時。
酔っぱらった勢いで寝すぎた俺は重たい足でダンジョン【スライム】に来ていた。そう、この桜井課長と。
「良いですけど……30階層以降はたぶんフォローとか出来ませんよ。というか目的の40階層まで一緒に行きます?」
「行きますわ。白石君がよりレアな魔石を手に入れるかもしれませんもの。それよりフォローしてくれる前提なのが……あなたって本当にずるいですわよ」
何がズルいのかさっぱり分からないが、了承してもらってなによりだ。
30階層以降は俺もまだ足を踏み入れた事がない。それに@モンスターもかなり強くなるみたいだし……。不安だ。
「そ、それで40階層まで行くんですのよね? でしたら準備が必要ですわ。白の魔法紙と意識阻害寝袋が出せるこげ茶の魔法紙に食料……。準備は出来てますの?」
「食料は固形食が。日帰り、場合によっては寝ずに狩りしていこうかと思っていたので、寝るためのものは用意してないですね」
「えぇっ! 白石君、あなたはもう会社員じゃないんですのよ! しっかり寝ないと駄目ですわ! まずはお店に寄っていきましょう」
「ちょ、ちょっと課長、勝手に――」
「桜井綾子。桜井さんでも、特別に綾子さんと読んで頂いても構いませんわ」
「じゃあ、桜井さん」
「……うふふ。結構。さぁ行きますわよ!」
俺は桜井さんに手を引かれながら、ダンジョンに向かう準備を整えるのであった。
◇
「はぁはぁはぁ、ちょ、ちょっと待って、待ってください」
「次が10階層。ボスになります。俺が前でボススライムを引き付けるので、少しでも攻撃を入れてください。そうすれば桜井さんにも経験値が入りますから」
「そ、それは分かってますわ。ただ、ずっと走りっぱなしはキツイですわ」
「そうですか? そういえば俺も最初は……」
俺と桜井さんは10階層に続く階段の前で立ち止まった。
息を切らし、両手を膝に当てがう姿に懐かしさを感じる。
まだ2週間くらいしか探索者をしてないが、自分の成長を感じる。
敏捷のステータスが上がった事も関係してたりするのだろうか?
「はぁ、はぁ、ふぅ」
「水、飲みますか?」
「助かりますわ」
俺はアイテム欄から水を取り出すと桜井さんに手渡した。
桜井さんはごくごくと水を流し込むと、手で口を拭った。
その仕草に普段のお嬢様らしさは全く感じない。だが、何故だかかっこよく見える。
「お返しします。10階層、ボスに止めを刺すのはこの私ですわ!」
復活した桜井さんは意気揚々と階段を下っていった。
そういえばレベルとか一切聞いてなかったけど、いきなりボスで大丈夫なんだろうか?
不安を抱えながら10階層に降りると、見るのも嫌なくらい倒したボススライムが体を震わせていた。
「きゅるあぁぁあああぁあ!」
「桜井さんは背後に! 俺は前から攻めます!」
「了解ですわ!」
俺はアイテム欄からジャマダハルを取り出し装備した。
桜井さんの武器は鞭のようだ。
「新しい武器の力、試させてもらおうか! ≪透視≫」
俺は≪透視≫を発動させて急所を見上げた。
そして、ボススライムが動き始める前に距離を一気に詰める。
「敏捷が上がればこんな事も出来る。今の俺にはその眉間の急所も届かない場所じゃない」
俺はボススライムの体に足をかけ、一気に飛び上がった。
「はぁっ!!」
「きゅるあっ!?」
飛び上がった先に見えた急所を両手に持ったジャマダハルで出来る限り突き続けた。
ボススライムのHPは瞬く間に減っていく。
「一気に倒したかったが、少し残ったか……」
「はぁっ!」
ボススライムのHPを削りきる前に俺は地面に戻った。
すると俺の攻撃で怯んでいるボススライムに対して今度は桜井さんが攻撃を仕掛けた。
「きゅるあああぁぁああぁぁあぁあ!!」
桜井さんの攻撃が当たる瞬間、ボススライムは思い出したかのように仲間を呼び出し、いつもの様にスライムが現れた。
俺は地面から湧き出たスライムを瞬殺し、レッドメタリックスライムを確認する。
「ん? あれは?」
ボススライムのHPのゲージが紫色に変化していた。おそらくこれが毒状態を表しているのだろう。
それと気になるのはボススライムに埋まっているレッドメタリックスライムを示す黒い点までもが紫色に変わっていたこと。
もしかして、ボススライムだけじゃなくてレッドメタリックスライムにも毒が決まった?
「止めですわ!」
桜井さんの鞭がボススライムの尻に決まるとボススライムはぐったりと倒れた。
「やりましたわ! やりましたわ! やりましたわ!」
「まだです!」
毒が決まった事もあったのか、桜井さんがボススライムを倒した。
そして俺は逃げ出そうとするレッドメタリックスライムに追い打ちを決めた。
レッドメタリックスライムは2発の攻撃であっという間に倒れたのだが……。
「ボススライムを倒す前に、逃げた」
これは……もしかしたらリスポーンの30分を待たずして……。
「ねえ! やりましたわよ!」
「あ、は、はい」
考え事をしている俺を無視してハイタッチを要求する桜井さん。
俺はそのテンションにもっていかれ、それに応じたのだった。
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