105話 土人形
俺はスルースライムゼリーを頬張ると、霧の中を走った。
《透視》のお陰で3人の位置は把握出来ていて、柿崎さんと桃ちゃん橙谷さんの2グループに分かれている。
俺の姿を追う事が出来なくなり、各々で俺を探索しているといったところだろう。
相手が生み出した霧の影響もあって、橙谷さん達が互いの位置を把握し辛くなっているのも俺にとっては好都合だ。
「『瞬脚』」
俺はまず桃ちゃんを狙い『瞬脚』で間合いを詰める。
スキルとスルースライムゼリーの効果で俺と背負っている女性には気付いている様子がまるでない。
この機を逃すまいと俺は無防備な桃ちゃんの心臓部分に見える急所をジャマハダルで突く。
「あが!?」
毒が運よく一撃で入り、桃ちゃんの体からはシルバースライムが飛び出した。
桃ちゃんは一瞬呻き声を上げ、その場に横たわったが、HPの残り的にまだ余裕はありそう。
俺はすぐさま飛び出したシルバースライムを倒そうとするが……。
「『アースドール』」
俺の攻撃を土で出来た人型の人形が遮った。
「ちっ」
俺は舌打ちをすると、バックステップで一度その人形から距離をとる。
しかし
ブンっ。
俺の耳に風を斬る音が鳴り響く。
俺がその音のする方へ視線を移そうとすると、俺の頬の横に土で出来た人形の手が真横にあった。
どうやら風を斬る音はこの人形の拳によるものだったらしい。
俺は取り合えずジャマダハルでそれの急所を突き、破壊。
一旦その場から離れようとするが……。
「な!?」
いつの間にか俺の周りは複数の土の人形で囲まれていた。
おそらくさっきの攻撃の所為で俺の存在を認識、そこまではいかないものの大体の位置情報がバレてしまったのだろう。
大量の土の人形は大勢で俺の元に集い始めると、俺の身体を徐々に圧迫し始めた。
もちろん抵抗はしてみるものの、倒せど倒せど土の人形は量産される。
次第に俺は身動き出来なくなり、その場に拘束されてしまった。
ダメージはないが、この状況はまずい。
「『グランドサンドバインド』」
ずると今度は大きな2枚の土の壁が現れ、左右から迫ってきた。
壁は土の人形もろとも俺を挟み込もうと徐々にスピードを上げてくる。
正確な位置情報が分からないからとはいえ、まさかこれだけ大がかりな攻撃を仕掛けてくるとは思わなかった。
それにしてもこのシルバースライムの魔法攻撃スキル無効というのは直接対象にダメージを与えることを主としたスキルしか無効に出来ないのか……。
「くそっ」
俺は打開策が無いか辺りを見回す。
しかし、目に映るのは大量の土人形と、少し離れた所で両手を組みスキルを行使し続ける橙谷さんの姿があるだけ。
相手は近くにいるのに何も出来ないもどかしさ。
俺にも遠距離攻撃が出来る魔法スキルでもあれば……。
そう思いながら、俺は無駄と分かりながらも打開策を考える為に自分のステータスを表示してスキルを眺める。
『贋物』
さっき取得したスキルが俺の目に飛び込んだ。
スキルの効果は分からないが、その字面から想像出来るものがこの状況をひっくり返すことの出来るものだと信じて、縋るように俺はそのスキルを発動させたのだった。