100話 危機一髪
「あれは……」
俺の目に映ったのは1人の女性探索者とそれを囲む柿崎さん達。
だが明らかに様子がおかしい。
さっきの悲鳴……もしかして柿崎さん達がこの女性を襲っている?
なんで柿崎さん達がそんなことを……。もしかして。
不思議に思って遠くに見える柿崎さん達の表情を細目で確認すると、全員顔色が青く、どこか普通ではなかった。
特に柿崎さんの顔には見覚えの無い銀色の斑点が浮かんでいる。
「『透視』『瞬脚』」
「『韋駄天』『クイックミニマム』『アイアンメイデン』」
とにかくさっきの悲鳴はこの女性のもの。
俺は『瞬脚』を使って急いで女性の元に駆け寄る。
そして猩々緋さんもこの状況を危険と感じたのか慌ててスキルを発動させた。
「え?」
「うあ?」
猩々緋さんの発動させたスキルの効果か、女性の体が急に小さくなり、柿崎さん達と共に驚きの表情を見せた。
するとその瞬間、柿崎さんの背後からアイアンメイデンが出現し、開かれたアイアンメイデンの腹に柿崎さんが吸い込まれる。
「早く離れろっっ!!!」
「は、はい!」
珍しく声を荒げる猩々緋さんに女性は返事をし、急いでこちらに向かって走り出した。
小さくなったことで女性は橙谷さん達の腕をすり抜け、自由に動けるようになっていたのだ。
「うがっ!!」
「くっ!!」
俺は女性を追いかけようとする橙谷さんと女性の間にすっと割って入った。
橙谷さんの体には黒い大きな点。
椿紅姉さんの時よりかは小さいが……間違いない、寄生されている。
「『ナックルアース』」
俺と橙谷さんはお互いの腕を掴みあい、取っ組み合い状態になる。
その状態を打開すべく先に動いたのは橙谷さん。
スキル名を呟くと地面から土で出来た大きな拳が現れ、俺を襲う。
「ぐっ!!」
土で出来た拳がクリーンヒットし、俺の体を後方に吹っ飛ばした。
そして桃ちゃんを始める他の探索者がそんな俺に追撃をかける。
「『ティアドロップ』」
「『光輪斬』」
「『剛掌波』」
グルグルと高速回転する光輪、鎌鼬とは違う広範囲の衝撃波、キラキラと輝く水の粒、それらが一斉に俺に襲いかかるが、俺にはそれを防ぐ術がない。
ボクシングの要領で両手でガードを試みるが……。
「ぐあっ!!」
一番先に届いた衝撃波によって体が軋んだ。
腕の骨を折ったかもしれない。
このままじゃ残り2つの攻撃を受け切れるわけがない。
これは流石に諦め……。いや諦めちゃ駄目だ。椿紅姉さんを助けるまで俺は――
「『シルド』っ!!」
絶体絶命の窮地に立たされ、必死に頭を回転させようとすると、俺の目の前にガラスのような透明な壁が出現した。
バンっ!!
凄まじい衝突音が鳴り響いたが、壁は残りの攻撃をいとも簡単に防く。
このスキルも猩々緋さんのものなのだろうか?
「白石さん! アイアンメイデンももう持ちそうにありません。一旦こちらへ」
「安心して! 壁はまだ維持出来るから」
俺はその言葉を聞き慌てて振り向く。
翳された小さな手と額に滲む汗。
どうやらこの壁は小さくなったあの女性のスキルだったらしい。