10話 迷惑お嬢様
「あ、う。……23時半か。寝すぎたな」
あれから俺は家で昼食を済ませると急に眠気に襲われ、仮眠をとることにしたのだが……この通りの様だ。
本当なら14時くらいからダンジョンに潜って40階層に籠るはずだったのに。
「仕方ない。取り敢えずスキルポイントでも振っておこう」
ステータス画面を開き、新しく手に入れた3つの耐性スキルに6ずつ、≪透視≫には16のスキルポイントを振った。
これで、麻痺耐性、睡眠耐性、毒耐性のスキルが各LV3。≪透視≫はLV4に上がった。
剣術の時に試した通りLVを上げるには1、5、10と必要スキルポイントが増えているようだ。
多分LV5に必要なスキルポイントは15になるだろう。
適応力については『モンスターの素材を食べれるようになり、素材によってHPやMPが回復する』というもので、便利そうだが、あんまりゲテモノは食べたくないので保留状態だ。
「余りスキルポイントが9。メモは取らなくていいか」
俺は残りのポイントを確認して、ベッドから起き上がるとリビングへ。
電気は点いていないし、人の気配も感じない。
灰人はまた終電だな。ご愁傷様です。
「……カップ麺でいいか」
俺は部屋の電気を点け、電気ケトルに水を入れると棚から極辛担々麺を取り出すとソファに腰かけた。
あんまりカップ麺ばかり食べ過ぎると灰人が姑みたいにあーだこーだ言い出すが、今日は無礼講だ。
頑張った自分にご褒美のジャンクフード。至福の時。
「テレビテレビ」
俺は湯が沸くのを待ちながら、テレビの電源を入れた。
『今日はあの美女探索者椿紅さんを掘り下げちゃいます! 今日はよろしくお願いします!』
『よろしくお願いします』
そこにはまた椿紅姉さんの姿があった。
最近の探索者の扱いは専らアイドルのようで、ちょっと前にはS級の男探索者が曲をリリースしたとかなんとか……。名前は確か水無瀬だっけ……。
「今の俺とは天と地の差……。俺はいつか肩を並べれるようになれるのかな?」
がちゃっ。
物思いにふけっていると玄関の鍵が開いた音が聞こえた。
残業戦士ブラックのお帰りだ。
「お帰り」
「はぁ……ただいま」
リビングの扉を開けると灰人は深くため息を漏らした。
いつになく疲れた表情だが、なにか失敗でもしたか?
「大丈夫か? 何だか疲れてるみたいだが……」
「うーん……なんていうか、その……先に言っておくとそういう関係ではないし、下心も……ない」
「ん? 何言って?」
「ここが灰人の家? 思ったより綺麗なとこ、ろ、ですわ、ね?」
リビングに入ってきた女性はどんどんたどたどしい喋り方に変わっていった。
なんでここに桜井課長が……。
「兄さんも知っての通り、うちの会社の桜井課長……だった人。もういろいろわがまま言われたり愚痴を言われる事はないって喜んでたのに……。まさか、会社の前で出待ちしてるとは」
「また、あなたはそうやって私の悪口を……。というより、この状況を説明してくれませんこと。なんで白石君がここに?」
まさか桜井課長、俺と灰人が兄弟だって知らなかったのか? それは今更過ぎるだろ。
「白石輝明は俺の兄ですから、一緒の家に住んでても不思議じゃないでしょ。たくもう……まさか自分家行きの終電が無いからって俺達の家に来るなんて」
「しょうがないじゃない! 私は居酒屋とかの雰囲気が好きじゃありませんの! それにホテルなんてもってのほか! 家にいても言い合える人がいない。比較的普通に愚痴を言えるのは灰人くらいしかいないんですわ……」
なんだかとんでもない空気になってしまった。
とにかくめんどくさいのは勘弁なので俺はテレビをじっと見つめた。
『次の目標はダンジョン【スライム】の踏破と全スライム系モンスターを倒せるようになることです』
なるほど椿紅姉さんはそれでそのダンジョンに潜ってたのか。
最低難易度のダンジョンでも初踏破は序列を上げるのにも有効だからな。
「あー! こうなりゃ自棄ですわ! ちょっと失礼しますわね!」
「あ、ちょ、ちょっと!」
桜井課長は勝手に冷蔵庫を開け、缶ビールを煽りだした。
あーもう最悪だよ。
『緊急速報、緊急速報。S級探索者の水無瀬さんが――』
「今日は寝かせませんわよっ!」
「もう静かにして下さい! 今テレビで何か大事な速報が」
「速報なんてどうでもいいですわよ! それにあなたの所為で私は……うわぁああ!」
「もう、俺が何したって言うんですか!?」
その晩俺と灰人は日が昇るまで桜井課長の呑み相手をさせられてしまったのだった。
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