保護された城が母の実家だった話
!この小説を読むにあたっての諸注意!
・この小説は幻獣や精霊等が出て来ます。
・基本的にR18シーンはありませんが、ハグやキスだけはあります。
・精霊や幻獣の見た目などに関しては資料などを参考に、私の解釈で設定しています。
・私の妄想大全開の内容になっていますので、苦手な方は回れ右でお願いします。
以上の事が大丈夫であれば、どうぞお楽しみ下さい。
森の中は見渡す限り、木しかなかった。風が木の間を風が吹き抜けて行く。
『ブリーザ…!少し休まないと!』
何処からともなくシルフィードの声が聞こえて来る。
「大丈夫…はぁ…はぁ…」
ブリーザは息を乱している。
着ている服はボロボロで、泥だらけだ。三日三晩歩き通しで、疲れている。彷徨う森の中、木の実は腐るほどある。火をおこして木の枝に刺した木の実を焼いて食べれば良い。
しかし、森の中での野宿は身体が休まらなかった。疲れはたまる一方で、食欲もなくなり、水さえ受け付けない。
ブリーザはいよいよ立っていることも出来なくなってしまった。地面に座り込み、木に寄りかかる。
『ブリーザ!』
コロボックルが駆け寄る。乱れた息を整えようと、ブリーザは深呼吸をする。
『もう無理よ!今日はもう休もう?』
コロボックルは言う。
「こんな、ところで、休んでたら、死んじゃうよ…」
ブリーザは何とか立ち上がろうとするが、足に力が入らない。
『…待ってて!確かこの辺りに城があったはずだわ!』
シルフィードが言う。
「こんな、森の、真ん中に?」
『私たちは村の近くに住む者だから、こんな奥まで来た事ないけど…』
『捜してみるわ!』
ブリーザはフッと笑って身体を地面に倒した。
『ブリーザ!身体辛いの?』
コロボックルの慌てた声が遠くで聞こえる。答えようと声を出そうとしても口からはかすれた息しか出て来ない。
『ブリーザ!ブリーザ!』
眠い。指さえも動かない身体は自分の意思では何も出来ない。
ふと目に入ったママのネックレスが光っている気がした。遂に幻覚まで見える様になってしまった様だ。身体が温かくなるのを感じたが、もはやその事態を確認する事もなく意識は遠のいて行った。
花のような甘い香りがする。フカフカで温かい何かがブリーザを包んでいる。瞼が重くて持ち上がらない。
『…ブリーザ…?』
聞き慣れた声が耳元で聞こえて来る。
「…ん…」
顔を声の聞こえた方に向ける。
『ブリーザ…』
「…コロボックル…?」
ブリーザは薄らと目を開ける。目の前には小さい姿があった。
『ブリーザ!良かった!身体、辛くない?』
「…うん…」
かろうじてかすれた声が聞こえる。周囲に目をやると、そこは何処かの部屋の様だ。
『あら、起きた?』
女性の声が聞こえる。振り返ると、そこには美しい女性がいた。透き通るような水色の髪の毛は海のような色だ。ブリーザより1〜2歳くらい年上、と言った所だろうか。
『気分はどう?』
女性は聞いて来る。
「ええ。大丈夫です。…貴女は?」
『私はウンディーネ。水の精霊よ』
女性は答える。
「私はブリーザ。助けてくれて…」
『助けたのは私じゃなくてイフリートよ。あいつ、女だと分かれば見境なく手を出すから、また人間の女の子を連れて来たのかと思っちゃったけど』
ウンディーネはそう言って笑った。
「イフリート…火の精霊ですね」
『そう。貴女はシルフィードの子供ね。このネックレス、シルフィードのだし』
「ママを知ってるの?」
『そりゃあね。だってここは…』
ウンディーネが言うと、ドアが開いて猫が入って来た。
『あら、ケット・シー』
ウンディーネはその姿を見て言う。
『…どうやら、意識は戻ったようだな。』
ケット・シーと呼ばれた猫は言う。
『ケット・シーだ』
そう言ってベッドの上に飛び乗る。
「初めまして…」
普通の猫よりも少し大きいくらいで、違和感はない。真っ黒な長毛のケット・シーは、優しくそのフワフワとした毛並みを撫でると、心地良さそうに黄色い目を細める。
「ふふふ…可愛い」
ブリーザは笑う。
『可愛い、か…初めて、言われたが…』
ケット・シーは少し恥ずかしそうに言う。
「そうなの?抱き心地良いし、暖かいし…」
ブリーザが言うと、少し嬉しそうな表情を見せた。
『あらあら。人間は嫌いじゃなかったの?』
ウンディーネは面白そうに言う。
『彼はね、昔は人間に飼われてたんだけど、金銭の問題で何処かに売られちゃったの。その先で虐待されたものだから、人間嫌いに拍車がかかったの』
『そうなんだ…』
ブリーザはケット・シーの耳の後ろを掻いてやる。
『…心地良いな…』
『ブリーザ!私は?
ブリーザが目を覚ますまでずっと一緒にいたんだよ?』
コロボックルはブリーザの肩の上に乗っかり言う。
『小さき者よ…ヤキモチか?』
『違うもん!』
「意地にならないの」
ブリーザは微笑んで指先でコロボックルの頭を撫でる。
コロポックルは嬉しそうに微笑む。
『でも、どうしてこんな森の中で行き倒れてたの?貴女の噂は聞いてたけど、人間たちと暮らしてるって聞いたわ』
ウンディーネは聞く。
「…実は…」
そう言った瞬間、ブリーザのお腹がクゥッと鳴った。ブリーザは顔を赤くした。
『腹が減ったのか?』
ケット・シーは愉快そうに言う。
『フフッ。ちょっと待ってね。今持って来るから』
ウンディーネは部屋を出た。
『…ついに村を追い出されたか』
ケット・シーはボソッと言う。
「え?」
『いや…いくら半分人間の血が入っているとは言え、半分は精霊の血だ。
人間たちがなかなか受け入れようとしない、と風の噂に聞いてのぉ』
「…しょうがない事だけどね」
『でも一歩間違ったらブリーザが死んでた!私は許さない!』
『…小さき者よ。お前は怒ってばかりだな』
ケット・シーは呆れた様に言う。
『当たり前よ!家を焼かれたのよ?
なのに「君に家なんて『宝の持ち腐れ』、『無用の長物』だ。」なんて言ったのよ!』
『…本当か?』
ケット・シーの問いにブリーザは黙って視線を天井に移す。
『…なるほど。そんな想いをしても、父君の仲間を非難は出来なかった、という訳か…』
ケット・シーは前足を片方だけブリーザの頬にすり寄せる。
『ブリーザ、と言ったな。お前は確かに優しい。
しかしな、その優しさのせいで己が傷ついていては意味がないのだ』
「…私が傷付くくらいは良いの。私の周りの人に被害がなければ…」
『…ブリーザ…』
『入るわよ?』
ウンディーネが入って来た。
『こんなものしかないけど…』
そう言ってウンディーネが持って来たのは、鶏肉と木の実を溶けるほど煮込んだもの。風邪の時によく食べられるものだ。
「ありがと…」
ウンディーネは添えられた木のスプーンで掬ってブリーザの口に運ぶ。味が薄い。
そう言えば母の作った料理も薄味だった気がする。精霊は薄味好みなのだろうか。
『…私も頂戴?』
コロボックルは訴えるような目でウンディーネを見つめる。
『…今あげるわ。』
ウンディーネはそう言ってコロボックルにも食べさせた。
『やったあ!』
コロボックルは喜んで食べる。
『…薄味?』
コロボックルは言う。
『そう?』
ウンディーネは首を傾げる。
『身体には良いぞ?』
ケット・シーは言う。
「私のって濃い味だからね。」
ブリーザは微笑む。
『…雨降って来たわね。』
ウンディーネは目を細めて窓の外を見る。微かにサーっと雨音が聞こえる。ベッドの脇にある窓を見ると雨粒がガラスにぶつかってるのが見えた。
『良かったのぅ。雨が降る前にここに入れて』
ケット・シーは言う。
『住む場所ないんでしょ?この城で暮らすと良いわ』
ウンディーネは言う。
「良いの?」
『当たり前よ。ここは貴女の城なんだから』
ウンディーネは微笑む。
「私の…?」
『…そっか。貴女が生まれた時には村にいたから知らないのね。
…ここは貴女のお母さんがお父さんと結婚するまで暮らしていた城なのよ』
「そうなんだ…」
『わしも昔は世話になったものだ。城の仲間はシルフィードを中心に暮らしておった。シルフィードがこの城の王じゃった』
ケット・シーは懐かしそうに言う。
『ここは精霊たちしかいないのよ。だから気にする必要はないわ。変わり者が多いんだけどね。
…今日はゆっくり休むと良いわ。起きたら城の中にいる奴らを紹介するから』
「うん」
ウンディーネが布団を掛け直してくれた。すぐに眠気が襲って来る。穏やかな寝息が聞こえて来るまでにそれほど時間はかからなかった。
枕元ではいつの間にかコロボックルも寝ていた。
『…愛いヤツじゃのぉ』
ケット・シーは目を細めてブリーザの寝顔を覗き込む。
『シルフィードにそっくりじゃ。容姿もお人好しな程優しい性格も、のぉ』
『でも…、確かに村人の行動は許せないわね』
ウンディーネは腕を組んで言う。
『…デュラハンとバンシー、ヘルハウンドに頼むかの?』
『…そうしましょうか』
ウンディーネは部屋を出た。
ブリーザはゆっくりと目を開けた。見慣れない天井。隣を見ると見慣れない大きな身体。
『ん…?おお、ブリーザ。起きたのか』
ケット・シーは起き上がった。
『うっかり寝てしまったのぉ…』
ブリーザの脇でその巨体を目一杯伸ばしている。
『ンン〜…ブリーザ?』
コロボックルはブリーザの肩に顔を擦り付ける。
「おはよう。」
ブリーザはコロボックルの頭を撫でる。背中を起こそうとすると身体がズキンッと痛む。
「っ!」
『無理するでない。まだ身体が本調子じゃないんじゃからのぉ』
ケット・シーは言う。
「はぁ…起き上がれない…」
『まだ怪我治ってないんだよ!大人しく寝てないと…!』
コロボックルは言う。
すると部屋のドアが開いて1人の女性が入って来た。ピッチリとした白いシャツにパンツ、緑色の長い髪の毛に尖った耳。とても美しい。
『あら、起きたの?』
女性はブリーザを見て言う。
『エルフ。痛み止めを調合してくれるかの?』
ケット・シーは女性を見て言った。
『分かったわ』
エルフと呼ばれた女性は手の中から光を放ち、小さな小瓶を出した。
『これを飲めば痛みを和らげる事が出来るわ』
エルフは小瓶の蓋を開ける。中には決して飲みたいとは思えない緑色の液体が入っている。
『飲める?』
ブリーザが背中を起こすのを手伝い、口元に小瓶を口元に寄せた。
「…苦い?」
『薬は苦いものよ』
「うう…」
『ブリーザは薬苦手なんだよね』
コロボックルは笑う。
『飲まないと治らないわよ』
エルフの言葉は強制力がある。
ブリーザは嫌々緑色のドロッとした液体を飲む。口の中に青臭い味が広がった。
「っ…!不味い…」
『美味しい薬なんてないわよ』
エルフは瓶を消す。
『もう少し横になってると良いわ。痛みは落ち着くけど、治る訳ではないから。』
ブリーザの身体をベッドに倒して布団を掛ける。
「はい…」
『かなりボロボロじゃったからのぉ。ゆっくり休むと良いじゃろう。慌てても良い事は無い。
何しろ人間の世界の1日や2日なんて、所詮は我らの一瞬にすぎんのじゃからの』
ケット・シーは言う。
「…うん」
ブリーザは小さい声で答える。
『…辛そうね。いくら私の薬でも治るまで時間がかかりそうね』
エルフの白く細い手がブリーザの頭を優しく撫でる。
『人間の血も入っているからのぉ。
しかも人間と精霊の子供の場合は、男親の血を濃く受ける。ブリーザは人間の血が濃いのじゃろう』
ケット・シーは言う。
「…ママに似てる所はないもの」
ブリーザは静かに言った。
『容姿は似てるわよ?とても美しい容姿をしてるわ』
「ママは頭抜けて美人だったもん」
『お前も十分美人じゃ』
「お世辞言っても何も出ないよ?」
ブリーザはクスクス笑う。
『ブリーザは美人だよ!』
コロボックルは言う。
『お世辞を言えるほど良い男だと良いのじゃがのぉ』
ケット・シーも笑う。ブリーザはフフッと笑いながら目を擦る。
『薬が効いて来たみたいね。あの薬、眠たくなるから』
エルフは微笑む。
『ゆっくり寝ると良いわ。起きる頃には痛みも落ち着いてるだろうしね』
「…うん…」
重たい瞼を閉じてあっという間に夢の中に引き込まれて行った。
ブリーザは夢を見ていた。
闇の中、たった一人で歩いている夢だ。その闇の中で綺麗なメロディが聞こえて来る。懐かしい響きにブリーザは耳を澄ます。
「…ママ?」
生前、母親がよく吹いてくれた口笛の音。風が吹くような高く切ないメロディ。
「…ママ…」
思わず涙が溢れて来る。ブリーザが泣くと、膝の上に座らせてよく子守唄代わりに吹いてくれた。両親と過した思い出の家は灰と化して煙となって消えた。
平気だったはずなのに、今更ながら失ったものの大きさを感じた。
「…グスッ…パパ…ママ…」
泣きながら呟くと、突然周囲が光に包まれた。何かが頬を撫でている。ザラッとした感触。
ふと目を開けると、目の前には黄色い切れ長の目があった。
『…大丈夫かの?』
ケット・シーだ。
「うん…」
ブリーザの涙は止まらない。
『無理はしない方が良い。辛いのならば、泣けば良い』
優しい言葉に、ブリーザは少し笑いながら泣く。
『辛いと言えない所も似ておるのぉ』
ケット・シーは言う。
「そう、かな…」
『うむ。よく似ておる。
…身体が良くなったら、城の中を案内してやろうかの?』
明らかに慣れていない不器用なケット・シーなりの心遣いだ。
「…うん!」
『では、1日も早く傷を治すのじゃ』
「はぁい」
コンコンと部屋の扉が叩かれる。入って来たのはやはり女性だった。短くした赤い髪の毛をツンツンと立てて、かなりボーイッシュな感じだ。
腕の中には金属の桶に水を張ってタオルを引っ掛けた物が抱えられている。
『おはよう。初めまして、だよね。サラマンダー、火の精霊だよ』
ベッドの側にある棚に桶を置く。
『一応、イフリートが連れて来た時に、ウンディーネが身体を拭いたんだけどね。さっきまで寝てたし、もう一回綺麗にしてあげようって事になったんだ』
サラマンダーは微笑む。
『…という事でケット・シー。一度部屋を出てくれる?』
サラマンダーは腰に手を当ててケット・シーを見下ろす。
そんな会話を聞いていて、改めて認識した。ケット・シーは男だ。
『そうじゃな』
ケット・シーはベッドから降りて部屋を出て行った。
『さて…。起き上がれる?』
サラマンダーはブリーザに声をかける。
サラマンダーの手を借りて背中を起こす。確かに先ほどの背中を駆け巡るような痛みはない。
薬が効いているようだ。
そして自分の着ている服を見て首を傾げる。バスローブのようなほのかにピンク色の入った肌触りの良い布だ。
『ウンディーネが着替えさせたんだよ。アンタの着てた服、ズタズタのボロボロの泥だらけだったから』
サラマンダーは言う。
「って事は、この服はウンディーネの?」
『そう言う事になるね。今、ウンディーネが貴女の服を仕立ててるみたい』
腰の紐を緩めて、肩から布を落とす。表れたのは傷だらけで赤くなった肌だった。
サラマンダーは桶に入った水でタオルを濡らす。
『…少し滲みるかもしんないけど、極力優しくするから』
そう言って、ほんのり暖かい布がブリーザの肌を拭いて行く。赤ちゃんの産着のような布で拭いてくれているため痛みはない。傷の上は軽く触れる程度だ。
『…せっかくの綺麗な肌が台無しだね』
コロボックルはブリーザの身体の傷を見て言う。
『綺麗にしたら薬も塗ろう。エルフの薬だから、1日くらいで治ると思う』
小さな壷のフタを開けて指に軟膏を取った。傷に優しく刷り込めば、ブリーザの身体が少しピクッとした。
『痛い?』
「大丈夫…」
『…よし。足も拭こうか。』
サラマンダーは上半分を着るのを手伝い、タオルを濡らす。
自分で出来ないのが些か情けないが、腕に力が入らない。これでは1人で着替える事も困難だ。肩の関節も痛くて回らない。
足を拭いて薬を塗る。
「…今、何時なの?」
『夕方。時計がないから時間は分からないんだ』
「なるほど…」
『この城の中なら必要ないと思うよ?』
コロボックルは言う。
「確かにね」
『…よし。終わり!
横になる?それとも背中起こしとく?』
「起こしとこうかな。寝たままだとベッドと同化しちゃう。」
ブリーザは苦笑した。
『痛みも落ち着いて来たみたいだし、良かったねぇ!』
コロボックルはブリーザの膝の上に乗っかって見上げる。
「本当…皆に感謝しなきゃね」
ブリーダは微笑んだ。
少し長いのでここでカット!
次作から登場人物が一気に増えます。作者も名前覚えられないwww
では!