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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

鬼女対決譚

作者: 藤田正男

俺は、元嫁雅美と、雅美が罠に落とした、雅美の不倫相手の元妻、一恵の最終対決の場に向かっている。

登場人物

 藤田正男 三十五歳 この話の語り手

 中島雅美 三十二歳 正男の別れた妻

 河崎和人 四十五歳 雅美と不倫関係だった、税理士

 河崎一恵 四十三歳 和人の元妻、父親も税理士で地元の有力者

 吉野佳子 三十七歳 和人が最後に落ち着いた相手


幕前 

 俺、藤田正男は、大城市で不動産の仲介業をしている。俺には、一年ほど前までは、美人の妻雅美がいた。しかし、雅美は税理士事務所長の河崎和人と不倫関係にあり、和人と結婚したいがために、俺に強引に離婚を迫ってきた。色々とやりとりはあったが、俺も最後には離婚した。

 一方、雅美は、和人の妻である一恵を、和人から別れさせるため、若い男を差し向け、強引に不倫の事実を作らせた。確かに、一恵自身にも、父の力を頼りに、和人に対して、業務拡張を無理強いして追い込んだ面もある。一恵自身も、和人にとって、よい妻でなかったことは、認めている。

 雅美は、中学時代に親を交通事故で亡くし、母子家庭で苦労をしたらしい。しかし、後で解ったことだが、大学時代には有力なパトロンを見つけ、囲い者として多額の金を入手していた。俺との出会いは、昔俺が勤めていた不動産会社に彼女が詰めていた縁である。俺と付き合っていた頃には、露天で買った三千円のペアリングで大喜びする、可愛らしい面があり、俺はそれに惚れて結婚した。その当時は、雅美の強烈な性格を見抜けなかった。

 なお、河崎和人の不倫は、実は雅美が最初ではなかった。一恵の気性から、家庭生活も安穏ではなかったのだろう。雅美の前に吉野佳子という人と不倫関係にあった。佳子とは一恵が話をつけ別れさせたが、一恵は

「あんな女に渡すなら、佳子に渡してやりたかった」

と後悔していた。そこで、俺は密かに吉野佳子の家を訪ね、河崎夫妻の離婚騒動と、一恵の後悔を伝えた。その後、河崎和人は親から受け継いだ遺産を整理して、郊外にある吉野佳子の家に身を寄せている。

 こうして、色々なモノを失った、中島雅美(旧姓に戻った)と河崎一恵の死闘が始まった。


第一幕 対話での対決

 俺は、河崎一恵の実家等から、色々と支援を受けている。これは、一恵の好意からと、ありがたく受け取っている。そこで、一恵から連絡が来た。

「藤田さん、いよいよ雅美と決着をつけるときがきました。お手数ですが立ち会っていただけませんか?」

「私もこの話は最後まで見届ける覚悟でした。伺いましょう。」

俺は、この劇場に無理矢理立たされたが、ここまできたら最期まで見届ける義務があると思った。そこで、一恵に指定された、居酒屋の個室に向かった。予定時間の少し前についたが、雅美は既に座っていた。直ぐに一恵もきた。俺は見届け人として、二人と少し離れた席に座った。雅美が口火を切った。

「なぜ、藤田さんを巻き込んだの?」

これに対して一恵の口は厳しかった。

「藤田さんを、巻き込んだのは、あなたでしょう。ここまで傷つけたから、最後まで見届けて貰いましょう。」

俺はこれに対して頷いた。雅美は更に続けた。

「確かに、藤田さんが全てを見届けるは、よいかもしれない。あなたが、やった悪辣なことも、知ってもらった方がよいでしょう。」

一恵は返した。

「私も、確かに褒められたモノでは無いと思う。しかし、あなたにだけは言われたくない。私たちの家庭を壊し、純真な藤田さんを傷つけた。あなたの罪は重い。」

雅美は負けていない。

「藤田さんのことは、言われても仕方ない。しかし、あなたの家庭は、あなた自身が半分以上壊していた。あなたの世間体を気にして、和人さんを追い込んだ罪は重い。」

一恵は、この時は少し寂しそうな顔をした。

「確かに、私が悪かったこともある。しかし、あなたよりはましだったでしょう。」

ここで雅美は俺の方を見て、一恵に向き直った。

「あなたは、藤田さんをとことん巻き込むきなの?」

一恵は強気だった。

「あなたと闇社会との繋がりは、藤田さんは知っていますよ。そのためにも全てを見ていただくのです。」

雅美は少し寂しそうな顔になった。

「あなたのように、よいところのお嬢さんなら、私のように泥水を飲まなくてもよかったでしょうね。」

これは一恵には少し響いたようだ。

「確かに、あなたが苦労したことは認める。私は甘い育ちだった。しかし、あなたがしたことは許されることではない。闇社会の力を使うならそれ相応の報いがある。」

雅美はここで、少しおびえた表情になった。

「あなた一体何をしたの?命知らずを売りの、丸高組の連中が逃げるなんて?」

この時の一恵は怖かった。

「あなたの後ろに、日本きっての闇世界が動いていることは解っていた。そこでロシアのマフイアを頼んだの、スペツナズの生き残りに指導を受けた、精鋭を雇えたわ。そこで、何人かを脅したら、あっさり手を引いてくれた。」

雅美は少し震えていた。

「そこまでやったの!」

「そうよ、あなたの勝手にさせれば、益々傷つく人が出る。私は許せなかった。」

雅美は少し弱気になっていた。

「一つだけ聞いてよい?藤田さんを巻き込んだのはなぜ?」

一恵は複雑な笑みを漏らした。

「藤田さんを巻き込んだのは、あなたでしょう。私は、最後の結末を見て貰いたいから呼んだだけ、なお彼の会社への応援は、事務所として権力ゲームで世話になったことへのお礼で、個人的な繋がりはない。」

雅美が確認の視線を送ったので、俺はこれに対して頷いた。

雅美は、突然の打ち切りを提案した。

「これ以上、ここでの話は無駄ね。場所を変えましょう。」

この時、一恵と雅美の視線は冷たくぶつかったが、一恵も頷いた。


第二幕 公園での対決

一恵が支払いを済ませた後、二人は近くの比較的大きな児童公園まで歩いた。誰もいない公園で、二人は3メートルほどの間隔で向かい合った。

 まず雅美が動いた。ハンドバックから小型の回転式拳銃を取り出した。

「あなたの力で、彼らは逃げた。ただ最後に私にこれを渡してくれた。生まれつき力を持っていたあなたに、これ以上は勝手にさせるわけにはいけない。」

これに対し、一恵は自分のバッグから、刃渡り10センチほどのナイフを取り出した。右手にそのナイフを握り、まっすぐに雅美の方に突き出した。雅美はこれを見て、あざ笑った。

「相変わらず甘ちゃんね。刃物は体ごとぶつかるなら、私もやられたかもしれないが、そのような腰が引けた姿勢なら私を傷つけることはできない。」

一恵はこれを無視して静かに言った。

「確かに、私は甘い育ちかもしれない。しかし、人を傷つけるあなたを許すわけにはいけない。」

俺は、武器について少しは知識があった。一恵の持っているのは、ロシアの特殊部隊が使うナイフで、強力なバネが仕込んである。この距離なら、小型拳銃より殺傷力がある。しかし、これを雅美に教えることはできない。俺はあくまで見届け人に過ぎない。

 雅美は、拳銃を持った右手の手首を左手で支えた。これは相手を確実に打ち殺す気だとわかった。一恵にもこの気迫は伝わった。しかし一恵は引かなかった。次に起こったことは、一瞬だったが、俺には長い時間に見えた。

 一恵の右手の人差し指が、少し動いた。そこから何かが飛んで、雅美の胸に突き刺さった。普通の人間なら、これで倒れただろう。しかし、雅美の強靱な精神力は拳銃の引き金を引くまで持ちこたえた。小口径ながら弾丸は一恵の胸に二つの穴を開けた。

 俺は、二人に駆け寄った。一恵は

「これでよかった」

とだけ言った。一方、雅美の左手には、むかし俺が買ってやった、露天の指輪があった

 この後は警察がきたが、二人とも手遅れであった。俺も色々と聞かれたが、結局関係者死亡と言うことで、うやむやになってしまった。


第三幕 ヒロインの説明

 俺はこの事件から3月ほど後に、河崎和人と吉野佳子が暮らす、郊外の家に呼ばれた。二人も関係者であるし、この話の結末は知らせるべきだと思ったので、俺も隠し立てはしなかった。

 話を聞き終わった後、和人が震えながら言った。

「確かに、二人の性格からすれば、行くところまで行くしかなかった。二人が、闇社会とつながっていたとしても驚きはない。」

これを聞いたとき、佳子さんは悲しそうな微笑みを浮かべた。そうして俺の目をしっかり見ながら言った。

「二人とも、藤田さんを巻き込みながらも、相手の力が藤田さんをこれ以上傷つけないように気を配っていたようですね。」

俺はこの言葉に少し驚いた。確かに、雅美の指輪を見たときに、少し気になっていた。一方、一恵の事務所からの無形の支援も、普通より上だと思う。しかしなぜ二人の好意がきたか、この不安が顔に出たのだろう。佳子さんが続けた。

「この事件で、自分から人を傷つけなかったのは、藤田さんだけです。他の人は、皆自分勝手で、人を傷つけています。このような、無心の善意には、無条件で助けてあげたい気持ちが起こるのです。二人は、あなたを守って戦えて、満足しているのでしょう。」

結局、この舞台を背負ってしまった俺は、このあと二人の冥福を祈っていこうと思った。


この結末は予想通りだった。しかし、心の中は、俺の想像を超えたモノがあった。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] なにか昔読んだ2ch風の小説の続篇みたいなのは気のせいでしょうか?
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