番外編
番外編 「名前」
「烏天狗の長は名前があるのか」
「妖怪、全てではないが名前で呼び合う妖怪もいるぞ」
春之助は管狐を見つめた。
「お前にも名前がいるよな」
「なんだ、命名するのか?」
「管狐って要するに種族みたいなものだろ。日本人に日本人って呼びかけるようなものだろう」
管狐を撫でながら真剣な顔で春之助は名前を考えていた。
「何か違う気がするが好きにすれば良い。管狐も嬉しそうだな」
「決めた。油揚げが好きだからお前は油揚げだ」
一瞬にして相談屋の空気が凍った。
それまで嬉しそうにしていた管狐でさえ固まっていた。
「お前、マジで言ってるのか?」
神楽が呆れたように春之助を見たが春之助は真剣な顔をしていた。
「油揚げだと呼びにくいなら油にするか?」
((そこじゃない))
相談屋の春之助以外のメンバーの心が一つになった瞬間であった。
「お前、考え直せ。センスが無さすぎる。」
「管狐も喜んでるだろ」
普段表情の見えない管狐が今まで見たことのない表情をしていた。
「こんな、辛そうな微笑みの管狐はじめて見たぞ」
「良い名前だろ」
「座敷童も反対してるぞ」
扉の下から和紙が現れた。和紙には大きく反対の二文字が書かれていた。
「座敷童の反対は傷つく」
「とにかく、一緒に考えるぞ」
急遽、管狐の名前を考える会が発足し全員で考えることとなった。
管狐の尻尾が白いことから「白尾」と名付けられた。
番外編 「兄と姉と妹」
「ただいま、仕事辞めたいよー」
桃は帰ってくるなり愚痴を漏らした。
「私の可愛い桜はどこ。慰めて」
「お帰り、お姉ちゃん。今日も頑張ったね」
桜は桃の頭を撫でながら励ましていた。
「玄関で何をしてるんだ。成人女性が気持ち悪いぞ」
「うるさいな。疲れてるの。癒されたいのよ」
「おかえり、お兄ちゃん」
杏太郎は玄関を開けて姉妹が抱き合っているのを目にしてうんざりした顔をした。
「ただいま。桜、嫌なことは嫌と言って良いぞ」
「あんず、うるさいわよ」
「あんずって呼ぶな」
「イライラして、癒しが足りないなら桜を抱きしめたら良いじゃない」
「断る」
「ハグにはストレスを軽減させる効果があるのよ」
「そうなの?」
「桃の言葉を鵜呑みにするな。こいつの言葉はすべて嘘だと思え」
「失礼ね。そんなことを言うやつはこうしてやる」
桃は桜と杏太郎をまとめて抱きしめた。
「ぎゅーの刑だ」
「ふざけんな」
「私のストレス解消に付き合いなさい」
「俺のストレスだ」
杏太郎が叫ぶように言っても桃は気にする様子なく抱きしめた。
「お姉ちゃん、疲れてるね」
「勘弁してくれ」
杏太郎と桜は桃が満足するまでハグされ続けることとなった。
「おなか減ったし、満足。夕飯なにかしら?」
桃は満足したのか夕飯を食べにスキップしながら軽やかにリビングにむかった。
「やっと解放された」
杏太郎はぐったりとしていた。
「お兄ちゃんも疲れてるのにお疲れ様」
「どーも。ところでお前はなんで腕を広げてるんだ?」
桜は杏太郎に向かって両腕を広げて待っている様子だった。
「ストレスを減らす効果があるんでしょ」
桜がにっこりと微笑んで兄が動くのを待っていた。
杏太郎は一瞬、悩んだが自分より、小柄な妹の腕に吸い寄せられるようにむかった。
数秒後にリビングンに来ない、双子の兄と妹を心配した桃に見つかり再び三人でハグすることになったのだった。
お読み頂きありがとうございます。
番外編2本立てです。
次回から烏天狗編になります。