第三話 「座敷童」
「弟子を取ったとは本当ですか?」
白い霧で覆われた空間に相談屋の店主である神楽と妖狐がいた。
妖狐には九つの尾があり、白銀の毛であった。妖狐は銀の瞳で探るように神楽を見つめた。
「弟子ではなく下働きのようなものですよ」
神楽は苦笑いで答えた。
妖狐の眷属である管狐の関係していた事件は当然、知っているはずであった。
「天狐である貴方様は千里を見通せるはずなのですからすべてご存じでしょう」
天狐には千里を見通す能力があり、管狐の一件は当然把握していることであった。
「少年には礼を言わねばいけませんね。」
「一つ、確認ですが管狐を召喚した須藤正樹はどうなりました?」
妖狐、天狐は不敵に笑った。
神楽はその笑みで背筋が凍ると同時に須藤正樹の末路を察した。
「人を呪わば穴二つと言うでしょう。私が見逃すとでも」
(天狐が見逃す筈がないか。今回の件は自業自得としか言えないしな。)
「それに我々が手を出さなければ貴方が直接、手を下したでしょう」
「御冗談を」
神楽は先ほどの天狐と同じように不敵に笑っていた。
「ほら、油揚げだぞ」
春之助は管狐に油揚げを与えた。管狐は嬉しそうに頬張っていた。
「お前、本当にこれ好きだな」
春之助は面白そうに眺めていた。
時は放課後、場所は相談屋。
春之助は管狐の件があってから学校での相談屋をやめて放課後には妖怪相談屋を訪れ、店主である神楽の手伝いをしていた。
「今日は何をするんだ?」
店主である神楽は椅子に座りくつろいでいた。
「自分の仕事は自分で探せ」
春之助を見ることなく神楽は答えながらお茶を飲んでいた。
(そんなこと言われても妖怪のことは知らないし)
妖怪相談屋に様々な妖怪が相談に来るが妖怪とのやり取りはすべて神楽が行っていた。
春之助にとっては未知の世界であった。
部屋を見渡せば、一見古風で落ち着いた雰囲気だがよく見ると棚にはこの世のものとは思えない生き物の標本や植物が並んでいる。
することもなく掃除でもするかと春之助が立ち上がり辺りを見渡して気が付いた。
「あんた、普段掃除してるのか。部屋がきれいだ」
室内には物は多いがきれいに片付いており、埃を被っているものもなかった。
「俺がするわけないだろ」
呆れたように神楽は答えた。
「なら、誰がしてるんだよ」
神楽はため息をつき、ようやく春之助を見て答えた。
「座敷童だ」
神楽はお茶を飲みながら話し始めた。
「この店に出入りしている人間は俺とお前だけだ。そもそもこの店自体も特殊な場所だ。この店は妖怪か妖怪と関わりのある人間にしか入店できない。お前が最初に入れたのは管狐に憑りつかれていたからだ。座敷童は気が付いた時には住み着いてたんだ。幸福の存在だからそままにしてる」
茶ばしらだと呑気に言いながらお茶を飲みながら一息に話し切った。
「住み着いたって今もいるのか」
これまで神楽以外の存在を感じたことのない春之助は驚いていた。
「いるぞ。このお茶を入れてくれたのも座敷童だ。普段は隠れているが時折、現れる」
(お前が飲んでるのは妖怪がいれたお茶だったのか)
「俺、お茶を出してもらったことない」
「お前をこの店の一員として認めてないんじゃないのか」
春之助はこの店に神楽以外の住人がいたことへの驚きとともに、自分が蚊帳の外のようにされた気持ちで複雑な心境であった。
「座敷童はこの店の管理を担ってくれる分もある有難い存在だ。お前の先輩でもあるから認めてもらえるよう頑張るんだな」
落ち込む春之助を慰めるように管狐がキィキィと鳴き声を上げながら春之助にすり寄っていた。
突然、相談屋の入り口が開く音がした。
「相談屋はこちらですか」
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