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妖怪相談屋  作者: つばさ
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第二話 「管狐」

「ようこそ、相談屋へ。お客様のご相談はなんでしょうか?」

金髪に黒い着物に桜の刺繍がはいった赤い羽織を着た日常では目立つ装いの男がいた。

店内は外見の洋風なアンティーク店とは異なり落ち着いた和風な雰囲気であった。

春之助は店と男性の雰囲気に圧倒され、何も言えずにいた。

「名前は」

 金髪の男が近づきながら聞いた。

「た、高宮春之助です。俺、たまたま店を見つけて客とかではないんですけど」

「お前に聞いてない」

 春之助がしどろもどろに答えているのを遮り春之助の後ろを指さした。

「俺が質問しているのはお前の後ろで苦しんでる狐だ」

「あんた、何を言ってんだ。後ろになにもないだろ」

春之助は男の言葉にぞっとしながらも後ろを振り返らずに答えた。

「心当たりがあるだろ。例えば、体調が悪いとか」

 言葉を詰まらせたことを肯定と受け取った男は話を続け店の奥に進み始めた。

 春之助は慌てて靴を脱ぎ、そのまま男の後について店の奥へと進んだ。

「この世に妖怪は存在する。俺は妖怪専門の相談屋だ。この店に入れるのは妖怪と妖怪に憑かれたもの、妖怪と密接に関わってしまったものだけだ」

「憑かれてるって俺、なにもしてない」

「誰からも恨まれていない人間なんていないだろう。最近、人間関係とかでトラブルがなかったか」

 部屋の奥に進むと、テーブルと椅子があり、男は座れと手で促した。

 本棚から一冊の本を取り出し説明を始めた。

 春之助は椅子に座り本を見た。

 本には竹筒から姿を出したが狐が描かれ、周りには火の玉が飛んでいた。

「お前に憑いてる妖怪は管狐。家に憑いて幸福をもたらすこともあれば、人が使役し呪いに用いられることもある。今回は後者だな」

「なら、俺を呪ったやつが管狐の使役者なんだな」

「そうだ。まぁ、6日もあれば宿主が死に管狐は解放される。めでたし、めでたしだ」

男は本をゆっくり閉じた。

「宿主ってまさか俺のことか」

椅子から立ち上がり春之助は叫んだ。

「お前以外いないだろう。お前が死ねば契約完了で管狐は解放だ」

「なんで、俺が死ななくちゃいけないんだ」

 声を荒げる春之助とは正反対に男は椅子に座ったまま冷静に答えた。

「お前が死のうが俺には関係ないが、一番迷惑なのはお前らの勝手ないざこざに巻き込まれた管狐だ。どんな儀式で契約されたのか知らないが儀式がめちゃくちゃだったんだろうな。契約に縛られて苦しんでる。人間のいざこざに巻き込まれて苦しむ妖怪だ。だから、俺は妖怪の相談屋をしてる」

 男は冷たい目で春之助を見た。

 (この人は妖怪が大切だから人間が憎いのか)

 春之助は男の気持ちを理解したが自分の命も関わっているため、引くわけにはいかなかった。

「あんた、妖怪に詳しんだろ。なら呪いも解けるんじゃないのか」

「可能だ」

その言葉を聞き、春之助は安心した。解呪できるのなら何でもよかった。

「妖怪の相談屋なら、あんたに依頼する。俺を助けてくれ」

「人間の依頼は受けない」

「俺は今、管狐に憑りつかれてるなら半分は妖怪だ。依頼を受けれるだろ」 

春之助自身も屁理屈であることは分かっていた。だが、引き下がれなかった。

 妖怪の話も全てを信じたわけではないが、今の状況を少しでも改善させることができるならと藁にも縋る思いであった。

「お前、人間としての誇りはないのか」

 初めて、男の表情が崩れた。呆れたような驚いたような顔だった。

「ない」

きっぱりと言い切った春之助に堪えきれなくなった男は笑い出した。

こんなに笑ったのは久しぶりだと男は言いながら、春之助を見た。

「俺は、東宮神楽だ。この妖怪相談屋の店主をしている。お前の依頼を受けよう」

「本当か。」

春之助は心の中でガッツポーズをしたのもつかの間だった。

「ただし、依頼料は100万円だ。値引きはしない」

高額な金額に春之助は固まった。

(100万円なんて俺、見たこともないぞ。でもここまで来て後には引けないしな。何とかするしかない)

「わかった」

内心では冷や汗をかきながらも春之助は決断した。

「いいだろう。依頼を引き受けた。」


「本当に助けてくれるんだろうな」

春之助は叫びたい気持ちだったが叫ぶ力もなく自宅のベッドでつぶやいた。

相談屋を訪れてから2日が経過していた。春之助の体調は悪化する一方で学校も休んでいた。

「4日待てとか言って、あの男逃げたんじゃないだろうな」

相談屋に依頼をした日、神楽は4日待つようにと告げた。4日後の夕暮れに店に来るようにと告げ、詳しい話はなく店から追い出されたのだ。

「俺も苦しいけど、狐も苦しんでのかな」

 相談屋を訪れてからも、毎晩夢を見ていた。

 最初の夢では狐に襲われていると思ったが狐をよく見ると足には鎖が付き、狐も思うように身動きが取れずに苦しんでいるように見えたのだ。

「お前も苦しんでるんだよな」

 春之助は姿の見えぬ狐を思いながら目を閉じた。


 夢では狐が苦しんでいた。狐の足は鎖のせいで傷つき血が流れていた。

 夢の中のはずだが春之助の体は冷え、体は鉛のように重くなっていた。



(暖かい)

春之助は右手から暖かさを感じ、目を覚ました。

「春君、起きたの? 体調は大丈夫?」

 部屋には桜がいつの間にか来ていた。

 桜は心配そうに春之助を見つめた。

「平気ではないが、何とかなりそうだから心配するな」

 その時、ふと春之助は自分の右手に何かを握っていることに気が付いた。

「なんだこれ?」

 右手にはお守りが握られていた。

「お兄ちゃんがくれたの。悪いものから守ってくれるお守り。春君、苦しそうだったから」

「杏太郎さんのお守りだったのか」

桜は3人兄妹であり、兄と姉がいた。兄と姉は双子であった。双子の姉、桃は公務員として勤務しており双子の兄、杏太郎は大学院で歴史の研究をしている。

「春君に貸してあげる。お守り持つと少し楽になったみたいに見えたから。」

桜の言う通り、お守りを持っている体が少し楽になった。

「ありがとな」

お礼を言うと、再び眠気が強くなってきた。

「寝れそうなら少し休んだほうが良いよ。私ももう帰るね」

桜に返事をしながら眠りについた。

久しぶりに安眠できそうだった。


「生きていたのか」

神楽は驚いたように春之助を見た。

店を訪れ、4日後の夕暮れになった。

神楽は、着物は違うが以前と変わらず赤い羽織を着ていた。

「勝手に殺すな」

春之助は歩くのもやっとだが何とか、店までたどり着くことができた。

「お守りがなかったら死んでたな」

「無駄口、たたいてないで急ぐぞ。移動するぞ」

「え、どっか行くのか」

春之助がぐったりとした様子だが神楽は気にせず歩きだしていた。


「神社?」

店から少し歩いた先にある稲荷神社に着いた。

いくつもの赤い鳥居をくぐり、社に着く頃には春之助は息が切れていた。

「ここらで一番、神聖な場所だ。」

神楽は息切れ一つなく、儀式の準備を整えながら答えた。

社は小さいがきちんと手入れされ整えられ、いなり寿司が供えられていた。

「よし、準備ができたぞ。円の中心に立て。今から管狐を救うぞ。」

「お願いします」

春之助が地面に神楽が描いた円の中心に立つと体が光りだした。

「なんだよ、これ」

神楽は答えず、なにか唱えている様子だった。

狐の声がしたかと思うと春之助の体の上空に狐が現れた。

狐は叫ぶように声を上げていた。

「なんで、苦しんでんだよ」

狐の足の鎖は外れた。自由になったはずだが悶え苦しんでいた。

「お前への呪いは解いた。本来ならお前への呪いに失敗した時点で使役者を殺しに行くはずだが、この狐にはその力も残っていないみたいだな。」

神楽は悔しそうに口にした。

「めちゃくちゃな儀式で召喚されたせいで、お前を呪い殺すだけの力しかなかったんだ。俺の見積もりが甘かった。このままじゃ消滅する。」

(なんでだよ、一緒に助かると思ったのに。)

「なら、俺と一緒にいろよ」

春之助が叫んだ。

「俺に憑いたままなら消えなくてすむなら俺に憑いてろ」

春之助が狐に手を伸ばした。

「なに言ってんだ。このまま精気を吸われたら死ぬぞ」

「それでも、このままこいつを見捨てたら俺は一生後悔するんだよ」

春之助は苦しむ狐に触れた。熱く手が燃えるようだった。

(どうしたら、いいんだよ。どうすれば)

「狐と契約しろ。そうすれば使役者はお前になる。」

神楽が春之助を見つめた。

「ただし、覚悟しろ。その妖怪の命を一生背負う覚悟を。妖怪の世界に関わることを」

春之助がうなずくと神楽は悲しそうに笑ったように見えた。



「これが、管狐。」

春之助は竹筒に入った小さな狐を不思議そうに見つめた。

「以前、本で見せただろう」

「夢で見てた時はデカかったからもっとデカいものかと」

神社で管狐と契約した春之助は意識を失い、翌朝目覚めると相談屋にいた。

神楽が神社から運んでくれたようだった。

「体、めちゃくちゃ軽くなってんだけど本当に契約出来てんのか」

久々に自由に動く体を動かしながら神楽に尋ねた。

「問題ない。本来、管狐は悪用せずコントロールすることができれば害のない妖怪だ」

「そうだったのか」

春之助は竹筒から顔を出した管狐の鼻をつついた。

あんなに恐れた管狐が今では可愛く見えた。

「お前には今後の妖怪との関わり方についてしっかり教えてやる。十0万円の借金もあることだし、この店で下働きをしてもらうぞ」

神楽がにやりと笑いながら春之助に告げた。

「き、聞いてないぞ。俺には学校もあるし無理だ」

「問題ない。この店の開店時間は妖怪の活動時間からだ。夕暮れだから放課後だ」

「ふざけんなよ」

どうしてこうなったんだろう。

この選択は間違いだったのかもしれない。

それでも自分の選択に後悔はない。



お読み頂きありがとうございます。


続きも読んでいただければ幸いです。

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