8匹目
普段からヒールの高い靴をはかない栖衣はそのヒールに苦戦する
「それじゃあ行きましょうか」
前方から話しかけられて栖衣はアランの言葉に頷いた
「栖衣様をお借りします」
そう言って扉の前までどうぞと勧められて栖衣は歩いていった
「えっと、それじゃあ行ってきますね」
栖衣はヘレンを含めたメイドの四匹に「いってきます」と手を振って部屋を出て行った
「えっと、こんにちは」
扉を出た栖衣が見たのはうろうろと廊下を歩き回っていたクルトの姿だった
「こ、ここここここんにちは」
顔を赤くして俯いてしまったクルトは、両手を持て余したように動かせた
・・・そのくせちらちらとこちらを向くクルトに栖衣も恥ずかしそうに俯いてしまう
「あ、あの・・・」
「・・・はい」
「その・・・」
「・・・」
「とても、似合って・・・ます」
「・・・は・・・あっありがとうございます」
付き合いだしたばかりのカップルのような会話をする二人に後ろからその姿を見ていたアランはくすりと笑った
「はいはい、それじゃあ行きましょうか」
にくきゅうをパンパンを叩いてこちらに意識を向けさせたアランはにこっと笑った
「は、はい・・・あの、ところで何処に行くんですか?」
実はお昼のうちから気になっていた栖衣は両隣を歩く二匹に尋ねた
「王の食事会に招かれたんですよ、いわゆるお目見えの場を設けてもらった・・・と言うことですね」
「・・・お目見え?」
そう言われてみればアランこそ最初着ていた白色の軍服と同じものを着ていたが、はじめて会ったときより服の胸元ついていた勲章が増えていた
クルトも先ほどのローブではなくタキシードという正装だった
「・・・それよりも、王の食事会?っていいませんでしたか?」
「言いましたよ」
「わ、私マナーとか出来ませんよ!?」
・・・さっきもメイドさんの視線にハラハラドキドキしていたっていうのに!
正式なマナーなんてこれっぽっちも知るはずがない栖衣は血が下がっていくのを感じた
「マナー、なんて・・・食事会は楽しく・・・ですよ」
栖衣の言葉に隣を歩いていたクルトは励まして(?)くれた
「うぅん・・・せめて不愉快にならないように気をつけないと、ですよね・・・有難うございますクルトさん」
はぁと軽くため息を吐いた栖衣はふと真横にある窓を見た
・・・もう夕方だったんだ
お昼を食べてから今まで中々長い時間をかけて支度をしていたらしい、栖衣は沈み終えようとする夕日をぼんやりと見つめた
「わっ!」
よそ見をしながら歩いていたのが悪かったのか、栖衣はヒールをはいていた足をぐねらせた
「「栖衣様!」」
両隣から二人の声が聞こえる
流石にここまで体格が違えば支えることも不可能だろう、栖衣はとりあえず目だけをぎゅっと瞑って衝撃に備えた
ぽふん
「・・・?」
身をぎゅっと縮込ませていた栖衣はやわらかく暖かいその感触に恐る恐ると目を開けた
「騎士団長殿、あなたは女性の一人も支えきれないのですか」
そこには銀フレームの眼鏡を掛けて眉を顰める背の高い男性が立っていた