5匹目
※2010.08/23
「いただきます」
栖衣は手を合わせると目の前に出されたスープに手をつけた。
味はコーンスープに似ていたが色はほうれん草のポタージュの色だった。
テーブルに置かれたパンを手に取るとちぎって口に運んだ。先ほどから横から感じる視線に栖衣はドキドキしながら食事を進めていた。
「あ、の」
パンを置いて栖衣は横を向いた。
「どうしました?栖衣様」
ヘレンの言葉に栖衣は頬を軽くかいた。
「私、もしかして何かマナー違反しました、か?」
料理を運んでくれたメイドの三人があまりにもじろじろと栖衣を見るので、何か粗相をしてしまったのかと栖衣は心配になった。
「いえ?・・・あぁ、こらっあなたたち・・・あまり見つめては栖衣様に失礼でしょう」
ヘレンの一喝でヘレンの後ろに控えていた三匹はしょぼんと肩を落とした。
「「「すいません」」」
「え、ううん・・・いいの、でも恥ずかしいからあまり見ないでくれると・・・うれしいです」
謝ってきた三匹に栖衣は頬を赤くして微笑んだ。
「はわぁ・・・お優しい、」
「それにいい匂いがしますぅ」
「さすが異世界の姫様・・・」
ぽやんとまたたびに酔ったようになった三匹を見て栖衣はまた首をかしげた。
「(・・・香水なんてつけてないんだけど)」
いい匂い?
栖衣はとりあえずうっとりとする三匹の猫を横目に見ながら食事を再開した。
「・・・ご馳走様でした」
栖衣の言葉に三匹はお皿やスプーンを片付けていく。
かちゃかちゃと音を立てながら台へと食器を置いていく三匹に栖衣は話しかけた。
「えっと、・・・あなたたちはなんて名前なの?」
がっしゃん・・・ッ!
栖衣が話しかけた途端一番小柄の灰色のネコが食器を床に落とした。
「あ・・・ッ!」
「も、申し訳ございません!」
ちょろちょろと栖衣の足元で動き出した彼女はあわあわと焦りだした。
「こら!ッアリス」
栖衣の後ろからヘレンが彼女を叱りつけた。
「ご、ごめんなさい」
「へ、ヘレンさんごめんなさい、私が話しかけたから」
「・・・栖衣様」
ヘレンはアリスと呼ばれた猫と同じように謝る栖衣を見て、小さくため息を吐くと右手を口に当て、何かもにょもにょと呪文を呟いた。
「わ」
食器はしゅっと一箇所に集まり、もとの形に戻るとヘレンの手の中へと入っていった。
「今回だけですからね」
そう言ってヘレンはそのお皿を台の上へと乗せた。
栖衣は横で同じようにほっとしているネコを見て、笑った。
そのネコも栖衣と同じように笑った。
「三人とも、栖衣様にお名前を言っておきなさい」
ヘレンの言葉に三匹は急いで横一列に並ぶと、綺麗にお辞儀をした。
最初に話したのはアメリカンショートヘアーの女の子だった。
「は、はじめまして!私は栖衣様のメイドのビアンカです」
次に挨拶をしたのは白と黒の縞模様がかわいらしい女の子だった。
「はじめまして、同じく栖衣様のメイドのナタリーです」
最後に前に出てきたのはさっき食器を落とした一番小さな灰色の女の子だった。
「はじめまして・・・私はアリスです、これからよろしくお願いいたします!」
かわいらしい三匹に自然に笑顔を見せた栖衣は「今日は有難う、よろしくね」と三匹の前にしゃがんでお礼を言った。