3匹目
書き直し始めました。※2010.06/26
気が付けば栖衣は最初に座っていたベットに寝転がっていた。
泣いた所為で目がはれてしまったのか少し痛かった。
栖衣はじんわりと滲んできた涙を枕に押し付けて少し泣いた。
「栖衣様」
「は、はい!」
遠慮がちなノックに栖衣は枕を裏返すと声を上げた。
それと同時にメイド姿の三毛猫が入ってきた。
「・・・えっと」
猫用のちいさなドアをあけて入ってきたのはメイドのヘレンだった。
「目は痛くありませんか、これを目の上からあてると少し落ち着きます」
そう言って彼女は寝台に座る栖衣に暖かいおしぼりを渡してくれた。
「あ、りがとうございます・・・ヘレン?・・・さん」
栖衣は腫れた目の上におしぼりを当てると一息ついた。
三毛猫柄のメイド服を着た彼女はさっきアランが言っていたヘレンさんだろう。
ヘレンは栖衣の後ろにまわると精一杯伸びをしながら栖衣の髪に櫛をいれて梳かしてくれた。
「急にこんなことになってしまって混乱するのもわかります、先代の方もそうだったと母は言っていましたから・・・」
「え」
ヘレンの言葉に栖衣は目をぱちくりさせた。
「500年前のことなのに・・・ヘレンさんのお母さんは知ってるんですか?」
「はい、あれは母が見習いのメイドとしてお城に入った時のことでしたから・・・」
栖衣はヘレンの言葉に耳を傾けた。
「母はメイド見習いの見習いといったところで、魔力が強い娘だったのと、その年に異世界の姫様をお迎え、お世話するメイドが少なかったため急遽という形で入れられたメイドだったそうです」
「へぇ・・・」
頷く栖衣にヘレンは話を続けた。
「先代の姫様もそれは美しい方で、黒々とした髪に美しい金の瞳をお持ちだったと聞いております。それに一族の子供を両手両足では数え切れないほど産んだ方でしたから」
「ふぅん・・・ってええ!!私、そんな大それた美人さんの次に呼ばれちゃったんですか!?」
飛び上がりそうなほど驚いた栖衣にヘレンは器用に櫛を持ったネコの手で栖衣の髪の毛を整えていった。
「何を言ってるんですか、栖衣様もあの肖像画の方々に負けず劣らず可愛らしいじゃないですか」
そう言ったヘレンは壁に掛かるいくつもの肖像画に目線をよこした。
「え・・・?」
大きな部屋だなとは思っていたが、部屋の壁に堂々と肖像画があるにもかかわらずその絵に気が付いていなかった栖衣はヘレンの言葉に、大きく飾られた歴代の姫と呼ばれた女性の肖像画を見つめた。
栖衣は一番左の女性の肖像画をみた。
初代の姫の瞳は金色だった。
「あれ?」
次も、その次も、そのまた次も・・・先代にわたるまで全ての女性の瞳が金色だった。
「あ、あああああのヘレンさん?」
「はい?」
「つかぬ事をお伺いいたしますが・・・異世界の姫様っていままで全員が黒髪で金眼?」
「はい、もちろんです。異世界の姫様は伝承で代々黒髪で金色の瞳だと伝えられていますから」
笑顔のヘレンに栖衣はだんだん自分の顔が引き攣っていくのが分かった。
「(バリバリ日本人なんで私の目は茶色だと思うんだけど・・・!)」
顔を下げると何故か息苦しくなり、汗がぶぁっと穴という穴から出てくる気がした。
栖衣の頭には「おい!こいつよく見たら目が金色じゃないぞ!偽者だ!」とたくさんのネコに追いかけられ、最終的に十字架のようなものに貼り付けられて「火刑だ!火刑!」と体に火をつけられそうになる自分の姿が思い浮かんだ。
栖衣の心臓は、このまま口から出てくるのでは思うほどばくばくと音を立てている。
「栖衣様は元のお国では何色の瞳だったんですか?」
「ひっ!?・・・騙すつもりは無かったんです!!・・・・・・って、え?」
ヘレンの言葉に栖衣は顔を上げた。
「な、何色?」
「ふふ、異世界の姫様は元のお国では異なる瞳の色をしていると聞いたので」
「・・・そ、うなんだ」
はぁとため息を吐いた栖衣はへなへなと力が抜けていった。
・・・よかった、ってよくないよくない・・・このままじゃ私ネコのお嫁さんになるじゃない。
ほっとしたのもつかの間に栖衣はぶんぶんと横に顔を振った。
「・・・そういえば、本当に私の目って金色になってるんですか?」
先ほどの言葉に栖衣はうん?と聞き返した。
「ご覧になりますか?」
ヘレンはそう言ってベッドの隣に置かれた鏡台に栖衣を案内した。