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ネコの花嫁  作者: 啓輔
3/19

2匹目

書き直し始めました。※2010.06/18

「は、はじめまして、姫様」

「はじめまして・・・」


アランの後ろに隠れていた灰色のネコはクルトと名乗った。


「ク、クルト・グスタフ・フォン・ファルゼン・・・です」


そしてそのままアランの背に隠れてしまった。

アランよりも小柄な彼?に栖衣は口を開いたまま曖昧に言葉を濁した。


「こ、こんんちわ」

「・・・・・・こ、んにちわ・・・」


「おいクルト」

「もうア、アランが説明してくれよぉ・・・僕は本当にいいんだってば」

「何のために俺がここに来たんだと・・・」

「・・・部屋のは、好きに使って・・・いいから」


二人(二匹?)の話が終わったのかアランは背中にクルトをくっつけたまま栖衣のほうを向いた。


「すいません、お待たせしました」

「はぁ・・・」

「あーそれじゃあスイ様、こちらを見てください」


アランはそういうと長く垂れ下がった紐を引っ張った。

しゅるっと音を立てて出てきたのは絵の描かれた大きな巻物である。


二匹のネコとその下に小さな猫が描かれている。


天井から吊るされたそれにアランは適当に放置されていた長い棒でそれを指しながら説明をはじめた。


「右が女性、左が男性です」

「はぁ・・・(雌雄の差が分からないんだけど・・・)」


栖衣は頭を抱えた。


「この下に描かれた子供の魔力は『つがい』の魔力が大きく関係します」

「はぁ・・・(せめて女性の方にスカートとか穿かせてくれないかな)」

「男性の魔力を数字で表すと例外を除いてまぁ1から5の間なんです」

「はぁ・・・(それか男性の方に蝶ネクタイとか・・・それは違うな)」

「女性は少なくても、まぁ6から多くて10だとします」

「うん・・・(っていうかあの絵のどこに違いが?)」


「二人から生まれる子供の魔力は二人の魔力を平均したものになります」

「ん?」

「つまり」

「え?なに、つまり・・・?」


「つまり・・・母親の魔力が7、父親の魔力が1だとするとうまれてくる子の魔力は(7+1)÷2で4に、なり・・・ます」


そう話したのはアランの後ろに隠れていたクルトだった。

話を半分しか聞いていなかった栖衣にクルトは更に話をかぶせて続ける。


「僕たちトッカの民のような民族は人口が少ない、です・・・そのなかでも男性の大きな魔力持ちが少ないの、です」

「でも俺たちは魔力を持った子孫を滅亡させてはいけないんです」


アランはクルトに続いた。


「えっと、」


栖衣は頭の中がこんがらがってきた。


「つまり、この国の民族は魔力を持ってて、でも男性は女性に比べて少なくて・・・夫婦の子どもは二人の魔力を平均した量しか持てない・・・ん?じゃあさっき例で言った子供は?」

「魔力は4ですから、男の子しか生まれません」


アランは言った。


「つがいの魔力の和が11を超えれば女の子しか生まれてこなくなりますし、逆に和が10以下だと男の子しか生まれません。しかしまれに例外が起きます。それがクルトのようなタイプなんです」

「?」

「クルトは高位で唯一の男性魔術師、それも魔術師長ですから」

「ア、アラン!」


クルトは栖衣と目があったと気がつくと、ポッと頬を赤く染めて照れ隠しにアランの背中を叩いた。


「クルトさんはすごいんですか」

「はい、クルトはすごいんですよ」

「そんなの、いいから・・・話を続けろよ!アラン!」

「はいはい」


アランはクルトが振り回す肉球を避けながら話しを続けた。


「アランのように魔力が5以上の男性や6以下の女性も少数ですがいます。魔力に恵まれなかった男性や少数の女性はその代わりに常人以上の体力を得ます」

「そうなんですか・・・」

「俺も見た目はスイ様の膝ほどまでしかありませんがスイ様を持ち上げることなんて朝飯前です」

「へ、へぇ・・・」


アランの言葉に疑いを持ちつつ栖衣はアランの言葉の続きを待った。


「話は戻りますが、両親の平均しか魔力の持てない子孫たちはどんどん魔力量が減り、男性の数が増えていきます。」

「・・・あ、確かに」

「するといつかはこの国とトッカの民がいなくなってしまう。だから異世界の姫様を、呼ぶんです」


アランは続けた。


「500年に一度、異世界の姫様を王宮魔術師が呼びます。そして子孫をつくる。これは1万年前から続く俺たちの儀式なんです」

「ど、どうか、僕たちに力をお貸しください!ス、スイ様!!」


長い指し棒で巻物の絵を指していたはずのアランは栖衣の足元まで来ていた。


「え?で、でも・・・」


(・・・どうやってネコとの間に子どもなんて作るのよ!?)


「このままじゃ俺たちの種族は滅亡してしまいます。スイ様だけが頼りなんです」


アランの青い目がじっとこちらを見ていた。


「で、でも、私そんな大それたことできない・・・ただの人間だよ、他の人を呼んでよ・・・!」

「500年後にしか次の扉は開か・・・きません」


クルトの言葉に栖衣の目にはじわりと涙が浮かんできた。


「・・・ひ、酷いよ、勝手に呼んだくせに、私・・・ッ子どもなんて産めないッ!」


次第に視界が歪んで、顔が映るほど綺麗に磨かれた床に栖衣の目から流れた涙がこぼれていった。

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