18匹目
まだ耳がぐわんぐわんする・・・。
栖衣は頭を振りながらさっき出て行った二人、・・・いや二匹のことを考えていた。
「なんだったんだろ・・・」
バスルームにへたり込んだままの栖衣は被せられたバスタオルで顔を隠しながら呟いた。
栖衣はまだ姫として失格してなかった、それは宰相の言葉で分かった。では何故ヘレンは栖衣を起こしに来なかったのか?
もしかしてヘレンに見放されてしまったのか?しかし宰相はそれも否定した。
ヘレンはそんなくだらないことで仕事を放棄するような人間・・・ネコではないらしい。
「・・・ヘレン」
栖衣の口から名前とともにため息が漏れた。
コンコンコンッ
「失礼します」
寝室の手前、客を滞在させる部屋の更に前、扉から昨日のうちに聞きなれた声が聞こえた。
「スイ様、お加減はどうです・・・か」
扉を開けたのはヘレンだった。
ヘレンは部屋に栖衣がいないと分かるとすぐに周りに目を配りすぐにバスルームに目を向けて、・・・固まった。
「ヘレン?」
「・・・スイ様・・・?」
ヘレンの後ろには昨日栖衣の身の回りの世話をした三匹のメイド猫もそろっていて、彼女たちは栖衣の姿を見ると尻尾をピン!と立たせて硬くした。
「な、なななななんですかその格好は!!」
ヘレンの言葉を皮切りにヘレンの後ろに控えていた三匹も声を上げた。
「エ、エロいっ!」
「っじゃなくてぇ!スイ様ぁなんですかその有様ぁあ!!」
「あわわわ・・・!」
開けっ広げになっていたバスルームに座り込む栖衣を見て彼女たちはギョッとした表情を見せた。
「えっと・・・」
「スイ様!・・・お一人ですか!?」
「え、・・・うん」
「王は?!あの方が朝は自分に任せて欲しいというから私たちは別室で待機していたのに!」
ヘレンの言葉に栖衣は肩を下ろした。
「(なんだ、そうだったんだ・・・)」
って言うか全部私の勘違いだったんだ。と栖衣は恥ずかしそうにしながらヘレンに話しかけた。
「あの、」
「どうしました、スイ様!?」
「・・・服、取ってもらって良いかな?床に直接座ったから、お尻のところまで濡れちゃったみたい」
恥ずかしそうにそう言った栖衣にヘレンはすぐに我に変えるとまだあわあわしているメイドの三匹を落ち着かせた。
「ナタリー!あなたは新しいバスタオルを!」
「は、はい!!」
「ビアンカはスイ様のお服を用意して!」
「は、はいぃ!!」
「アリス!」
「は、ははははい!」
「あなたはこっちに来て」
ヘレンはそう言うと栖衣のいるバスルームの方へ小走りで向かってきた。
「折角ですからこのままお風呂に入りましょう、アリス、手伝って頂戴」
「ふぁ、はい!!失礼します」
アリスはそう言って敬礼した。
「『あがれ』!」
アリスは栖衣に向かって声を張り上げた。すると、栖衣は宙へ浮かんだ。
「うわ」
何回されても慣れない・・・!栖衣は下から支えられた様に持ち上げられてバスルームの床から浮かび上がった。
「それじゃあ、すぱっとお風呂に入ってしまいましょう」
ヘレンはふさっとした顔に自分の肉球を当てて、昨日と同じようにもにょもにょと呟いた。
「ひぃ!?」
スポンッ!とネグリジェを脱がされるとアリスに猫足のお風呂に静かに下ろされた。
呆然としていると上からザバァ!!と音を立ててお湯が降ってきた。
頭までびしょ濡れになった栖衣が顔を上げると、宙に浮かぶいくつものスポンジとヘレン、そして体に塗りこめる香油を持ったアリスが立っていた。
ヘレンの気迫に後ずさりしそうになった栖衣は口の端を引きつらせながら言葉を発した。
「お、お手柔らかに・・・」