15匹目
床に下ろされたままボロボロと涙を流し子どものように泣きじゃくる栖衣を見て宰相はどう対処するべきなのかと栖衣の周りを不必要にぐるぐると回っている。
「どうしたんですか、高度が高すぎたんですか?それともどこか酷くぶつけたのか・・・」
「ひっく、・・・わ、わたし・・・」
床にへたり込む栖衣の周りを回る宰相を見て栖衣も頭が冷めてきたのか、しゃっくりをしながら口を開いた。
「私、っもう・・・姫じゃ、ないんで、っすか」
「?」
「わ、たしはっ全然、礼儀もっでき、なっ・・・いし、お姫様じゃ、ないしっ、もう私なんて、い、いらな・・・っ」
自分でそう言って悲しくなってきてしまったのか栖衣はまた大粒の涙を目から流して大声で泣きながらしゃっくりをはじめた。
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「・・・あなたは馬鹿だ」
宰相は混乱しながら、泣き過ぎて涙がかれた栖衣にバスタオルを投げつけた。
「いつ私たちがあなたを姫から降ろすと言ったんですか。そんなものはあなたの思い込みです」
「で、でも・・・っヘレンさ、ん・・・こ、なかったぁ」
「あー!泣かないでください!!ヘレンが来なかった理由は知りませんがあの女はあなた付きの侍女になった時点でそんな馬鹿な真似をするような女ではありません!あの女は女性に対しては甘い女なのですから女性を悲しませるようなことはしません!」
宰相は栖衣にそう言う。彼女はそんなことを言われてもこの男の言うことを信じられるのかと言われれば信じられなかった。栖衣には人・・・猫の言った言葉が本当なのか嘘なのか見分けるような特技はないからだ。
「こっちを向きなさい!」
宰相は肉球が天井を向くように手を仰向けにすると器用に指の一本だけをクイッと曲げた。すると栖衣の首が何かに引っ張られる様に宰相の方を向いた。
「私を信じろともヘレンを信じろとも言いません!所詮私たちはあなたにとっては憎いほど血の繋がらない他人で、友でも師弟でもなんでもない!だから今からあなたのする行動だけを選びなさい!ただ怠惰に姫とだけ呼ばれ子を産むだけの道具になるのか!それともここで新しい関係を結んで先代の姫様たちのように慈しみながら自分の子を育てるのか!」
「結局、子ども・・・産む、んじゃないですか」
宰相とは思えないめちゃくちゃな言葉に栖衣はいつの間にか口を挟んでいた。
「私たちも誰もあなたが不必要だなんて思っていません。それどころか・・・」
「?」
宰相は何かを濁すように咳を一つすると栖衣に背を向けた。
「で、どうするんですか」
「え?」
「人形のように日々を過ごすのか、それとも此処で新しく生きていくのか・・・あなたの友人や親に兄弟のもとには帰せません。ですが新しい関係はここでも作れる。・・・まぁ、ずっと人間体のあなたにとっては夜になるまで人間に戻れない私たちと同じように暮らしたいとは思えないかもしれませんが」
宰相にも罪悪感はあった。いきなり呼び出して子孫繁栄を願った存在は他の世界で生きるただの生き物で、自分たちのように親兄弟がいて友がいる。それを自分たちの都合でその世界から強制的に切り離してしまうのだ。
「・・・すいません」
宰相は言葉を発した後口をつぐんだ。焦茶色の尾は下がり、気持ちが沈んでいるのが栖衣が見る分にもわかった。