12匹目
そこからどうやって部屋まで帰ってきたのか、栖衣はまったく覚えてなかった。
正直な話、自分がどうやってこんなところで生きていくのか?子どもを生む?はぁ!?といった考えだった栖衣だったが彼女も女である。綺麗な服を着せられて、豪華な宝石を身に着けて、クルトやアラン、それにハロルドのような優しい男性・・・オス猫?に優しくされたら・・・悲しみながらも自分がまるでファンタジーの世界に出てくるヒロインのようになれたような気がして、正直少し泣きながらも楽しんでいた。
酷い娘である。
しかし栖衣の夢はパンっ!と音を立てて弾けた。所詮自分はヒロインではない。いいところが脇役Aである。物語に出てくるヒロインのように誰かのために行動を起こしたり庇って怪我をすることなんてできやしないのだ。
栖衣は心の中で「私みたいなのがこんなところにいてごめんなさい・・・」と言ってベットに横になった。
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朝は憂鬱だった。
夢見もよくなかった。内容なんて覚えていないがこの頭の痛みは絶対その所為だと栖衣は思った。
「・・・帰りたいよ」
口に出すとため息が出た。栖衣は普通の子で、あんなに露骨に「ガッカリした。」という態度を取られたことが無かった。
鬱だ。できるならもうあの三人には会いたくない。私に優しくしてくれる人間だけで構成された場所で一生を遂げたい。
バカなことを考えていると栖衣自身もわかっていたが、それほどに栖衣は心を痛めていた。
「あんなにガッカリするなら私なんか呼ばなかったらよかったのに・・・」
世の中にはきっとこんなことになっても私よりも冷静に対応ができて、私より美人で、私なんかとは比べ物にならないくらい王様に対しての礼儀がなっている娘がたくさんいた筈だ。
栖衣は考えてしまったもしもの未来にため息を吐いた。
それにしても、
「ヘレンさんたち、遅いな」
いくら栖衣が夢身が悪くて眠りが浅かったとはいえ少し開いたカーテンから見える朝日は明るく、昨日はこの時間にはもうヘレンは栖衣を起こしに来ていた筈だ。
栖衣は起こしに来ないヘレンに一つの不安を感じた。
「(もしかして、私が駄目だったからもう私は姫じゃなくなったの?)」
いきなり花嫁に選ばれて、子どもを産んで欲しいと言われた時は憤慨して泣いてしまったが、今度の考えで栖衣は顔を青くして寝台にへなへなと崩れ落ちた。
姫じゃなくなった栖衣はどうなってしまうのか?栖衣にはそれは分からない。
栖衣はベットのシーツをかき集めるとギュっときつく目を瞑ってガタガタと震えた。
此処で栖衣が頼れるのはメイド長のヘレンにアリス、ビアンカ、ナタリーに・・・栖衣はそこで数えるのをやめた。
「(全員あの子の部下なんだ!じゃあ駄目だ!!誰も助けてくれない・・・!)」
現に昨日は私があの人たちに何を言われても後ろに立っていた三人は何も言ってくれなかった。
がちがちと歯を鳴らす栖衣はどうすればいいのかとシーツを被って怯えたまま体を震わせた。
自分のことを考えるのに精一杯だった栖衣は背後の扉が静かに開いたことに気が付かなかった。