11匹目
「は、はじめまして・・・」
栖衣が一番上座に座る少年に話しかけることができたのは床に崩れ落ちたメイドのお姉さんたちが次々と部屋に入ってきた兵隊さん(?)によって部屋に出された後のことだった。
栖衣はいきなり崩れ落ちたメイドたちに驚いてハロルドの服を握っていたようだったがそれに気が付いたハロルドがうれしそうな顔をしたのを見てつい離してしまった。
「うん。はじめまして・・・なんか、本当に礼儀を知らないんだね」
「へ」
「あははっごめんごめん別に怒ってるわけじゃないから!」
頭におもちゃのような冠を乗せた少年は自分のおなかを押さえて笑った。
「スイ姫の故郷に王様はいないんでしょう?それじゃあしょうがないのかな。僕は王制の国に生まれて今まで育ったからわかんないけどね」
「あ、はぁ・・・」
「本当はね僕がいいって言うまで顔も上げちゃいけないし声もかけちゃいけないんだよ?ねぇそうだよね?ヴィレム、ミハイル?」
少年は自分の斜め後ろに立つ二人にそう問いかけた。
「えぇ、そうですね。・・・王制ではない国の娘だということをすっかり忘れていました」
先に口を開いたのは若い男の方だった。
「姫の教育はメイド長に任せておこうと思っていましたが・・・それだけで果たして大丈夫なのか、いささか私不安に感じます」
焦茶のツンツンと硬そうな髪とつりあがった朱色の目は凶悪で、服装だけが先ほどクルトが着ていたようなローブ・・・いや、この男の服はまるでゲームの世界で見るような真っ白な神官服だったが、まったく首から上と首から下が合わない男である。
「しかし・・・まぁ、まだ若い女性です。自分は先の姫様を近くで見たことはありませんので比べることはできませんが、いきなりのことで姫様も混乱をしているのでしょう。いつ何時でも最良の自分を見せれるわけではないのですから・・・」
先に口を出した方ではない、少し年を取った方の男は少年に向かってそう言った。
「まぁ、たしかにその・・・少しイメージとは違いましたが・・・」
金髪に碧眼という、王子様のような色合いの男は栖衣の方を向いてそうもらした。
栖衣からすればポカンである。少年も少しどころではなく残念だという顔を隠さずにしているし、その後ろに立つ二人もまた同様。金髪の男性は口では庇っているが想像上の栖衣はどれほどハードルの高い存在だったのか?
怒りはまったく浮かんでこず、栖衣もただ呆然としてしまった。
「魔力は本物だけどね、」
少年はそう言って椅子を降りた。
「明日には正式な発表。二週間後には姫をお披露目。・・・最低でも一ヵ月後には一人目を生んでもらわないと」
こつこつと少年の髪と同じ真っ黒な皮のブーツが床を叩いて栖衣に近づいてきた。
「よろしく、姫」
ヒールを履いた栖衣よりも並ぶと幾分か背の低い少年は栖衣の顔を下から覗き込んできた。
「僕は姫の一人目の夫、エミリオ・サノ・リベラ、ここの王様なんだ。本当はもっと長いんだけど難しいから言わなくてもいいよね?・・・姫は特別にエミリオって呼んでいいよ?」
「よろしく」
そう言って栖衣の唇にキスをした少年王の瞳は栖衣と同じ金色をしていた。