9匹目
「ハロルド!」
後ろから聞こえた声に栖衣は振り返った
「え」
「大丈夫ですか、栖衣様!」
「だ、大丈夫」
振り返った栖衣が見たのはこちらに歩み寄る二人の青年だった
「まったく、偶然人間になる時間だったからよかったものの・・・姫に怪我をさせたら貴方たちはどうするつもりだったのですか」
「悪かった、お前のおかげで栖衣様は怪我しなくてすんだよ」
「ありがとう・・・ハロルド」
「あ、あの・・・」
そのまま会話を始めそうな三人に栖衣は口を開いた
「この人、は?」
受け止めた時のまま栖衣を放そうとしない男性に栖衣は顔を赤くした
「はじめまして、姫」
切れ長の目を細めて微笑んだ男性は、跪くと栖衣の手に口付けた
「!?」
「ハ、ハハハハロルド!?」
同じように顔を赤くしたクルトにアランも笑っていた
「この国の参謀役を任されていますハロルド・グランデルです」
「は、はじめまして・・・私はスイ・サトウ、です」
ハロルドは立ち上がると栖衣の横について腰を抱くと一緒に歩き出した
「ハ、ハロルド!」
後ろからクルトが走ってきた
「栖衣様、に、なにしてるん・・・ですか!」
「なにって・・・エスコートですよ、王のところへ行かれるのでしょう?あなた方より私の方が女性の扱いに慣れている」
確かに、顔は良いが女性より今は軍のこと、というアラン。
半引きこもりで恥ずかしがりのクルト・・・
ハロルドの言うとおりだった
「私も候補者の一人なんですよ」
「え」
「・・・ふふ」
ということは、結局どういうことなのだろう・・・
話の途中で勝手に泣いて、気絶してしまった栖衣にとっては『候補者』の意味が分からない
「騎士団長殿も依存はありませんよね」
「・・・そうですね」
アランはふっと笑った
その顔にハロルドはぴくりと眉を動かしたが、すぐに元の表情に戻った
「(あれ・・・?)」
もしかしてこの二人仲が悪いのかな、
そう思った栖衣だったがすぐにその険悪な雰囲気を消した二人に栖衣は何もいえなくなった
栖衣はハロルドに腰に手を当てられて歩いていた
横を歩くハロルドは線の細い美人だ、髪は深い藍色で肩に掛かるくらいまである
目は・・・
「(・・・あ、アランと同じ色だ)」
そういえば二人って少し似てる?
じっと顔を見すぎたからかハロルドがこちらを向いた
「惚れましたか?」
「え!?あ、いやじろじろ見過ぎてすいません」
「ふふ、いいんです私に興味を持ってくれるなら」
そう言って身を寄せてきたハロルドに栖衣は混乱する
「姫はアランと私、どちらが好きですか?」
ハロルドの問いに栖衣はすっと頬の熱が冷める気がした
・・・この人、別に私に好意があるわけじゃないんだ
栖衣はハロルドの方を見ると笑顔で「二人とも会ったばかりですから」と返した