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敵との間には大きく開けた土地が広がっている。
敵陣地との距離は広く、突撃しようとしても身を隠せる障害物がない以上、無駄死にするだけだ。
突撃できず、高度な作戦もたてられない。ただただ、開けた土地を挟むようにして銃撃戦が行われていた。
それはただの消耗戦で、消耗戦においてはもちろん、人間よりも無人機のほうが有利だ。
だが、この戦場から撤退すれば、敵は安全区域の何処にいてもおかしくない状況になってしまう。事実上、日本の終わりというわけだ。
だからこそ、反乱軍からも貴重な戦車が送り込まれている。
作戦はただ敵を撃つこと。空や宇宙が使えればもっと作戦はあるかもしれないが、俺たちはただの消耗戦をするしかない。
WINDが完全に指揮をしていれば、こんな戦場は生まれなかっただろう。WINDにとっては一般市民、すなわち反乱軍の存在は邪魔でしかない。
バグに関しての情報が一般市民にもれれば厄介なことになる。だからバグの使用は制限される。
そしてナンバー0に関してはバグの使用は完全に禁止だ。
『また一人行動?』
少しノイズが聞こえてから頭の中に直接流れ込んでくる紗奈の声。
「そっちの方が効率的だ」
『孤立の間違えじゃないかしら? まあ、好きにしなさい。体は大丈夫かしら?』
心配されているのか? いや、違うな。
「要件は?」
『その戦闘をできるだけ早く終わらせなさい。そこが終わったら新しい任務を伝えるわ』
どうやら次の任務が決まったらしい。
「最近多いな。そういや安全区域はそろそろ変わったか?」
安全区域とはその名の通り、安全な区域だ。日本地図で危険な区域と安全な区域を分けている。
『日本に安全区域はもうないわよ。西日本も最近あった大規模戦闘で完全に取られたし、北日本も現在進行中で終わるわね。上としても東京奪還作戦前に戦力を削るわけにもいかないだろうし、捨てているわね』
「そうか、じゃあまた」
聞きたい情報は聞けたので、通信を終わろうとする。
『戦闘が終わり次第連絡するわね』
東京奪還作戦か。
二年前にも行われたが、元特殊部隊を集めた偵察部隊が一瞬で壊滅したことにより、作戦は中止に終わっていた。東京奪還が成功すれば日本は立て直せるかもしれない。
スーツケースから折りたたまれた対物ライフルを取り出した。
「風が吹いているな」
地上よりもビルの屋上のほうが風は強かった。
風速、気温、湿度、目標までの距離を計測し、伏せ撃ちの体制をとる。
目標はすべて無人機で、大型のクモのような見た目をした車両には大型のレールガンが積まれていた。
そのほかにもラジコンのように小さい車体にグレネードランチャーや、機関銃が搭載された対人兵器も多数確認できる。どれも似たような種類は存在するが、一つ一つ若干の違いはあり、名前などは付けられていない。似たような見た目だが、全く違う戦い方をする機体も存在しているからだ。
もちろん空にも機関銃をぶら下げたドローンが多数飛んでいるが、反乱軍が使用するレーザー兵器により次々と撃ち落されていく。
日本にあった工場はほとんどが破壊され、ミサイルをはじめとする兵器がとても貴重となってしまった。そこで活躍しているのが、レーザー兵器なのだ。さすがに大型のクモ型無人機には能力不足だが、小型のドローンに関しては効果がある。
「クモ型優先だな」
対物ライフルであの装甲を貫くことは難しい。だが、武器の破壊や移動不能にすることは可能だ。
トリガーに指を置き、自分の世界に入り込む。一番落ち着いたタイミングで息を止めた。
体全体に響き渡る衝撃を感じた瞬間、強烈なマズルフラッシュとともに放たれた弾丸はクモ型ロボットのセンサー部が大破した。
センサーはロボットにおいては目だ。守らなければならない部分だが、守りにくい部分でもある。
なので、厚い装甲を貫くよりも簡単に破壊可能なのだ。
センサーを破壊されたクモ型ロボットは戦闘不能と判断され自爆する。
それを確認し、俺は急いでその場から離脱する。
敵のネットワーク上で撃破された時の情報が駆け巡り、別のクモ型ロボットが、俺がいたビルにレールガンを放った。まぶしい光線が消え、目を開けると上部が消えたビルが視界に映った。
目標は残り五体、反乱軍側に巻き沿い者が出ないような場所を選んでは狙撃、そして移動を繰り返した。
『勝ったぞ!!』
銃声が鳴り止んだ戦場では、勝利を喜ぶ声が響いていた。
「早かったな」
少ししたら紗奈から連絡が来るだろう。それまでは硝煙のにおいを楽しんでいよう。