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「酷い匂いだな」
何かが溶けたような匂いに焦げた匂い、そして腐った匂い。
ここに住んだら数日で伝染病にかかるだろう。
俺は腕に巻いていた布を口に巻くことで一時的な対処をし、メモをポケットから取り出した。
内容は華蛇穴隊の援護及び、一般市民から出た負傷者の救助。
一般市民といっても、武器を持ち、多少の訓練を受けた者たちのことだ。ただ、WINDの司令部が一般市民と呼んでいるだけで、彼らは反乱軍と名乗っている。
反乱軍の中には元軍人や警察官、特殊部隊などのエリートもいるが、汎用人工知能ステラの登場以降、危険を伴う職業は無人機に置き換わっていたため、現役のころの実力とはかけ離れている。
他にも、メモには詳細な情報が書かれていた。そして最後にはお決まりの一文。
なお、この作戦はWINDからの命令であり、ナンバー0はバグの使用を一切禁ずる。
「ここら辺だと思うが……」
メモに記された場所の付近に到着し、周囲を見渡す。
あちらこちらに響く銃声。どこに華蛇穴隊がいるのかなんてわかるはずもない。
ここら辺では頻繁に戦闘が起こっているため、あちらこちらに戦闘の残骸が残っている。
『お待たせ優介。詳しい場所を説明するわ』
ちょうどいいタイミングで紗奈からの連絡が入る。その情報を頼りに急いで戦場へ向かう。
銃声が鳴り響き、建物が崩れ、叫び声が聞こえてくる。何と言うか、帰ってきたという感覚だ。
「華蛇穴隊長はお前か?」
崩れたビルなどの物陰に隠れ、銃撃戦を繰り広げる黒いマントで姿を隠した暗殺者のような奴が五人確認できた。その中で指揮をしていた華蛇穴隊長であろう人物に話しかける。
すると男はこちらを向き、少し嫌そうな顔をしてくる。
「お前はナンバー0か、お前らが来ても足手まといだ。WINDからの命令でバグが使えないだ? ふざけるな。戦場は常に死と隣り合わせだ。本気を出さない奴らなんて戦場にいらない。それに、どうせお前らはバグなんて使えないだろ?」
弾丸を持つ手で俺の方を指さし、すぐにその弾丸をマガジンに詰めると同時に俺から視線をそらす華蛇穴。
「そうか」
面倒くさそうなやつなので、会話を終わらせる選択肢を取った。
「お前らと一緒に戦ったら、こっちが被害受けそうだしな」
目を合わさず、黙々と弾丸を込める華蛇穴。
「それなら華蛇穴隊の援護を華蛇穴隊とは別行動で行うが、それなら構わないか?」
一緒に戦うのが不可能と判断し、いつも通り単独行動を行うことにした。
「ああ、それなら。まあ、勝手に戦って、勝手に死んでくればいい。お前らなんかただのWINDが保護する幼稚園部隊だからな」
何かを言い返すことはせず、その場を後にした。