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空は青く澄んでいて、風は穏やかに吹く。
鳥は自由に空を飛び、海の音は心を休めてくれる。
見渡せば平和が広がっていた。
「ここはいいな……」
その風景を見ていると口からこぼれる言葉……。
俺の声は穏やかに吹く風にさらわれていくような感じがした。
「そうね、けどここに慣れすぎるのもよくないわよ。現実がどちらかわからなくなるもの」
隣に立つ少女の名前は風上紗奈。白銀の長い髪と白いワンピースは風にゆられ、どこか寂し気な赤い瞳は地平線よりも先を見ているようだった。
「命令が来たわ。優介、行ってきなさい」
紗奈は視線をこちらに向け、元気のない声で言った。
平和を感じられるひと時が終わるのは、いつも突然だ。
「紗奈、この戦いはいつ……いや、何でもない」
考えても何も変わらない。
そしてこの島、ユリュシオンは平和な島だ。
そんな島まで戦いの色に染めることはしてはならない。
「この戦いが終わっても、本物の平和は訪れないでしょうね。人は愚かだもの……」
隣で目をつむりながら、メモ帳にとてつもない速さで何かを書く紗奈。その小さな体には日本の未来がかかっているのだ。
「ヘリはもう準備できているのか?」
視界に広がる自然豊かで心地よい青空を見ながら聞く。
「ええ、もう準備できているわ。その他の情報は追って連絡するわね」
紗奈は目を開き、風になびく白いワンピースを押さえながらメモ帳の一ページを差し出してくる。
「ああ、頼む」
紗奈が渡してきたメモ帳の一ページをポケットにしまい、俺はヘリポートへ向かった。