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『それではこれよりオペレーションファントムアリアを第二フェーズへ移行する』
「二班了解」
『三班了解』
「聞いての通りだ。みんな行くよ」
二班を先導するのは二班班長、久井鈴善。
「了解っす」
軽い返事をするのは戦闘経験豊富な頼れる村島。
「私は先輩のみんなに入れてうれしいです!」
鈴善のことを先輩と呼ぶ小さな体をした少女は一〇九五隊に入って間もない李織。
「村島くん、見える?」
鈴善はモニターを取り出し、地図を確認しながら村島に尋ねる。
「周囲には見えないっすね」
班で一番個人戦闘能力が高い村島君のバグは偵察に長けている。
だが、それでも発見できないということは付近に敵がいないのは確か。
やはりおかしい。
「先輩、地面から音が聞こえます」
地面に耳を当て、何かの音を感じ取った李織。
「地面? まさか…みんな退避」
鈴善が即座に屋上へ退避するよう指示を出す。
「待ち伏せの戦場なんて俺ら経験ないっすよ」
経験豊富な村島くんも待ち伏せされていたことは少ない。
「逆に僕らが待ち伏せする側だったからね」
基本的に一〇九五隊の任務はすでに偵察され、情報が十分な状態の戦場で作戦通りに行動することだ。
「おいおい、見たことない無人機だぞ、班長どうする?」
先ほど自分たちが建っていた場所に大きな穴ができ、今まで見たことのない無人機が次々と地上へ登ってくる。
「李織ちゃん、隊長へ連絡できた?」
基本的に班行動をするとき、役職を決める。
今回は李織ちゃんが連絡職だ。
戦闘が起こった場合、即座に味方に情報を伝える必要がある。
だが、戦闘中に連絡できる余裕なんてない。
そのため、連絡中は残り二人だけで戦闘を行い、情報伝達時に誤情報が生まれないように安全な環境を作るのだ。
情報は耳につけられた無線機を使って行うが、隊長からの指示がなかなか届かない。
「それが、無線機が壊れているみたいで」
この無線機はどこかにぶつかるだけで壊れるようなものではない。
そんなにすぐ壊れるはずが……。
「班長、後!」
村島が班長の後ろの陰に気づき、声を上げる。
「考える時間もくれないのか」
後ろからの攻撃を受け流し、一度上空へ高く飛び上がる。
それを察知した無人機が数え切れないほどの弾丸を放ってくる。
即座に安全な区域を探し、バグを使用する。
敵は十二。地上攻撃型が八機。空中に三機。
残り一機は……。
武装していない?
見た目は小型で四足歩行型の無人機だ。
空は飛べないようだが、レーダーのようなものをこちらに向けてきている。
偵察型か?
とりあえず敵の情報は把握した。
「敵は十二、地上攻撃型八機、空中攻撃型三機、残り一機は地上援護型と推測する」
ここは敵の陣地。長期戦をしていては援軍が来て長期戦を強いられる。何より待ち伏せされていたということはこちらの動きが読まれていたということになる。
こんな危険な戦場初めてだ。
「了解だ」
「了解です」
だが、冷静さを保つ二人。このメンバーであれば戦える。
「隊長との通信不可能により、二班は独自の判断で行動する。これより二班は攻撃にもバグの使用を認める。目標目の前、暴れるよ!」
もう誰も殺させない。戦場で判断が遅れれば人が死ぬ。
「了解だぜ班長」
笑みを浮かべた村島はこの戦場に恐怖を感じている様子をなく、逆に楽しんでいた。
「了解です先輩。足手まといにはなりません!」
背の小さい李織も怯える様子はなく、やる気に満ち溢れていた。
新型と戦うとき、深追いは絶対にしてはいけない。
敵の特徴が分かるまでは倒す動きではなく、逃げの動きをしつつ、敵の動きのパターンを探るのだ。
だが、さすがに相手の数がこちらの倍以上なので、囲まれるのも時間の問題だ。
空と地上から正確な射撃をされたら一気に三人がバラバラになる可能性がある。
「空中攻撃型を先につぶしてほしい、こいつらは早い代わりに武装及び装甲を削っていると思うんだ。でも、油断せずに戦ってほしい」
もしかしたらどんな攻撃も効かないかもしれない。敵の情報がない以上、可能性は無限だ。だが、どの科のせいにも注意を払うことは不可能。
ここは今までの経験から生じる勘に頼るしかない。
「了解」
「はい、先輩」
空中の敵は三機。
それらを村島くんと李織ちゃんに任せ、地上の相手を鈴善が行う。
見た目通り、空中攻撃型は簡単に破壊できたため、すぐに二人がこちらの支援に向かってくる。
地上攻撃型は軽自動車ほどの大きさをしたクモ型ロボットだ。見た目は今まで戦ってきたものと似ているが、大きさはコンパクトで、対人兵器を多く搭載している印象だ。
武装及び装甲、スピードなどに特出したものはなく、平均的に戦えて、量産しやすいものとなっている。
「あと三体」
鈴善は対無人機用サブマシンガンとバグを駆使し、次々と敵を倒していく。
村島君はバグを使用し東京の地面に潜むアリとリンクする。
村島君が目を閉じた瞬間、地上からアリの大群が無人機を襲う。
ただのアリだが、アリをなめてはいけない。
集団で無人機の隙間という隙間に入り込み、コードをかじる。
たったそれだけでロボットを戦闘不能になってしまうのだ。
無人機は外見が分からないほどアリに囲まれていて、見ているこちらも気分が悪くなる。
「多分これで全滅っす」
「村島くんはいつも仕事が早くて助かるよ」
「でも、支援型の奴は姿が確認できませんでしたが、まだ付近に入ると思います」
「そっか、武装はしてなかったけど、不意打ちには気を付けよう」
「それで先輩、先ほどと同じ空中攻撃型5機が増援としてきましたがどうしますか?」
その時だった。
『……こち…班……応答……応答して……』
ノイズがひどく内容は応答してくれとしか聞き取れない。
「二人は敵を撃破、逃げていくようであれば深追いはしないように」
敵は二人に任せ、隊長に連絡を試みる。
「こちら二班、多数の新型を確認、敵は地下に潜伏している模様、指示をお願いします」
だが、それに対しての返答は帰ってこなかった。
どうしてこんなに通信状況が悪いんだ?
「隊長どうですか?」
李織が戦闘を終え戻ってきた。その後ろには村島もついてきていて、とりあえずは落ち着ける。
「やっぱり通信はできないみたいだね。敵は?」
「三機は倒しましたが残りは逃げられました」
李織はきれいな姿勢で敬礼をし、質問に答えてくれた。
「そんなに固くなくていいよ」
「それで班長、これからどうする? 敵は新型だが能力は特出したものはない。俺たちの班で東京を掃除するか?」
「いいや、三班と合流するよ。敵に僕たちの情報がばれているようだし、班長達と通信ができない以上、現状は孤立していると考えるべきだ」
撤退命令が出ても情報が来ないし、ここは合流するべきだ。
「メッセージ機能は使えないのか?」
「試したけど、エラーなんだよ」
メッセージ機能とは味方の情報が映るモニターを使用するものだ。
モニターにはほとんど使わないが文章を仲間に送るメッセージ機能もついている。
だが、それも先ほどエラー表示が出た。
エラー内容は確認していないが、ここで治るようなものではなさそうだ。
「先輩、なんで三班なんですか?」
現在二班と一番近い班は一班、さほど距離は変わらないが三班が一番遠いい。
李織ちゃんはそれに疑問を抱いているのだろう。
「一班がどうやら三班と合流しようとしているみたいなんだよね。だから、二班も三班に合流する」