子羊な君と狼の僕
初投稿です。
何も考えずに書いたので物語としてなっているかは分かりませんが読んでいただけたら嬉しいです。
カロライナ家の令嬢。レイチェル・カロライナは呪われた子だと噂されていた。
6歳のころ。ピクニックで行った花畑で私は彼と出会った。
その子は一言も喋らなかっけれど、私はじっと見つめてくるその瞳に吸い込まれそうになった。
彼には三角の耳が生えていて、モフモフの長い尻尾もあった。
みんなは彼のことを「醜い獣」と罵った。
でも、私にはそうは思えなかった。真っ黒でサラサラの髪、月のように光る瞳。そしてとても整った顔。彼ほどの美少年は見たことがなかった。
「私がこの子の飼い主になる。ちゃんと躾けるし、首輪もずっと外さないから。」
両親は最初は拒否したが愛娘のレイチェルがあまりに必死にせがむのでしぶしぶ承諾した。
「‟リードを外さない”とは言っていないのだけれどもね。」
彼はとてもおとなしい。24時間ずっとリードをつけられているのに顔色一つ変えない。ただ、彼はリードを外すととても不満気な顔をする。不思議だ。獣人の気持ちが分からない。・・・いや、彼の気持ちが。
「そういえば。名前が必要ね。」彼と過ごして一週間目。やっと気が付いた。
「あなた。ここに来る前は名前があったの?」問いかけても見つめてくるだけだ。
「まったくもう!あなたも人でしょう?何かしゃべったらどうなの!」
その瞬間。彼の耳がピンッとはねた。そしてさっきよりもじっとこちらを見てくる。
「人・・・?」彼の声を初めて聴いた。透き通るような声。
私はハッとして「そ・・そう!」慌てて返事をした。
「・・・ない。」「・・・だったらこれはどうかしら。」
「ルナよ。」
「・・・女子みたいな名前。」「違うわよ月!あなたの瞳は月みたいに綺麗だからルナなのよ。」
「不満?」そう聞くとルナは大きな瞳を見開いて、「・・・うれしい。」といった。「よし!決まりね。」
「私のことはレイでいいわよ。改めてよろしくね。ルナ!」
気のせいかな。ルナの口元が少し笑った気がした。
「私はレイチェルよ。レイチェル・カロライナ。」
彼女はとても美しい少女だった。
まるで天使のような、純粋な羊のような。
雲のようにふわふわな白い髪とルビーのように赤い瞳。
今まで見たどの人間にもいなかった。
なにより自分を人として見てくれた。後で聞いたら「だって獣人は耳以外人間とまったく同じじゃない」だって。
思わず笑ってしまった。
獣人は昔から人間たちから卑下の目で見られてきた。人権の無い僕らは殺されたり、奴隷にされたりする。
昔一緒にいた仲間に教えてもらった。人間には捕まるな。と捕まったら何をされるかわからない。
いつだって人間の噂を聞いただけで心臓が止まりそうになった。
そんな環境で育ってきた僕にとってレイチェルは天使に見えた。
獣人だからかは分からないけれど、首輪をはめて繋げられるととても安心する。あ。変な意味じゃないよ。
僕の中でレイチェルは全てだ。誰にも汚させない。奪わせない。守り抜く。幼心にそう誓った。
ルナが最近よく喋るようになった。それだけではなく話しかけてくれるようになった。最初の頃は私が話しかけないと言葉を発さなかったのに。それでも返事はたまにしかしてくれなくて、ほとんど首を振るだけだったけど。
「変わったなあ」ポツリとつぶやくと「・・・何が?」普通の人には聞こえないつぶやきにルナは返してくれた。
「ん?ルナの事よ。」「俺・・・」思い出そうと目をぐるりと回したルナの仕草があまりに可愛くて少し笑ってしまった。
「なに・・・」ルナは馬鹿にされた思ったのか少し目を細めた。
「ううん。何でもないよ。変わったってのはルナのことでね、最近はよく話しかけてくれるようになったなあって思ったの。」
「・・・そんなこと・・・ない・・よ・・・」
ルナは照れているのか少し耳をうなだらせた。
「もう明後日だね。」
「ええ。そうね。4月にはもう学園に通わなくちゃならないわ。」
3月の終わり。レイとルナはせっせと学園に行く準備をしていた。
「まったく。困るわ。結婚をしていない貴族は必ず学園に通わなきゃならないだなんて。学園なんて通うとと不自由が多いのに。」
「自分のベットじゃないと寝れない。」
衣類をタンスからベットへ運んでいたルナが横から顔を出した。
「そう。」
「癖が強い天然パーマのセットはお世話係のメイドがいないと大変。」
往復する間に繰り返す。
「そうそう。」
「たまに魔法がコントロール出来ずにあふれ出て物を壊す。」
「そうよ・・・」
「それが一番困るのよ。」
「初めて見たときは驚いたでしょう。廊下の窓が全て割れていて床は凍っていて。」
「驚いた・・は驚いたけどそれほどじゃ無かった。前にレイから聞いていたから。」
「聞いた?いつ?」
「え・・ほらあの時だよ。9年前。」
「あなたたち獣人に魔力はあるの?」
自室でせっせと課題をとこなしていたレイチェルは思い付きで聞いた。
「・・・いや。ないよ。でも身体能力は普通の人間と比べ物にならないくらいあるし、ある意味それが獣人の魔力なのかも。」机の下で大人しく座っていたルナは突然の質問に丁寧に答えてくれた。
「ふうん・・・」
レイチェルはペンを小さな顎に当てて考えるような素振りをした。
「レイには魔力があるの?」
「あ。私は・・・ていうか貴族に生まれただいたいの人間には魔力があるわよ。」
「それに私の家・・・カロライナ家にはチートな魔力を持った人が大勢いるわ。」
ルナはチートって・・・貴族の令嬢が使う言葉じゃないよ。と思ったけど黙っておいた。
「レイの魔力は?」
「あー・・・基本何でもできるわ。」
「・・・へ?なんでも?」
ルナの金の瞳が見開かれた。
「風も光も火も水も氷も全部ね。でも。私だけコントロールができないの。」
「?どういう意味?」
ルナはレイチェルの顔を覗き込んだ。
「えっとね・・・家族の中で私だけ白髪に赤眼でしょ。お母さまは綺麗な金髪に透き通るような青の瞳で、お父様は龍のような銀の髪と瞳なのに。あ。あとお兄様は白銀の髪に青い瞳よね。
みんな綺麗な色をしているのに、私だけ気味悪いわ。髪は老婆のように白くて瞳は血のように赤い。おまけに死人のような肌。呪われた子だって、みんなに噂されているもの。」
「!そんなこと・・」
「いいのルナ。」
レイチェルはルナの言葉を遮った。
「だからね。私一人だけ何故かコントロールができないのも私が呪われているからなのよ。」
「これから先、何を傷付けるか分からない。」
ルナはレイチェルを見つめたまま眉をひそめた。
「あぁルナ。そんな顔しないで。」
レイチェルはルナの白い頬を撫でた。
「ちょっと話が重かったかしらね。」
レイチェルは歯を見せて笑った。
「・・・ないよ。」
「え?」
「レイの髪はわたみたいに白くてふわふわだし、瞳はルビーのように輝いてる。肌だって雪のように透き通ってる。」
「え・・・」
「とても・・・えっと・・・なんて言いたいのかっていうとね。レイのことを呪われた子だなんていう人はレイの容姿があまりに綺麗だから嫉んでるんだよ。本当に、まるでお人形さんみたいだから。」
「ル・・・」
「それに僕の方が気味悪い。『悪魔の黒い毛と不気味な金の目』ってたくさんの人から言われた。」
「・・・」
しばらく二人の間に沈黙が流れた。
沈黙に耐えられなくなったルナはレイチェルを見てギョッとした。
「何でそんな顔してるの・・・」
「・・・誰かさんが・・私が思ってるのとまったく真逆のことを言ったから。」
「・・・へ?」ルナはきょとんとした。
「不気味じゃないわよ。全然。黒い毛の人はとても珍しいけれど私ほどじゃないでしょ。それに私の髪は羊みたいにクルクルで絡まるの。ルナのサラサラな髪は正直とっても羨ましいわ!それに瞳もね。とっても綺麗だと思うわ。私前にいったのだけれどもしかして忘れちゃったの?‟ルナ”!」
「・・・月」
「あら。やっぱり覚えてたんじゃない。‟あなたの瞳は月みたいに綺麗だからルナなのよ。”」
「・・・あり・・ふっ。」
ルナのお礼を言おうとした口の端はこらえきれずに上がった。
「あら!失礼!」
「ちが・・・褒めあってるのがおかしくて・・・」
ルナは苦笑した。
「まったくルナったら!」
レイチェルはルナのことを軽く叱ったあと、ひどく安心した顔をした。
「なんてことも合ったわね。」
「ね。」
「あの時は本当に嬉しかったわ。」
「俺も。」
「あーあー・・・あの時のルナは本当に可愛かったのに・・」
「!い・・今もレイチェルの言うこと聞いてるし・・・ちゃんとしてる・・・」
「そういう意味じゃないわよ。昔は私より小さくて細かったのに今では私の何倍も大きいじゃない。」
「えっと・・・何㎝だったかしら?」
「20・・6㎝・・・だったと思う。」
「ああもう。有り得ないわ。獣人は本当にみんな大きいわよね。私ルナと話してると首が痛くなってしまうわ。」
「レイが話してる時はちゃんとおすわりしてる。」
「二人で話してる時は別でしょ。」
「・・・気おつける・・それに・・レイが小っちゃすぎるんだと思う・・」
「・・・言わなくていいこと言わないで。」
レイチェルは自分の背が平均より低いことをとても気にしていた。
「だ・・大丈夫。148㎝なんて男の人から見たら小さくて可愛いと見られるだけだから!」
ルナは急いでフォローを入れたが身長を言われたショックがさらにレイチェルを沈ませた。
「ルナありがとう。お願いもう何も言わないで。」
「はい・・・」
「まあいいわ!続きもちゃちゃっとやっちゃいましょう!」
「了解。」
二人の出会いから9年。15歳になった二人の、学園生活が始まろうとしていた。