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001、お題:『エルフ』+『税制』

「ジャックポット!」


 周囲で様子を伺っていたエルフたちが沸き立つ。

 その中心にいた一人が、ふへへへ、と笑い、そして、声が響く。

 この場所、カジノ、と言うには、きらびやかさがない。


 熱気という意味では、王都のカジノにも引けを取らないが、空気感はアミューズメント施設ではなく、賭場という感じが強い。そう、ここはエルフの森というイメージに不釣合いの、非合法違法カジノだ。


 普段なら、静謐な森の空気とはまるで違う空気に飲まれて身を持ち崩すエルフたちの阿鼻叫喚が繰り広げられるこの空間。今日、そこを占めているのは経営者側の人間種族とドワーフ族の歯ぎしりと苦悶の声だった。


「ふへっへへ」


 いやらしい笑みを浮かべているのはエルフの少女……いや、他の種族にはエルフの年齢を外観から判断することが難しいので表現として適切かはわからない。しかし、人間種族であれば正規のカジノに入場すらできなそうな外観の女の子をそれ以外の表現をすることは難しい。


 少女は、笑う。

 それは大損に心が壊れたのでは、もちろんない。


「そろそろ、底も見えてきましたかね?」


 彼女の前に積み上がってる賭場のメダルは彼女の一人勝ちを示している。


「続けられるなら続けましょう……続けられなくなるまでっ!」



 この賭場の仕組は簡単だった。はしっこい人間族と手先の器用なドワーフ族が組んでやっていたことはいくつもの仕掛け。通常の賭場よりも控除率を良くすることで一見の公平性というか、お得感を増やしておきながら、実際にはドワーフの技で作ったイカサマ道具を人間が運用し、ここぞというところで大金を巻き上げるというシステム。


 賭場の文化にすら慣れていないエルフたちがイカサマに気を払っていなかったからこそ、そういった方向の仕組みを作ったのだ。

 だが……。


「ふへへへへ、わるいことしちゃあいけませんよぅ」


 人間族の都であればスクールも卒業していないであろう少女。彼女はいわゆる、ハーフエルフ、エルフの母親と狼男の父親を持つ一風変わった生まれである。そのためかは定かではないが、彼女は旅を好み賭場についての経験もあったし、人懐こく整った容姿の彼女は旅の友となった人々からも秘密の話として沢山の表に出ないような話も訊いていた。


 つまり、エルフの里にいるのが珍しいほど人間たちの世間についての常識を弁えたエルフであったのだ。

 そして、この場にあったイカサマの種は簡単だ。


 カードは知っていなければ見分けられない程の微妙な凹凸とエルフには見分けにくい色覚的盲点とでも言うべきところをついた柄による透視もどき。そして、ルーレットはある程度狙った場所に止められるようなギミックだ。


 凹凸については、同じネタを旅の途中で訊いたから看破できたが、色の見分けは彼女に入った狼男の血だろう。赤を見分けるのは得意なのだ。


(かかかかかかかか、ぎ、ぎぎぎ。っと)


――耳だ。


 聴覚的特性が彼女にルーレットの回転音を聞き取らせた。狼男だけでも、エルフだけでも聞き取り難い音は、木彫の音を聞き分ける特性と、細かい音の粒を聞き取れる狩人としての狼の特性が組み合わさって聞きほどかれる。


 詰まりは裸。

 それどころか……。


(んんー、お役所仕事ですねぇ)


 こちらがイカサマに気づいたことには気づいているのだろう。

 慎重になのか、マニュアル通りなのかはわからないが、イカサマを使うのをやめた。


 とはいえ、カードは交換するのもさほど怪しげでないとはいえ、ルーレットを交換するというのは難しいらしく先程のものをそのままに使用している。それがつまりどういうことかといえば。


(偏るし、音で傾向が分かるってことです)


 普通なら警戒の必要もないことであろうが、彼らは何らかの方法でイカサマに気づいたと、そこまでを推測しておきながら、対策を徹底しなかった。


(中途半端な戻り足なんて、食いつけと言ってるようなもんだと思うんですけどねぇ)


 簡単な話だ。この賭場を経営している者たちは、ギャンブルという仕組みを搾取のための仕掛けだ、とみなしている。

 詰まりは商売の道具であり、目の前を通るだけの品物として扱っているだけだ。


 愛もなければ理解しようという気もない。

 それこそ巻き上げる寄す処こそ違うものの徴税人のようなものとしてこなしてしまっている。


 それはそれで適切な省力化ではあるが、つまり、職人ではない、ベテランではない。

 総じて言えば、賭場を開いている側にもかかわらず、ギャンブラーがいない。


――結果。


「引き際くらいは決めたほうが良かったのでは?」


 なんとなく、玉入れをしている人が変わっていたが、特に目を見るものもなかった。

 最初に勝たせて、行けそうな感じを出せば、その人に固執して結局ずるずると巻き上げられるそんなことの繰り返し。


(これって、賭場の側がやることじゃないのかなぁ)


 初心者に少し勝たせてあとでじわじわ回収する、というやつだ。

 後半は、こちらこそ作業のようになってしまったが、最終的には、ほぼほぼ、オケラになったのではなかろうか?


 ディーラーが次々変わったのも良くなかったのだろう。

 責任の所在が分散し、どれだけ負けているのかを冷静に見れる相手がいなくなったのだ。


(いや、ギャンブル初心者じゃないんだから)


 ずるずると負けがこんで、一発逆転にかける。

 それはそれでひりひりするだろうが、そも、行けそうな気がする、と思った時にその勝ちの理由が理解できていないでは駄目だろう。


 運否天賦というのは何処まで行ってもつきまとうが、天運ですべてが構成されているわけではない。

 むしろ、九割方を固めた上で、残りで鎬を削る分をしてこそ天運というべきだろう。

 何処かの宗教家いわく、天は努力せぬものに微笑まぬ、と。


――まぁ、勝ったところで面倒事は残るのですが。


 ちらと見る。

 羨望と、期待と、救い主を見るような目のエルフたち。

 焦燥と、絶望と、死に神を見るような目の人間たち。


 腹の中でため息を吐いて、面倒事を解体しに行く。

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