5/5
……終わりはいつだって唐突にやってくる。いや、終わりではなく、始まりと表現すべきなのかもしれない。物事というものは、始まりの前に、必ず何かしらの終わりがあって、時間が流れる限り、絶えることなく、幾度も繰り返されるものなのだから。例えば――51年前、私がここにやって時がそうだったように……。
まぁ、その話は置いておこう。今は目の前の出来事に集中すべきだと思う。……何が起こったか?春になって、雪が溶けて……私の根城であるトンネルへと、町から人々がやって来たのだ。
それも、肝を試そうとする若者たちではない。……重機。それがここに来たということは、このトンネルも道も、まもなく新しく生まれ変わる運びにあるということなのだろう。
トンネルの外で、町から人が来ないかを警戒しておった私は、その姿を見た途端、思わず固まってしまった。この土地を所有しておるわけではなく、勝手に住み着いておるだけの私にとって、彼らの来訪は、即ち立ち退きを意味しておったからだ。否が応でもこの地を離れなければならんのだ。気に入っておったこのトンネルを……。
「もう、ここにはおれんのか……」
……坊主が磨いた壁や天井、坊主によって敷き詰められた地面の石、坊主のお陰で最近少しだけ賑やかになった我が暮らし……。それらが一斉に頭の中に浮かび上がってきて、私の思考を停止させた。
だが、それも短い時間のこと。
「そ、そうだ!坊主は?!」
今日もトンネルの中で掃除をしておるだろうハゲ頭のことが、ふと脳裏を過って……私はハッと我に返った。
その瞬間、私は走った。坊主になんと伝えれば良いのかまったく整理できていなかったが、とにかくあやつに会って話をせねばならんと思ったのだ。……逃げろ?いや違う。戦え?これも違う。別れの言葉?……多分、違う……。
トンネルにたどり着くまでの間に、何か思い付くだろう……。そう考えながら私は走ったが、焦っていた頭では、結局、何も考え付かなかった。……はぁ、仕方がない。あの頭をひっぱたいてやろう。
自分でもなぜそう思ったのかは分からないが、そう決めた私は、トンネルの中へと足を踏み入れた。
するとそこには、私よりも先に、一部の重機や町の人間たちが入り込んでいた。
坊主はどこだ?――いた!あやつ、必死になって、町の連中を説得しようとしておる。……悪霊がいる?いや、私は霊などではないぞ……。
そんな坊主の説得が聞き入れられるはずもなく……。町の人間たちは、あやつのことを、浮浪者か変人だとでも思っておるかのように、まるで視線を合わさず、取り合おうともしなかった。
そのうちに、町の人間たちは、坊主のことが煩わしくなってきたのか――
ブロォォォォン!!
――と重機を動かして、強制的に立ち退きを迫ることにしたようだ。
しかし、坊主は、それでもそこを動かない。そればかりか、地面に座り込み始めた。……あやつ、私よりもこのトンネルを大切に思っておるのかもしれん。私は最悪、ここを離れて、別の地に行っても良いと思っておるというのに……。
その事を伝えようと、坊主のそばに近寄ろうとした――そんなときのことだった。
ブロロロロォォォォ……!!
トンネルの中を、けたたましい音がこだまする。あまりにうるさすぎたために、頭が割れそうで……そのせいで、いま目の前で起こった出来事が事実なのかどうか、私には良く分からなかった。動き始めた重機――ロードローラーと地面との隙間に、坊主の姿が消えていったという出来事が……。
「あああああ……」
それ意外に言葉が出てこなかった。
「ああアアア……」
一つ音を発する度に、自分が壊れていくのを感じる。
「アアアアア……!」
あああああああああああああああアアアアアアアアアアアアアアア!!!
……そして、次に気付いた時には誰もいなくなっていた。残っていたのは、凍りついた重機、冷気に包まれたトンネル、そして冬に逆戻りしたかのような猛吹雪だけ……。町の人間どもは、逃げ帰っていったのだろうか?
「……寒い」
冷たさを感じない私が、寒いと感じることなどあり得んはずなのだが、今はとにかく寒い。なぜ寒いのだろう……。意識も段々と薄れてきた。
これが死なのだろうか。それとも単に眠いだけなのだろうか……。そう考えておるうちに、視界が闇に包まれて、そしてついに寒さすら感じなくなる――その直前のことだった。
「……経はご入り用ですか?」
私の耳に、そんな声が入ってくる。
「……いらん。人ではない私に、経など無意味だ。それより、自分に対して唱えておいたらどうだ?この……生臭坊主!」
顔を上げたら憎らしい頭があったので……それを思い切りひっぱたいてやった。